1日目「普通だけど普通じゃない」
「やばぁぁぁぁい!!遅刻するぅぅぅぅ!」
並人の住む平崎家では、朝の七時過ぎから絶叫が響いていた。
「あれ?奏太(かなた)お兄ちゃん、起きてくるのいつもこの時間じゃなかった??」
「違ぇんだよ、今日はバンドの朝練があるんだよ!やっと音楽室の朝練枠もぎ取ったのにー!!」
大慌てでそう伝えている、及び先程の絶叫の主は「平崎 奏太(ひらさき かなた)」。
平崎家の長男であり、現在高校三年生。
「じーにあす」という名前のバンドを友達と組んでおり、ギターボーカルを務めている。
吹奏楽部や合唱部との朝練で使う音楽室争奪戦にやっと勝利し、一週間ほど使えることになったのに初日からこの体たらくである。
「あああ急がないと!!母ちゃんお弁当頂戴!俺もう行くわ!行ってきまーす!!」
母からお弁当をひったくり、嵐のように去っていった兄を見送った並人は、机に向き直り、朝ごはんのピーナッツトーストをかじった。
「しっかし兄ちゃんは朝からバタバタしてるねぇ~」
そう呑気に呟き、オレンジジュースを飲んでいるのは平崎 健太郎(ひらさき けんたろう)。
平崎家の次男であり、現在高校一年生。
スポーツ万能でサッカー部のエースだが、勉強の方はからっきしである。
今日は朝練がないのでのんびり朝ごはんを食べている模様。
「健兄だって人のこと言えないでしょ……」
ジトっとした瞳で兄を見つめながら、白米を口に運んでいるのは平崎 秀一(ひらさき しゅういち)。
平崎家の三男であり、現在中学二年生。
成績が非常に優秀な優等生であり、常に学年トップクラスの頭脳の持ち主。
神経質で繊細な性格のため、度々兄と喧嘩することがある。
「お兄ちゃん、あんなに走って大丈夫かなぁ…」
兄を心配しつつ、イチゴジャムトーストを食べているのは「平崎 愛湖(ひらさき あこ)」。
とても可愛らしい顔立ちをしていて、周囲から「天使」と呼ばれ溺愛されている。
思いやりのある優しい性格をしているが、実は兄より賢い所がある。
「まあ、奏太お兄ちゃんはそそっかしいから、どっかでコケたりしてそうだけどね…。ご馳走さまでした。」
並人は食器を下げ、奏太が荒らしていったであろうびしょびしょの洗面所で歯を磨いた。
そして身支度を整え、お気に入りの猫のキーホルダーがついた黒いランドセルを背負った。
「それじゃあ、行ってきまーす!」
並人は元気に叫び、自信の通う「森山小学校」へと向かった。
「Good morningナミト!」
四年 一組のクラスメイト、和泉 アラン(いずみ あらん)が、並人に元気良く挨拶をした。
アランはアメリカ人と日本人のハーフであり、英語も日本語も話せるバイリンガルなのだ。
「おはようアラン君!昨日の算数の宿題やった??」
「やったヨ!もうすっごく難しかったよネ!」
「本当本当。僕も結構時間かかっちゃった💦」
他愛もない話をしていると、二人の所に「女王様」が現れた。
「全く情けないわね!あの程度の宿題で手こずっていたの?」
そう言いながら登場したのは、四年一組の「女王様」こと「財前 姫華(ざいぜん ひめか)」だ。
お金持ちのお嬢様でありわがままで高飛車な所が目立つが、実は努力家で芯の強い性格をしている。
「ひ、姫華ちゃん…姫華ちゃんは、あの宿題簡単だったの?」
「あったり前じゃない!あのくらい簡単に出来なきゃ、財前家のお嬢様失格だわ!」
得意気な顔をする姫華を見て、二人は「ほえー…」と感嘆の声を漏らした。
「ヒメカはすごいネ!Amasing!」
「だねぇ。流石姫華ちゃん♪」
