黒神家と白神家
車椅子の神様
「お前、お嬢様だったのかよ」
なんの思惑なのか知らないが、ぬらりひょんの
そして闘王の炎のように揺らめく瞳に映り込んできたのが大げさに言えば城、控えめに言えば屋敷だった。そして、冒頭の台詞が闘王の率直な感想である。
「あら? 知らないの、闘王。この辺りじゃ有名なお家よ。
「知らねェ。興味もねェ」
「まぁ、お酒と女性にしか興味がない貴方なら、知らないのも納得だわぁ」
「印象値が更にマイナスになりました」
「闘王だもの」
「ですね」
「へいへい。もう会うこともねーよ。あばよ、クソガキ」
手をひらひらさせながら身をひるがえした闘王に、
闘王の
「お帰りなさいませ、お嬢様」
「あ、ただいま、ジョー」
「
「いいのよ、ジョーさん。それじゃあ、あたしも帰るわ。またね、ノラちゃん」
ひらひらと手を振るその動作には、ふんだんの優しさと気遣いが込められていた。あの赤い犬にはこの親切な青い犬の爪の垢を煎じて飲ませたいところだが、何分あの赤い犬の言う通り、もう会うことはないだろうとノラはジョーに車椅子を押されながらそう思っていた。
今夜、不法侵入されるまでは。
「闘王! ちょっとお待ちなさいな!」
珱守は腰にまで届く豊かな海色の髪を揺らしながら、不機嫌臭をとっちらかしている闘王の背中に向かって言葉を投げかけた。頭を垂らす稲穂のように背中を丸めて歩いていた闘王の歩みが止まり、面倒くさそうに振り返った闘王の表情は見事なほどに不貞腐れており、どこかまだ少年の面影が残っているようにさえ見えた。
「あまりノラちゃんのこと悪く思わないでちょうだいね」
「そう言われるだけ無理があるってもんだろ。出会いは最悪。第一印象も最悪。第二印象でケツに犬だぞ」
「まぁ、それは、ね」
お互い様と言うか、ほぼあんたが悪いんだけどね。そんな言葉を飲み込んだ
「ノラちゃんの姓である
「
「そう。なんでも、屋敷の所有主が闇オークションを通して、荒稼ぎしてるってね」
「それがあのクソガキとなんの関係があるんだよ」
「そこよ、闘王」
まるで
なんでも話はこうだった。
とある街にどこにでもいるような兄弟がいたそうだ。
兄の姓を
二人の仲は特別悪いわけではなかったが、異能を持つ人間をそれぞれ養子に迎えたことによってしばしば対立を起こすようになっていったそうだ。
兄には『動く絵』の異能を持つ人間が、そして弟には『涙が宝石に変わる』異能を持つ人間が。
二人はお互いの異能者がどんなに優れて美しいものかを言い争った。だが、意見の食い違う二人だけでは
「その異能者の一人がノラちゃんよ」
それはそれは二人の異能で作られた逸材品は飛ぶように売れたそうだ。片や『動く絵』は画家のお眼鏡に叶い、片や『涙が宝石に変わる』ものは宝石商に
「ノラちゃん、双子だったらしいわ」
「だった?」
「……亡くなったそうよ、妹さん」
詳しいことは分からないのだけれど。そう言葉を繋げた
──
どこか物悲しそうにしていたノラの姿が、脳裏をよぎる。
「……けっ。人様のゴジジョーなんざ、知ったこっちゃねーよ」
少しだけ揺れた心を隠しながらそう吐き捨てる闘王に、珱守は長く白いまつげを伏せるだけだった。
闘王の心に何かが芽生えた瞬間だった。
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