extra6. 緊急ミッション、彼女の家族に挨拶せよ
明日が楽しみだ、なんて言った奴誰だ。来て早々もう帰りてぇぞ俺は。
「貴様、わしを騙しよったな?」
「詳しく聞こうか、西園寺くん」
凛の家にあがるなり、凛の父と祖父の不穏すぎる歓迎。勘弁してくれ……。なんて思っていると、ふわふわとした雰囲気の声によって場のピリつきが少しだけ、ほんの少しだけ和らいだ。
「もう、お義父さんったら、凛ちゃんのことになるとすぐにこうなるんだからー。パパも、怒らないの。ごめんね、かなくん」
「い、いえ……。お気になさらず……」
凛の家に来るのは二度目。友達としてここに来た前回と違って、今回は恋人として来たからか、じいさんの視線が殺意に満ちてる。怖っ。それに、はじめましての凛のお父さんは、笑顔なのに目が笑ってねぇ……。お家デートの予定はどうなったんだよぉ……。そう思って視線を凛の方に向けると、こそっと小声で伝えてくる。
「悪いな、父さんとじいちゃんに話したら、何がなんでも話をするって聞かなくて……。このことを伝えたらお前が来づらいと思って黙っていた」
つまり最初からデートではなく、家族に紹介するっていう理由で家に誘ったと、なるほど。理解はしたけど、じいさんは前に会った感じで想像できたけど、お父さんがこんなに手強そうなのは聞いてねぇって! そういうのは事前に伝えておいてくれ……。やべぇ、何の準備もしてねぇぞ。そう思いながら、リビングに案内され、話し合いの形になる。まず口を開いたのは凛のお父さんだった。
「君、西園寺グループの御曹司なんだろう? こう言うのは失礼承知だけど、君が政略結婚しない保証もない。一時の遊びでうちの娘と付き合ってもらっちゃ困るんだ」
「……っ、父さん!」
まあ、俺が坊ちゃんだからそう思われるのは仕方ないよな。実際、金持ち世界じゃ政略結婚なんてざらにある。
「……お父さんが心配されるのも分かります。でも、遊びで付き合ってるつもりはありません」
「付き合ってることは学校で隠してるそうじゃないか」
「そうじゃそうじゃ、隠してるってことはやましいことがあるんじゃろうが」
じいさんまで入ってきた。まあ、そう思われるのも当然か。
「それは私が……っ」
私が言ったからとでも言うつもりだったのだろう、俺は凛の腕を咄嗟に掴んだ。
「凛」
「…………要……」
「……隠してるのは、凛さんに迷惑かけたくないからです。俺のせいで彼女がマスコミに晒されるのは本意じゃないですから。だけど本音を言うと、俺は堂々と、付き合ってる奴がいるって、俺の彼女に手出すなよって言ってやりたいです」
「お、おい、要……っ」
俺は隣で顔を赤くしながらあわあわとする凛の手を握り、向き合って伝える。
「あのさ。こうやって付き合ってんの隠してて、凛が嫌な思いするくらいなら、隠さなくていいと思ってる」
「え…………」
「俺は、堂々とお前と付き合ってるって言ったっていいって言ってんの」
そう伝えると、凛が今まで見たことないくらいに困ってあわあわしている。可愛いなおい。
「わ、私は…………要の迷惑にならないなら、それでいい」
そう言って、凛は俺の手を握り返してくれた。その光景を見て驚きを隠せず、言葉を失っている凛のお父さんとじいちゃんに凛のお母さんが問いかける。
「パパ、お義父さん。認めてあげたら?」
「くっ、
「あら、私は最初からかなくんと凛ちゃんを応援してるもの」
じいさんとお母さんのやり取りの後に、お父さんが口を開いた。
「凛は西園寺くんのこと、どう思ってるの?」
「……こんなに大切で、一緒にいたいと思える人は要が初めてなんだ。だから……」
「分かった。……要くん」
「は、はい」
「凛のこと、よろしく頼むよ」
「……っ、はい。ありがとうございます!」
その後、お昼ご飯をご馳走してもらい、凛の部屋にお邪魔した。部屋に入るなり凛が頭を下げた。
「悪かった、何も伝えずにいきなりあんな拷問を受けるみたいなことになって……」
「いいよ、いつかは挨拶しなきゃだっただろうし。それに、改めて思った。俺、お前のことがすげぇ大切なんだってこと」
「……っ、お前、よくも恥ずかしげもなくそういうことが言えるな」
「それが俺ですから」
そう返した後、俺は今日ずっと思っていたことを口にする。
「あの、さ……イチャイチャしたいんですけど……いいですか?」
「……っ、ど、どうぞ……?」
目を逸らしながらそう答えが返ってくる。俺は彼女のベッドに腰掛けて、隣に来てと言うようにベッドをぽんぽんとする。少し離れて座った凛との距離を詰めてから、俺は彼女を優しく押し倒す。押し倒されるとは思っていなかったのか、びっくりした顔で俺を見てから、顔を真っ赤にして思いっきり顔を背けた。
「……可愛いからいいけどさ、自分からする時はそうでもないのに、される時は何でそんな照れんの?」
「う、うるさいっ、するのとされるのは全く別だろう……っ」
そう照れながら目を瞑る彼女を愛おしく思って、キスをしようとした、その時。
コンコン、ガチャ。
「凛、母さんがおやつを…………」
「……〜〜っ!?」
ノックと同時に開け放たれた扉の前に部屋で押し倒される娘を見て言葉を失った凛のお父さんがいる訳だが……。やばい。
この状況を見られたと焦って固まる俺たちに、正気に戻ったお父さんが目が全く笑っていない笑顔を向けて言い放った。
「要くん、しばらくうち、出禁ね」
「……………………はい」
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