……悲しげな鳴き声を聞いて、私ははっと目を覚ました。コーギーが私の膝の上で、不安そうにうずくまっている。

「お客様、そろそろ閉店のお時間ですが……」

 店員の話を聞いて、私は驚きを隠せなかった。と言うのも、私はタントリスの話を聞きながら、いつの間にか眠ってしまったようなのだ。慌てて腕時計を確認すると、時刻は夜の八時だった。

「ごめんね、お腹空いたよね」

 私は犬に謝りながら、そそくさと店を後にした。ナンパまがいのタントリスは、とっくのとうにいなくなっていた。

「全く、もう……! 話が終わったなら、起こしてくれればいいのに……!」

 声に出して怒ってみたものの、不思議と腹立たしくはならなかった。むしろ、いい夢を見たような、そんな気分だった。

「でも……、一体、何の話だったっけ?」

 あまりにも熟睡してしまったからだろうか、私は彼の話して聞かせた物語を、何一つとして覚えていなかった。コーギーも私の顔を見上げて、小さく首をかしげていた。

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詩人=タントリスの追想 中田もな @Nakata-Mona

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