extra5. 俺の機嫌を直してくれるエキスパート

 文化祭準備と並行して体育祭の練習も始まった。今週最後の体育祭練習日である今日は、体育祭の各競技の練習だ。事前に決めていた競技ごとに分かれて練習を始めることになった。俺は楸と一緒に借り物競走に、凛は二人三脚に出るので、凛とは練習が別になってしまった。欲を言うなら一緒が良かったんだけどな……。まあ仕方ねぇか。早速俺は体育祭実行委員の楸に今日の練習について尋ねる。


「借り物競走のお題って誰が決めんの?」

「俺ら体育祭実行委員やで。しかも、当日までは分からへんようになっとるから、ぶっちゃけ練習は借り物なし競走になるけど」

「練習は借り物なし競走って……。それ練習になるのか?」

「知らん。どうせクラス対抗リレーもあるし、走る練習しとくんはええんやない?」


 それもそうかと思い練習を始めた。一回ずつ走って休憩を挟んだ時、俺は凛の様子が気になり、姿を探す。練習順調なのか? どこだ……? あ、いた。あいつは誰と二人三脚すんのかなー。女同士だろ、なんて高を括っていた。


「ご、ごめん、剣持さん」

「いや、気にするな。田中くん、どっちから踏み出すか決めておけば大丈夫だ。もう一回やろう」

「う、うん」


 そのやり取りに気づいた楸が俺の肩に手を乗せながら言う。


「剣持ちゃん、田中くんと二人三脚やるんか。田中くん照れとるやん、剣持ちゃんの隠れファンなんかな? なぁ、カナ……って顔怖っ」

「そうか? 普通だろ」

「その笑顔が怖いんよ……」


 男と二人三脚するのは聞いてねぇぞ。


 その日の放課後、クラスの準備とは別に文化祭実行委員としての準備もある俺たちは学校の下校時間ギリギリまで残っていた。帰る準備も終えた俺は、まだ帰り支度をしている凛を椅子に座って待ちながら話を振った。


「なぁ、田中と二人三脚すんの?」

「そうだが? 田中くんは自信が持てないところはあるが、しっかりやってくれているから本番で上位に食い込めると思うぞ」

「あーそう」


 めっちゃ褒めてるし。田中、お前がすごく羨ましいぞ、代われ。

 そう思いながら俺が不機嫌そうに返すと、凛が一度教室の扉から顔を出して様子を確認するかのように廊下を右左に見てから扉を閉め、椅子を俺の横に持ってくる。一連の行動を見た俺は、彼女を怒らせたと思って身構える。


「っ、な、なんだよ……?」


 俺の問いかけには答えずに、凛はそのまま椅子に座って俺にもたれかかるようにしてくっついてきた。


「え、あの、凛さん……? 急にどしたんすか?」

「別に。拗ねている様子だったから、機嫌を直して欲しいと思っただけだ。嫌か?」

「全っ然嫌じゃないし、超機嫌直りましたけど!?」

「そうか。ならよかった」


 あーくそ、可愛すぎねぇかこいつ! てことは、さっきの廊下確認は人が来てないかどうかの確認してたってこと!? 見られるの恥ずかしいって、普段クールなくせに、こういうとこがギャップ萌えなんだよな……っ! それに、機嫌を直して欲しいからってこんな可愛い行動取るとかさぁ、聞いてねぇって。好き。めちゃくちゃ好き。あー、どうしよう、可愛すぎて無理。


「凛、キ……」

「しないぞ」


 食い気味かよ、泣く。まあそういうところも好きですけどね! と思った直後だった。そういえば、と凛が言葉を続けた。


「明日、空いてるか?」

「え? 空いてるけど」


 土曜日だし、だらだら家で過ごそうと思ってたくらいだしな。


「なら、うちに来ないか?」


 突然のお宅訪問のお誘い。

 前回は付き合ってなかった時に行ったんだよな。道場で鬼稽古受けさせられて……。思い出しただけで背中痛くなってくるわ。だがしかし、今回は恋人として彼女の家に行くんだ、お家デートってことだな。ふふん、それなら答えは決まってる。


「喜んで行かせていただきます!」


 明日が楽しみだ。

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