医療にゲームが使われてるって本当ですか!?

ちびまるフォイ

すべてはエンディングを見てから

「先生、俺の病気はいったいなんですか!?」


「それが……まだよくわからないんです……」


「それじゃ治療もできないってことですか!?」


「いえ、治療法はあります……これです」


「これは……ゲーム? 薬とかじゃないんですか?」


「薬で治るたぐいの病気じゃないんですよ」


「でもゲームって……これで本当に治るんですか?」


「ゲームをなめてもらっては困ります。

 反射、反応、知識、経験。あらゆるものが求められる総合コンテンツなんですよ。

 今では介護の現場から転生後の勇者の退屈しのぎにつかわれるほど

 あらゆる現場で使われているものなんです」


「なるほど……! ゲームをなめてました!」


「これをクリアすればあなたの病気はきっと治るでしょう。頑張ってください」


「はい!!」


そうして医療用ゲームをプレイする日々がはじまった。

しかしその日々はけして楽しいと言えるものではなかった。


「ああ、クソ! また死んだ!!

 なんだよこの難しいゲームは!!」


医療用とあってかゲームの難易度が選べるなどという

甘っちょろい設定があるわけもなく高難度一択の男気あふれる内容。


あまりの難しさに何度コントローラーを破壊しようかと思ったが、

そのたびに自分の精神でもって怒りを、ゲームクリアの情熱へと変換して挑み続けた。


もうかれこれ数ヶ月通しでプレイし、ついに最後のダンジョンまでたどり着いた。

病気の治療とゲームのクリアが目と鼻の先まで近づいている。


「ついにここまで……! 集中していかないと。

 ここで死んだら武器もアイテムも全部なくなっちまう。

 これまでの数ヶ月の積み重ねが全部おじゃんだ!」


コントローラーを握る手がじっとりと汗ばんでいく。

綿密なシミュレーションとイメトレとトイレを済ませ、ついにラスボスとの戦いが始まった。


「よし! いけ! もう少しだ!!」


これまでの経験と苦労のかいあって、苦戦しつつもラスボスを追い詰めていく。

あと数ミリしか残っていないラスボスのHPゲージに心がおどる。

治療完了はもう少しだ。


「これで決める!! いっけぇーー!!」


ボタンを押したその時。



「消灯時間でーーす」



病室の電気がバツンと切られてしまった。

コンセントにつながっていたゲーム機本体は力尽きたような音とともに、

これまでのゲームの進行状況を天国へ解き放った。


「ああああああ!!! うそだろぉぉ!?」


あわてて電源をつけたものの、取り返しがつかなくなっていた。

これまで積み重ねた努力と時間とあれやこれやが失ったことで、

病院で入院する前よりもずっと心が削られてしまった。


「ああ……ああ……もうだめだ……」


数日は落ち込んでいたが時間が経つにつれ、悲しみは怒りへと変わっていった。


「なにがゲームクリアで治療が完了する、だ。

 そんなのを信じてバカ正直にプレイするほうがおかしい!

 どうせ、俺の手術日を遅らせる口実を作るための嘘なんだ!」


そう考えると、この医療用ゲームの理不尽な難しさも納得がいく。

ゲームクリアなんて、ハナから考えていない。


ゲームに熱中させて、自分の病気が進行していることも

その治療をいつまでも行わないまま死に近づいていることも忘れさせられる。


おおかたそんなところだろう。


「ふざけやがって! そっちがその気なら俺も考えがある!」


この医療用ゲームが嘘っぱちだと声高に叫んだところで、

「いいえ本当です」としらばっくれるのが目に見えていた。


それならいっそ本当にクリアして突きつければ、言い訳はできない。

ネットで医療用ゲームを送ると、その手の違法ツール業者はすぐに改造コードを送ってくれた。


「ふふふ。これでクリアまであっという間だ。

 まさか本当にクリアされたら、もうちゃんと治療するしかなくなるはずだ」


改造コードを使うとこれまでの努力が馬鹿らしく思えた。

あっという間にラスボスを倒してゲームをクリアした。


意気揚々とクリアデータの入ったゲームを持って医者のもとを訪れた。


「さあ、先生。ゲームをクリアしたぞ!! なにが医療用ゲームだ!

 治療できるなんて希望を見せてクソゲーあてがいやがって!

 絶対にゆるさないからな!」


「落ち着いてくださいっ! ゲームは本当に医療用なんです!」


出てきたのは医者ではなく看護師だった。


「ふざけんな! こんなゲームのどこが医療用だ! ストレスしかたまらなかったぞ!」


「そのためのゲームなんです!」

「はぁ!?」


看護師は息を整えながら少しづつ話し始める。


「今ではゲームはさまざまな訓練に使われていることはあなたもご存知ですよね?

 たしかに先生はあなたがゲームにのめり込むように、

 ゲームをクリアすれば病気が治ると言ったかもしれません」


「……」


「このゲームの目的は別にあるんです。

 それはあなた自身の精神力の強化なんですよ」


「精神の……強化?」


「手術は非常に長く、苦しいものです。

 あなた自身が強い精神がなければけして手術を終えられません。

 このゲームは治療そのものではなく、

 あなたが手術に耐えうるだけの人間に育成させるものなんです」


「そんな……そうだったなんて……!」


「あなたはゲームを見事にクリアしました。

 ということは、楽をせずに苦労して勝ち取った精神力は

 この先待っている、痛く・長く・苦しい手術にも耐えられるはずです!」


どっとあぶら汗が流れ始める。

ついさっきコンマ数秒でゲームクリアまで達してしまったのは言えない。


「あ……あのぉ……やっぱり……もう一度プレイしたいかな……」


「なにを言っているんですか! クリアしたのならもうゲームは不要でしょう?」


「いや、あの……ゲームが楽しかったからもう一度したくて……あはは」


「わざと患者の心を強くするためにクソゲーにしたんですよ!? 楽しいわけ無いでしょう!?」


「は、離せーー! 俺はまだゲームがしたいんだ! 精神を鍛える必要がっ……」


「いいえ離しません!! 先生! 患者さんがゲームをクリアしました! 手術できますよーー!」


「いやだーー誰か助けてーー!!」


看護師が呼ぶと医者が奥から出てきた。

目には真っ黒なクマができている。


「……今日は手術できない。だってまだ僕は手術練習ゲームクリアしてないもん……」

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