extra7. 彼女がデートでオシャレしない理由

 翌日、日曜日。

 デートの約束をし、俺が凛を家まで迎えに行くつもりが、俺が凛の家出禁になったせいで急遽駅で待ち合わせになった。今日の凛の格好を見て、俺はずっと抱いていた疑問を口にする。


「なぁ、スカート履かねぇの?」

「え?」


 きょとんとした顔をする凛を見て、俺は続ける。


「いや、夏祭りの時は浴衣だったけど、普段のデートは、その、髪とかアレンジしねぇし、スカート履いてんの見たことねぇなーって思ってさ」


 ぶっちゃけ、付き合う前にデートしたあの日以来、凛が私服でスカートを履いているのを見ていないと思う。そう彼女に伝えると、彼女はそっぽを向いて不機嫌そうに呟いた。


「……お前のせいだ」

「へ? 俺のせい!? え、何で!?」


 え、待って、心当たりがないんですが!? 俺は可愛い彼女の姿をいつだって見たいんだけど、伝わってなかったってこと!? いや、待てよ。俺、本音をすぐ言うから変なこと言ったかもしんない……。不快なこと言ったかもしんない……。恨むぞ、俺。


 必死に考えている俺を見て、凛が深いため息をついた。


「……はぁ、お前が言ったんだぞ、『いつもの方がいい』と。なんなら、そういう格好するの禁止とまで言われた」

「………………待って、それいつ?」

「付き合う前だが?」


 そう言われて、俺は手で顔を覆った。


 言ったわ、うん、確かに言いましたわそんなこと。一緒にスイーツ食べに行って、凛がナンパされてた日のことだろ。確かに言ったけど。


「あれはそういう意味じゃねぇ……」

「じゃあ、どういう意味だ」


 そう言って彼女は、俺の自分の顔を隠している手を掴み、引き剥がされて顔が見える状態になって、じっと見つめてくる。


 うわっ、これ言うまでデート始まらねぇやつだ。いやでも、本当の意味を伝えるの普通に恥ずかしいんだけど。でも言うしかねぇ……。


「……っ、あ、あれは、嫉妬……して、言ったんだよ」

「嫉妬? 何のだ?」

「あの日、ナンパされてたじゃん。だから、その……お前の可愛さが他の男に知られたと思って嫌だったんだよ」


 素直に白状すると、凛が更に問い詰めてくる。


「じゃあ、いつものがいいというのは……」

「他の男に、可愛い格好したお前を見られたくねぇから言った。分かった?」

「理解した。……が、結局、デートでそういう格好をしたら、また嫉妬するから、そういう格好ができないことにならないか?」

「いや何でそうなる」


 俺の手を掴んでいた手が緩んだのを見逃さずに、俺は彼女の手をしっかりと握る。


「あん時は友達だったから、あー言うしかなかった。それに、これからもお前が他の男に可愛いって思われたり、言われたりしたら嫉妬すると思う。けど、今は恋人なんだから、可愛い格好したってナンパされねぇように俺が守ればいい話だろ?」

「……いつも私に守られている奴が言う台詞とは思えないな」

「…………ごもっとも。いつもボディーガードありがとうございますほんと」


 うん、最後までカッコつけさせてもらえないのはいつも通り。だけど、俺がお坊っちゃんってこと、忘れてねぇか?


 俺は彼女の手を握り直して、「行くぞー」と言って目的地に向かって歩き出した。


「どこ行くんだ?」

「もうスカート履かない理由はねぇだろ? 服、買いに行くぞ」

「……待て、買ってどうする?」

「今着るに決まってんだろ? 俺が選んでやるから」


 びっくりして言葉を失っている彼女を見て、俺はくすっと笑った。絶対、服の値段のこと考えてるな。俺が買ってプレゼントするんだから気にしなくていいのに、可愛い奴。

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