「!ふ、ふん!当然のことよ!//」
思ったよりも褒められ、姫華は少し顔を赤くする。
「…あ!もうそろそろチャイム鳴るよ!!」
並人は時計を見て、そろそろ予鈴の時間だと気づいた。
「oh!本当ダ!」
「席に戻らないと…今日もあたしの素晴らしさを見せてあげるから、その目に焼き付けておきなさい!!」
二人が席に戻ったのとほぼ同時に、朝の会の時間を知らせるチャイムが鳴った。
「はーい、皆おはよう!朝の会始めるぞー!」
担任の速水 蒼汰(はやみ そうた)先生が教室に入ってきて、クラス全体に呼び掛けた。
並人の一日は、まだ始まったばかりだ。
朝の会が終わり、一時間目と二時間目は続けて図工の時間だった。
今は水彩画を制作していて、並人は花壇に咲いた花を書いた。
中休みには校庭でアランたちとサッカーをして、三時間目は算数、四時間目は国語だった。
姫華の算数の宿題は全部正解だったらしく、先生に褒められていてとても嬉しそうにしていたという。
今日の給食はご飯と味噌汁とほうれん草のおひたし、そして焼き鮭。
和食好きな並人は喜んで食べ、おかわりもした。
昼休みは図書室で借りた本を読み、五時間目は英語。ちなみにアランはほぼ先生の立場らしく、英語の時間にはヒーローになる。
六時間目は総合の時間で、学級新聞をクラスのみんなで作成した。
その後帰りの会をして、友達と一緒に下校した。
…学校での生活はこのようにごく普通に見えるが、実は普通ではなかった。それはまた別の話。
「ただいまー!」
並人は玄関のドアを開け、中にいる母親に言った。
「おかえり並人!もうすぐ晩御飯出来るからね。」
平崎家の母である平崎 梨香子(ひらさき りかこ)は、台所に立ち鍋をかき混ぜていた。
梨香子は平崎家最強の生物とされていて、普段は優しいけれど怒ると物凄く怖い。なので彼女には誰も頭が上がらない。
「わあ、今日の晩御飯なぁに?」
「今日はカレーライスよ!並人たち大好きだものね♪」
「!わーい、やったぁ!」
並人は大好物のカレーを前にしてぴょんぴょんと跳ねる。
すると、玄関から聞きなれた兄妹たちの声が聞こえた。
「ただいまぁ…わあ、いい匂い♪」
「今日カレー!?よっしゃー!」
「マジか!大盛りにしよーっと!俺お先ー!」
「ん、いい匂いがする…ってちょっと健兄!汗まみれの靴下で僕の足踏まないでよ!💦」
奏太たちがちょうど帰ってきて、四人でわちゃわちゃと喋っていた。
「全くもう、奏太たちは本っ当に騒がしいわね。」
梨香子は呆れながらも幸せそうに笑い、皆のお皿にカレーをよそった。
「本当だね。とっても賑やかだ。」
並人はそう相づちを打ち、テーブルにスプーンを並べた。
「ねえ聞いてよ並人、今日俺朝練間に合ったんだけど、途中で吹奏楽部が……」
「そうだ、今日俺サッカー部でね…!」
「僕、今日学校の小テストで……」
「お兄ちゃん聞いて聞いて!今日愛湖ね、学校で…」
リビングに来た四人が一斉に話しだし、並人を取り囲んだ。
「あわわっ、い、一度に言われても分かんないよ💦」
「はいはい分かったから、まずはご飯を食べましょう。みんな席について!」
『はーい』
梨香子の一声で、五人はそれぞれ席に着いた。
「それじゃあ、いただきまーす!」
『いただきまーーす!!』
こうして、今日も平崎家の夜は更けていくのだった。
並人の騒がしくも楽しい日々は、また明日も続いていく。
並人くんの騒がしい日々 ぴよみ @kkym_piyopiyo
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