extra4.初めて知った不器用な君の嫉妬
文化祭準備日、LHRの時間。俺は開始10分でげっそりしていた。
時は遡ること数日前、先日の実行委員決めの日である。実行委員が決まった後、文化祭の出し物を決めることになった。
「文化祭のクラスの出し物はコスプレ喫茶がいいと思いまーす!」
クラスメイトの一人がそう発言し、クラスのほとんどがその意見に賛成の声をあげたので即決した。すぐに凛が指示を出して役割分担も決まった。そこまではよかった。よかったはずなんだ。なのに……。
「あのー……」
「ん? 西園寺くんどうかした? あ、待って、これも似合いそうじゃない!?」
「ちょっと待ってよ。西園寺くん、今度は私が選んだの着てみて!」
「ねぇ、こっちのが絶対似合うって! これ着てよ西園寺くん!」
誰も俺の話を聞こうともしねぇ。
ここ数日の文化祭準備で俺はコスプレ喫茶用の衣装の着せ替え人形になっていた。何着着せられるんだと深いため息をつきたくなるくらいには取っかえ引っかえされた。しかもまだ終わりじゃないらしい。早く俺を解放してくれ。俺がげっそりしていると、凛に後ろから声をかけられる。
「西園寺、実行委員の集まりが……っと、取り込み中だな」
「ごめん、そっちすぐ行くわ」
「大丈夫だ。一人でいいらしいからな、私が行ってくる」
「……悪ぃ、頼んだ」
いつもと変わらないクールな反応をする凜を見て、ちょっともやっとする。未だにあいつ、俺に遠慮している気がするな。そう考えていると、俺を着せ替え人形にしていたクラスメイトの女子が俺に質問を投げてくる。
「仲良いよね、剣持さんと。ほんっとうに、付き合ってないの?」
「あー、うん。付き合ってない」
「ふーん。西園寺くんとこんだけ仲良いなんて羨ましいなー、剣持さん」
「あはは……」
女子たちの反応に俺は苦笑する。どうしてこうなっているのかは分かっている。凛と付き合っていることは、楸以外学校で知っている人はいないからだ。俺に迷惑をかけたくないからと言う彼女と話し合って、付き合っていることは内緒にすることになったのだ。まあ、俺が日本一有名な会社の御曹司のせいなんだけどな。マスコミには学校生活の保証はしろという条件はついているので、登下校、学校内で張られることはまずない。しかし、付き合っているなんて学校の中で噂になって、それが学校外にも流れたらネタになる。だから内緒にすることで、マスコミ関係者から凛を守ることにもなる。
「まあ、西園寺くんと剣持さんって付き合うってなったら釣り合わないもんね」
「…………」
「西園寺くん?」
「あ、いや……。俺、誰かと付き合ったことねぇからどうだろうなって。ははは……」
まあ、こうやって好き勝手言われるのに耐えなきゃいけないのはある。凛と付き合っていることは言えないから、我慢するしかないというこの図。はぁ、くっそ、俺が坊っちゃまじゃなかったら堂々と付き合ってることも言えるってのに。そんなことを思って、文化祭準備の時間を過ごしたのだった。
その日の放課後、下駄箱で凛と合流して一緒に学校を出た。帰り道を並んで歩き、凛の家の前に着くと、凛が今日の文化祭準備の話題を出してきた。
「文化祭の準備、順調だな」
「おう。めっちゃ疲れたけどな」
「ふふっ、お前着せ替え人形にされてたもんな」
「笑うなよ」
楽しそうに笑う彼女を見て、俺はまたもやっとした。嫉妬して欲しい訳じゃねぇけどさ。恋人が他の異性にベタベタ触られたらちょっとは嫌な顔するものじゃないのか? 凛がそんなことされてたら、俺絶対そいつら殺気ましましの視線送り付けるんだけど。やっぱり遠慮されてんのか? そう思って俺は、ちょっと大袈裟に今日のことを言ってみる。
「あーあ、明日も女子たちの着せ替え人形かー。だるいなー」
やべぇ、棒読み感あったな。大袈裟すぎたか? なんて焦っていると、隣にいたはずの凛がいないことに気づく。あれ?と思って振り返ると、彼女は顔を俯かせて立ち止まっていた。
「どうした?」
「………………じゃない」
「え? ごめん、よく聞こえねぇ」
そう言って近づくと、凛がいきなり顔を上げてきっと睨んできた。
「え、何!?」
俺がびっくりすると、凛は急にしゅんとした顔になって、ぼそっと呟いた。
「…………嫉妬、してなかった、訳じゃないからな」
「え……? 嫉妬してたの? そんな顔してなかったじゃん」
「付き合ってることを隠してるのに、学校でそんな顔してたらだめだろう。……今は、二人だから……」
どこか不安そうな顔と声で言う凛の言葉を聞いた俺は、両手で顔を塞いだ。
「一生大事にする」
「はぁ? いきなり重いことを言うな、気持ち悪い」
「すんません」
ぽろっと出た俺の本音に凛は冷ややかな声で返した。
まあこれはいつも通り。そんなことより、可愛すぎねぇ? 俺の彼女、学校にいる時と二人きりの時とのギャップがえげつねぇ。嫉妬させようと思ってた訳じゃないけど、いや、ちょっとして欲しいとか思ってたけど! 予想以上に可愛い反応でびっくりした。
その後、少しだけ明日の話をして別れてから、スマホに父さんからの連絡が来ていることに気づいて返信をしてから黒澤に電話をして迎えにきてくれるように頼んだ。どうやら今日は外で食べるらしい。黒澤を待っている間、俺はさっきのことを考えていた。
不器用だし、遠慮がちな凛のことだ。多分、平気そうな顔をするのは得意だ。不動院との件の時も、今回もそうだった。彼女の口から聞くまで、俺は何も知らなかった。だからこそ、俺はその小さな本音を見逃さねぇようにしねぇと。
とりあえず、明日で衣装決めなきゃいけないから、着せ替え人形も終わりだ。
「よし、頑張るか」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます