心の絵の具
車椅子の神様
「……あら? なにか、お取込み中だったかしら?」
今日も今日とて神社に参拝に来た者達を吟味し、一番心惹かれたとある坊やの恋煩いに片棒を担いできた
「おお、
「それは別に構わないけれど、
「こんにちは、
「そうだったのね。ちょっと待ってて。絵を飾り終えたら貴女の家まで送るわ」
「いつもすみません。ありがとうございます」
「だぁーッ!? 誰かこの犬をどうにかしてくれッ! おいッ、
自分達と瓜二つな狛犬が闘王の尻に噛みついているのを横目に、
「できたわよ。これでいいかしら?」
男性にしては細い指が額縁から離れていく様子を、ノラは車椅子に腰をかけて眺めていた。
ノラは自分の両手を見た。石鹸で洗ったはずなのに、まだ絵の具がうっすらとこびりついている。
まるで、自分の心のようだとノラは独りごちた。心の垢は、取っても取ってもこの絵の具のようにこびりついて全てを落としきることはできない。でもノラにはこうして誰かのために動く絵を描き続けることしか能がないのだ。例えそれが自分の意に反することだとしても、「それ」に逆らうことはできない。逃げられない。
ぎゅっと固く握りしめられた小さな両手を見て、
「ノラちゃん。送るわ」
ぴくりと微かに跳ねた華奢な身体に気がつかないふりをして、
「悪いのだけれど、耳障りだからそろそろ闘王のことなんとかしてくれないかしら?」
「あ、忘れていました」
途端、いたずらっ子のように
もっとやれ、もっとやれと、狛犬の威を借る子猫になっていた喜助を制し、ノラは指先をパチンと鳴らす。すると、まるで人魚姫が泡に還るかのように
「んの、クソガキ……ッ」
「そのクソガキって言うのやめて。いい? 今度、私に盾ついたら同じ目にあわせてやるから」
「頼もしいわぁ、ノラちゃん。闘王もこれを機に改心して、仕事の一つや二つやってみたら?」
「そうだぁ! そうだぁ!
「うるせぇ! このクソチビ助ッ!」
まるで親の仇だと言わんばかりの目つきでノラを睨む闘王は、手をひらひらさせながら「さようなら、赤い狛犬さん」と嫌味たっぷりに吐き捨てるノラに、なんとも旗色の悪い今の状況に歯軋りをするのだった。
そんな二人の様子を少し離れた場所で見守っていたぬらりひょんは、
もしかしたら、と。
だが、そんな淡い期待を振り払うようにして
「
「もちろんよ、
「闘王、おぬしも行きなさい」
「はぁ!? なんで! この! 俺が! こいつのために!」
「いいから行くんじゃ」
不平不満を口にする闘王と同じく、ノラも不快に思ったのか、その表情は険しくなっていた。
「
「ノラや。この
うっと言葉を詰まらせたノラに、ぬらりひょんは更に畳みかけるようにしてその高い頭を下げる。
そんなぬらりひょんの姿に慌てて肯定の言葉を返せば、
ノラは苦笑いを浮かべるしかなかった。
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