第33話【霧の鬼は月見酒を楽しめるか】

 あれから何時間か経ち、遂に残りは八チームとなった。

 もちろん、ベリーとベルのチームB.Bも残っている。


「いやー、やっとここまで減りましたねぇ……ではでは! 今度はちゃんとじっくり、一組ずつ見ていきましょう!」


 ジュース片手にお菓子をつまんでいたお姉さんがそう言うと、浮上していたコロシアムが次々と姿を消す。


「では、次の対戦はぁ〜! チーム天樹あまぎvsチームB.Bだぁー!」


「天樹……って、もしかしなくてもそうだよねぇ」


「天……樹……ああ! ソラくんとバウムくんか!」


 そう、ひっそり参戦していたソラとバウムのチームが今回の対戦相手だった。


「――よぉベル。お前また腕を上げたみたいだな。まぁ〜俺のほうが断然強いけど」


 ソラはそう言いながら歩みを止めず、ベルの目の前に立つ。


「そっちこそ、剣の腕は上がったようだけど……そんなんじゃあBB弾すら斬れないって。チャンバラごっこがお似合いだよ」


「言うじゃねぇか」


 ソラとベルが至近距離で睨み合って挑発し合う姿に、隣に立っているバウムとベリーは若干困惑気味だ。


「前から思ってたんだけど。ソラとベルさんって、昔何かあったのかな……?」


「うーん、わかんない! でも何か二人とも楽しそうだし、それに今は敵同士……むしろこれでいいんじゃない?」


「それもそうだね。それじゃあベリー、僕も一応、ゲームの先輩として精一杯足掻いてみせるよ」


「ふふん! 私だってもう初心者じゃないってとこ見せてあげるよ!」


 両者共に、戦闘態勢だ。

 距離を置き、各々が武器を構え、静まり返る。


 戦闘開始の合図が遅くも感じる集中力で、全感覚を研ぎ澄ませる。

 どんなプレイヤーよりも、身近に居る友人との本気のバトルが一番厄介だ。

 何せ、お互いのことをほぼ知り尽くしているのだから――。


「スタァァァット!!!」


 合図がされた瞬間、ソラは真っ先にベルに突っ込んでいく。


「――――オラァ!」


「遅い遅い!!」


 ベルはソラの斬撃を余裕そうに避けながら、体術と銃撃で自身のペースに持っていこうとする。


「【霧雨】、【第壱型・霧薙キリナギ】ッ!」


「――ッ! 【一閃】!」


 同時に、ベリーとバウムも刃を交わらせる。

 だが、バウムが放った光の刃は霧の刃を通り抜け、それがわかっていたベリーは難なく回避する。

 予想外の動きにバウムは対処出来ず、霧薙をモロに喰らってしまった。


「これは……持続ダメージ!?」


「まだまだ行っくよー! 【一閃】、プラス【霧薙】!」


 状態異常・霧傷になったバウムは、一旦ベリーから距離を取ろうと後ろへ後退するが、そこをベリーは二種スキルの合わせ技で追い込む。

 霧で光が乱射することで目視ではエフェクトがハッキリとせず、当たり判定がわからない。


「くっ、ここで消費するか……!」


 バウムは初手で既に発動していたのであろう【絶対回避】の効果が発動し、ベリーの攻撃を避けることが出来た。

 しかし、その表情からは少し焦りが見える。


「……本当に、強くなったんだね」


「え、えっへへ〜! って、戦闘中だった!」


 バウムに褒められてつい嬉しくなってしまったベリーだが、我に返って戦闘に戻る。


「もっと凄いのやっちゃうからね! 【第弐型・霧天ムテン】! そしてぇぇ……っと! 【霧雨ノ矢】!」


 【第弐型・霧天】の効果で空から霧雨が降り注ぐ中、ベリーは武器を《果ての弓》に持ち替えて【霧雨ノ矢】を放つ。

 効果範囲内に居るソラもついでに攻撃しようという魂胆だ。


「んなっ!? これ多すぎじゃ……って言ってる場合じゃない! 【幻手】!!!」


