第34話【セーブデータは消さないで】

「幻惑……そうか、フィールと戦ってた時のあれ、それだったんだな?」


「見てたんだね。確かにそうだけど……それがわかったとして、本物を見破れるかな? 【分身】!」


 以前、フィールを惑わした数十人のベル分身体。

 【幻惑】により分身体はさらに倍以上に増えて見え、視覚的な違いはパッと見だが皆無だ。


「ぜんっぜん、わっかんねぇ……ってことで、悪いがゴリ押しさせてもらうぜ――!」


 そんなことを言うと、ソラは馬鹿正直に真正面から突撃した。

 だが、単なるゴリ押し突撃ではない。明らかに先程よりスピードが増している。


「全員ぶちのめすッ!」


「やれるもんならやってみなよ!」


 こちらに向かってくるソラの脳天に鉛玉を撃ち込むべく、引き金を引く。

 しかし、動きを読まれた気配もないのにソラは弾丸を避けてみせた。


 引き金が引かれ、弾が発砲されたのを確認してから回避など普通は間に合うはずない。

 これがソラが使用した、バウムの【幻手ゲンシュ】と同じエクストラスキル。【神技シンギ】だ。

 その後も次々と放たれる弾をソラは的確に避け、ベル分身体を斬って消滅させていく。

 【幻惑】はバウムの【幻手】とは違い、実体を増やしているわけではなく、ただそう見えるだけの正真正銘のまぼろしだ。

 攻撃して偽物だと判断出来れば、そのまぼろしは消えてなくなる。


「撃ってから避けられるの反則でしょ!」


「どの口が言う!!」


 尚も分身体を蹴散らしていくソラに、諦めず銃を向け、弾を撃つ。

 偽物の弾、本物の弾、その全てを見極め、やはりソラは一発も当たることなく着々と本体へ近付いていた。


「本物はそこだな、ベル! 【フロストチャージ】!」


 【フロストチャージ】――このスキルは長時間属性を付与出来るエンチャントとは違い、短い間しか属性を付与出来ない。

 代わりに、チャージと言うだけあって微量ながらダメージ量を増やす効果もある。

 ソラが数ある属性の中で氷属性を選択したのは、状態異常で行動速度を低下させるのが狙いだ。


 氷剣の刃が振るわれ、【神技】により上昇したスピードに遅れをとったベルは回避も間に合わず、氷が弾けるエフェクトと共に斬られた。


「追撃行くぞぉぉ! 【神技・大地切断】ッ!」


「――【絶対回避】!」


「……それも予想済みだ!」


 するとソラは発動したスキルを中断し、回避先のベルに向かって冷静に剣を突き出す。

 その刃に光が集束する様は、剣ならざる攻撃が予想された。


「【神技・煌閃コウセン】!」


「まだまだ! 【テレポート】!」


 ……その時、ベルはソラの思惑を理解した。

 【神技・煌閃】などと発言したソラだが、剣から光が放たれることはない。フェイクだ。

 本当に発動されていたのはただ光属性を付与する【ライトチャージ】で、ベルに聞こえない声量で発動したのだろう。


「これで回避系のスキルはしばらく使えないな……【神技・大車輪】ッ!!」


 回避スキルを全て使わせるという、ソラの作戦に見事に引っ掛かってしまったベルは数十秒間、自力でソラの猛攻を避けなくてはならなくなった。

 ようやく発動された【神技・大車輪】は、【神技】の効果発動中に派生出来るスキルで、回転しながら薙ぎ払う超広範囲攻撃だ。こっそり発動されていた【ライトチャージ】の効果も合わさり、ベルのHPでは当たれば即死も有り得るダメージになるだろう。


――しかし、やられっぱなしではいられない。

 空を斬りながら横に数回薙ぎ払われるソラの剣を、まずバックステップで回避する。

 さらなる追撃は体を大きく仰け反らせ、胸に刃が擦れそうになるほどギリギリで回避してみせた。


「――――ッ!」


 回避直後、ベルは仰け反りから起き上がることなくその場に倒れ、三撃目をやり過ごす。

 だがそのまま寝ている暇はなく、拳銃を上に構えてソラを狙うも、すぐに振り下ろされた剣を転がって避ける。


「結構粘るな、でもこれならどうだ? 【神技・絶断ゼツダン】ッ!!!」


 さらに派生し、光を吸収して黒刃となったブラックホールを思わせる剣が力強く振るわれ、周辺に残っていたベルの分身体数人もろとも叩き斬る。

 地が割れ、轟音と砂埃が舞う中、ソラは勝利を確信していた。


「ふぅ〜……ってあれ? 勝者コールは……? ッ、まさかまだ!?」


 気づいた頃にはもう時すでに遅し。

 叩き斬ったことで破壊された地面に、プレイヤーの死亡を意味する人魂はどこにもなかった。


「――【テレポート】したとき、それが本物の私じゃないって少しも思わなかった?」


「……っ!?」


 【テレポート】――自身や相手を一定範囲内の好きな場所に転移させるスキル。

 緊急回避手段にも用いられるが、ベルは転移直後に姿を眩ませ、既に数が減らされ再召喚が可能となっていた分身体を、あたかも『たった今【テレポート】して現れました風』にしてソラを騙したのだ。


「たっっはぁぁぁ……俺の判断ミスだな。中学ん時と同じだ」


「あいや……それは、ごめんね、ホント」


「いや、こっそり学校にゲーム持ってきちまった俺が悪いし……それを机の上に忘れて帰るなんて馬鹿なことしたんだ。自業自得だ……。でも、もう……頼むからセーブデータは消さないでくれ!」


「……はい、本当に申し訳ありませんでした!」


 そうして、ベルは謝りながらソラの後頭部に突きつけていた拳銃の引き金を引いた――。

 発砲音が木霊して、ソラの体は人魂と化す。


「勝者! チーム《B.B》ぃ〜〜!!! いやぁ、楽しませて頂きましたよ! はいでは時間もあれなのでさっさと次に行きますよー! 早く帰って酒が飲みてぇ!」


 こうして他のチーム……

 《朧》《タツノオトシゴ》《優勝》《月と太陽》 《ムラサメ》 《鉄壁》がそれぞれ激戦を繰り広げ、結果《優勝》《ムラサメ》、そして《B.B》の四チームが次のステージへ駒を進めた。

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生まれて初めてゲームをしたらパーティーメンバーが最強すぎる件について! ゆーしゃエホーマキ @kuromaki_yusaku

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