extra8.可愛い彼女がイケメンすぎる

 俺の行きつけの店に服を買いに来た。びくびくしている凛に、俺は似合いそうな服を渡して試着してくるよう伝える。凛が着て、俺がそれを見てを繰り返し、俺は思った。


 どれも可愛いな!? 綺麗系は当然だけど、可愛い系もこんなに似合うとは思ってなかった。ヘアアレンジもしてもらう前提で考えたら、やっぱり清楚系が似合うよな。


「すみません、この服買います。そのまま着ていくのでタグ切りを。あと、ヘアアレンジとメイクもお願いします」

「かしこまりました」


 そう店員に告げて試着室の方に向き直ると、不安げな顔をした凛がいた。


「……か、要。本当にこの服でいいのか?」

「いいのかって……いいに決まってんじゃん。ほら、可愛く綺麗にしてもらってこい」

「ああ……」


 会計も済ませたので、店の外で待ってると凛に伝えて店を出る。今昼か。この後は、昼飯食って、映画でも見て……。今やってる映画は……。

 この後のデートプランを考えながらスマホをいじっていると、どんとぶつかられる感覚が生じた。危な、スマホ落としそうだったじゃねぇか。誰だよと思いちらっと目を向けると人相の悪い男たちがいた。

 わざわざ立っているだけの人にぶつかってくるなんて、ガラ悪いな。ケチをつけてきたらさらにタチが悪いな。なんて思っていたらぶつかってきた人たちが声をかけてきた。しまった、フラグ立っちまった。


「あ? おい、ぶつかっといて何もねぇんか兄ちゃん。……って、なんかどっかで見たことある顔だな」

「あ、こいつ、テレビで見たことあるぜ。西園寺家の坊っちゃまだろ?」


 最悪だ、俺を知っているという厄介な奴に絡まれてしまった。しかも凛がいない時に。俺の不幸体質め……。ここは無視に徹するのが得策だ。


「お? シカトか? ぶつかって腕すげぇ痛ぇんだわ、慰謝料くれや。な、坊っちゃん?」


 胸ぐらを掴まれた。はぁ、めんどくせぇな。つか、ぶつかったの俺じゃねぇし、お前らだろ。ため息をついた時に顔に出てしまっていたのだろう、右頬にいきなり衝撃が来て俺は倒れ込んだ。


「随分なめた態度じゃねぇか、坊っちゃん。な? どうせ俺らに渡したところではした金だろ? 貧民に貢献しろよ」


 はした金じゃねぇし。家の金は俺が稼いでる訳でもねぇし。そりゃ、父さんの仕事手伝って多少稼いでっけど、はした金ほど俺自身が渡せる金はねぇ。つか、殴られた俺の方が慰謝料もらえると思うんですけど。それにこれからデートなんだよ。だから……。1番に思ったことを男たちを睨みつけて口に出す。


「……お前らに渡す金はねぇんだよ」

「偉そうに、てめぇ……っ!」


 やべぇ、また殴られる…………っ! そう思って目を瞑った。しかし、いくら待っても来ると思っていた衝撃は来ず、不思議に思って目を開けると、男の拳を片手で受け止めている美女が立っていた。


「……私の恋人に何か用か?」

「…………凛」


 凛が俺の顔を見ると、目を見開いたかと思ったら俺から目を逸らして男たちの方を向いて尋ねた。


「何があったのか聞かせてもらおうか」

「あー、この坊っちゃんがよぉ、俺たちにぶつかってきたくせに、謝罪もなくてよぉ。なぁ、こいつの恋人なんだろ? 可愛い姉ちゃんが代わりに詫びてくれよ、な?」


 そう言って、ニヤニヤした顔をして凛に触れようとしてくる男に怒りを覚える。痛くて動けずにいる中、俺は男たちを睨みつける。


 俺の大事な彼女に汚ぇ手で触るな。


 そう思ったのとほぼ同時に凛が口を開いた。


「悪いが、詫びをするかどうかを決める前に聞くことがある」

「は? 何言って……っ!?」


 凛に触れようとしていた男が言い終わらないうちに地面に伏せ、押さえ付けられている状態になっていた。男たちが唖然とする中、凛は冷ややかな声で告げた。


「……本当に要がぶつかったのか? それに、殴られるようなことをしたのか? 今すごく怒っているから手加減はできない」

「………………ナニモシテマセン」

「そうか。で、そんな何もしていない相手を殴ったのはどいつだ?」


 その問いに、地面に押さえ付けられている男を全員が指差した。


「ほう? どうやらお前の方が詫びをしなければいけないようだな。で、このまま警察に突き出されるか、誠心誠意謝罪して見逃されるか……どちらがいい?」

「す、すみませんでしたー!!!!!」


 男たちが頭を下げたのを見て、凛が男たちを解放すると、彼らはそのまま逃げていった。


「……要、立てるか?」

「お、おう……」


 俺が立ち上がってすぐ、殴られた頬に触れられた。


「痛そうだな……。薬局行くか?」

「え、あー……大丈夫……」


 心配そうな顔でこちらを見てくる凛に愛おしさを感じる。あー、ちゃんと愛されてるな俺。好きでたまんねぇわ。そう思って凛を抱きしめる。


「か、要……っ!? ちょ、ここ外……っ」

「ん、分かってる。けど、ちょっとだけこうさせて」


 そう伝えると、凛は観念したように力を抜き、俺の背中に腕を回してぽんぽんとしてくれる。そういうとこが好き。


「俺の彼女は最高に可愛くて、最高にかっこいいわ」

「…………はいはい、どうも」

「あ、照れてる」

「うるさい。もう平気なら離せ」

「はーい」


 そう返事して俺は彼女を離し、手を取って言い忘れてたことを告げた。


「あ、そうだ。……服、超可愛い」

「……〜〜っ!」


 さっきのかっこよさはどこに行ったのかってくらい可愛い顔を見れたところで俺は彼女には伝わらないように密かに意気込んだ。


 この後のデートはお礼も兼ねて、ちゃんといいものにしねぇとな。

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俺のボディーガード様! 煌烙 @kourakukaki777

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