「くっそ! なんだこれ!?」


「おっ、やっぱり仲間には効かないか。ラッキー!」


 無数の霧雨に、大量の矢――バウムは一瞬信じられない光景に思考が止まったが、すぐに【幻手】を発動し、身代わりにして雨宿りをする。

 ソラは盾を掲げて雨を防ぐが、その隙をベルが狙って発砲していた。


「――ここだッ! 霧雨解除、【鬼神化】ッ!」


 そしてベリーはバウムに隙が出来た瞬間、【霧雨】を解除し【鬼神化】を発動した。

 白い和装と濡れた髪は一変し、炎に包まれ焼き焦げる。

 そうなれば、すぐにでも二本の角を生やし、赤く変色した防具 《霧雨》を纏う一匹の鬼がそこに現れる。


「【鬼神斬り】ッ!」


「【幻手】! 受け止めろ!」


 ベリーの素早い攻撃に対応するべくバウムはもう一本幻手を呼び出し、太刀を持たせて防御させる。


「ぐぬぬ、力強い……! でも、【覇気】ッ!」


 攻撃を受け止められたベリーだが、【覇気】で二本の幻手とバウムを吹き飛ばし、動きを止める。

 【第弐型・霧天】の効果はまだ続いているため、霧傷と合わせて少しずつだが確実にHPを削っていく。


「う、動け……ないっ!」


「フフフ……このまま押し切っちゃうからね! 【閻魔】チャージ!」


 そう言ってベリーは【覇気】の効果が切れる寸前まで【閻魔】をチャージ……しようとしたのだが。


「――【幻手】ッ!」


「うわぁっ!? 【絶対回避】!」


 バウムはさらにもう一本の幻手を召喚し、自分が持っていた太刀を持たせて攻撃させる。

 一撃目は【絶対回避】でなんとか避けたが、二撃目に対応出来ずに斬られてしまう。


 拘束力のある【覇気】で隙だらけかとベリーは思っていたのだが、召喚系のスキルは自身が動くことはないので当然新しく出現した幻手は通常通りに行動可能なのだ。


「やられっぱなしじゃソラに怒られちゃうからね、悪いけどここは相討ちにさせてもらうよ。【新月】ッ!」


 幻手を盾になるよう配置してそう言ってバウムは、【新月】というスキルを幻手に使わせる。


「そ、そんなアップルみたいなこと出来るの!? 【閻魔】ッ!」


 一瞬驚いたベリーだが、【閻魔】を解放して焼き払う。

 バウムのHPを削り切るには充分で、幻手さえも倒してしまう勢いだ。


 ――――が、その瞬間だった。

 ベリーは【新月】が攻撃スキルではないことに、【閻魔】を解放した後になって気付いた。


「これで充分……! 後は任せたよ、ソラ! 【満月】ッ!!!」


 【閻魔】による大爆発は確かに起こった。

 しかしその後、バウムの【満月】というスキルの効果が発動され、煙が無くなった時にはベリーとバウムは共に人魂となっていた。

 【新月】を発動して待機モーション移行後、自身が受けたダメージを威力に上乗せして自爆するという【満月】の効果により、ベリーはまんまと相討ちにさせられてしまったのだ。


「どうやらそっちのメインアタッカーはうちのサムライに嵌められて相討ちになったみたいだなぁ!」


「一人で心細いからって噛み付かないでよ〜。大丈夫、すぐにソラも待機所に送ってあげるからさ!」


 と、ベルは煽りながらソラの攻撃を華麗に避ける。


「へーそいつは期待しちまうな。んじゃ、そろそろ本気で来てもいいんだぜ? さっきから手加減してるみたいだからあくびが出るんだ」


「へぇ……いいよ。じわじわと追い詰めて、絶対その頭撃ち抜くからね!」


「やってみな。その前に俺が突き刺してやるからな!」


 気分が高まってきたのか、煽り合いが止まらない二人は笑みを浮かべ、心底楽しそうにガチバトルを繰り広げる。

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