extra3.実行委員決めは心のままに
夏休みが明け、テストも終わった9月。9月といえばこれしかない、と世の高校生は言うんじゃないだろうか。
「さて、いよいよ今月末にはお待ちかねの文化祭と体育祭だ!」
クラスが歓喜の声で包まれた。担任がクラスの興奮を落ち着かせてからHRで行うことを説明し始めた。
「それじゃあ早速、実行委員決めからやってくれ。学級委員、あとは頼んだ」
「了解っす、先生!」
そうして学級委員が場を仕切り、クラス全体に立候補者がいないかを募った。
ここ、松ノ葉高等学校は、1日目と2日目に文化祭、3日目に体育祭と、3日間で文芸と運動の祭りの両方が行われる。文化祭と体育祭それぞれに実行委員会があり、各男女1組で計4人が実行委員をすることになっている。
「はーい、俺、体育祭実行委員やりますわー」
そう言って楸が実行委員に立候補する。そういうの好きそうだもんな。関西人の血が騒ぐってやつか? なんて余裕ぶっこいていたら、楸が続けて発した言葉に驚愕することになった。
「あ、それと、要くんが文化祭実行委員やるって言うてたわ」
「おお、西園寺か。みんなも納得して……るな。じゃあ、男子の実行委員は決定……」
「いやちょっと待て、異議ありだ!!」
俺は声を張り上げて反論しようとしたが、楸が俺の言葉に被せてきて無意味と化す。
「俺はやるなんて言ってな……」
「要くん照れとるみたいやわ。女子の方、先に決めてもろてええ?」
学級委員が首を縦に振って女子の実行委員を決めようとクラス全体に声をかけている間、に楸が俺に伝えてくる。
「カナ、お願いや。どうしても
「はぁ? 他のやつでもいいだろ? 俺じゃなきゃいけねぇ理由は何だよ?」
「俺とカナが実行委員やったら、最強にモテると思わへん?」
こいつ、グーパンしてもいいだろうか? ドヤ顔しやがって、腹立つ。俺はため息をつきながら楸に尋ねる。
「はぁ……。モテたいって、お前な……。好きな子いるって話は何だったんだよ?」
「……あー、あれね。別に今関係あらへんやん。で、実行委員やるん?」
話逸らしやがった。お前から好きな子できたーって聞いたの夏休み中の話だぞ?
とは思ったものの、俺はそれを口には出さなかった。楸は大半のことはオープンに話すが、話したくないことは頑なに話さないのを知っているからだ。家のこととか聞くと話題逸らすからな、あいつ。まあ、好きな子との進展に難がある可能性もあるし、言わないでおこう。そうして俺は楸に返答をする。
「やらねぇよ」
「えー! 何でやー! やろーやー、カナぁ」
「うるせぇ、やらねぇったらやらねぇ」
「えー、どうしたらやってくれるんよー?」
拒否の意志を貫く俺に対して楸が嘆く。実行委員に興味が無いわけじゃない。確かに、文化祭と体育祭の実行委員をやるのは楽しいとは思う。しかし、問題点がある。そのことが俺が実行委員を拒否する理由だ。
凛と文化祭一緒に見て回る計画してたのが全部パーになるだろうが!!
この学校は文化祭、体育祭共に力を入れていると入学式の時に生徒会長が言っていた。実行委員の仕事はやりがいはあれどきっと大変だろう。ただでさえ自分のクラスの出し物で忙しくなるだろうに、さらに実行委員の仕事が増えたら、凛といる時間が減るじゃねぇか。絶対に嫌だ。
そう思っていると、「あの」と聞き慣れた声が耳に入ってきた。顔を上げると、凛が少し緊張した様子で、手を挙げながら言葉の続きを言った。
「……私が、文化祭実行委員をやってもいいだろうか?」
「もちろんいいよ! じゃあ女子の文化祭実行委員は剣持さんで……」
それを聞いて俺は食い気味で告げる。
「おい、学級委員。俺、文化祭実行委員やる」
「……いきなりやる気に満ち溢れたな」
「……カナ、めっちゃチョロい」
なんか隣から聞こえてきたな、俺に1発殴られたいらしい。
俺が楸に1発お見舞してから数分後に女子の体育祭実行委員も決まったところで、学級委員が発言する。
「じゃあ、早速文化祭実行委員司会で出し物決めようぜ」
「賛成!」
そう言って学級委員は席につき、俺たち文化祭実行委員が前に出て司会を引き継ぐ。席替えで少し離れた席に座る凛が今俺の隣にいる。学校で久々にこの距離感、嬉しい。なんて思っていたら、凛が俺の方を向いて微笑みながら小声で告げる。
「頑張ろうな、要」
「お、おう」
可愛すぎかぁあああああ! 絶対楽しい文化祭にする。絶対文化祭成功させる。この笑顔を見るためなら俺死ぬ気で頑張るわ俺。頑張ろう俺。
今から文化祭までが楽しみだ。
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