Another story 愛が重めなお嬢様と残念な関西人のお話
「俺の全部を受け入れてくれるような奴じゃねぇと無理なんだ。だから諦めてくれ」
私、不動院百合香は、初めて好きになって、10年も片想いをしていた相手にきっぱりとフラれた。その場にいたくなくて、咄嗟に逃げ出したのだけれど。
「ここは、どこですの……?」
いつも車で移動しているからここがどこなのか全く分からないですわ……っ! お店が沢山並んでいますけれど……。ど、どうしましょう……。はっ、電話! 電話をすればここまで来てくれるはず……!
そう思ってスマホを探すけれど、見つからない。どこにやったのかを考えていたら、車にスマホを置きっぱなしにしてしまったことを思い出して、連絡手段を失った私は絶望した。どうしようときょろきょろしながら目に涙を浮かべて歩いていると、人にぶつかってしまう。
「きゃっ!……も、申し訳ありません!」
「いや、こっちこそ……ってあれ? 要くんに告ったお嬢様やん。何してんねん?」
顔を上げると、どこかで見たことがあるような顔の人が目の前にいた。
「あ、さっき空気になっていた人」
「ひっどい覚えられ方やな……まあ、そうやったけども。高槻楸っていいます。で、どしたん? 迷子?」
「ち、違いますわよ?」
「ふーん、違うんか。ほなね、お嬢」
一般人に、しかも失恋相手の友人に頼るのが嫌で嘘をつくと、彼はその場を立ち去ろうとする。これ以上一人でいたくない気持ちが大きかった私は、咄嗟に彼の手を掴んでしまった。言い訳をしようとするが上手く言葉が出てこない。
「あ、えっと……」
「ははっ、やっぱ迷子やん。しゃーないな。この後用事あんねんけど、まだあっちはかかりそうやからな……お嬢、家まで送ってったるわ」
そう言って住所を伝えると、彼は「ほな行くで」とそそくさと行ってしまう。エスコートできないのかしら、この人。
しばらく歩いていたら、彼がいきなり話題を振ってきた。
「お嬢って、めっちゃ可愛えよな」
「は? いきなり何ですの?」
「自分、うちの学校で美少女なお嬢様って言われとるんよ? ま、話すの初めてやけど、お嬢のこと好きやなって思ったわ」
金目当てで近づいてきた男たちから言われ慣れている言葉のはずなのに、なぜだかこの男のまっすぐな目を見て金目当てじゃなく素直な言葉だと感じ、少し恥ずかしくなって、そう思ったことをかき消そうと彼に向かって叫んだ。
「な、何を言い出すんですの!? 初対面のよく知りもしない男に言われたくありませんわ!」
「あはは、照れるとさらに可愛えやん」
「本当に黙っていただけるかしら……」
金目当てじゃないにしても、可愛いだの好きだのを軽率に言うなんて、チャラいですわね。顔はそこそこいいのに、残念系かしら? 女に対して誰にでもそうなのかしら? そうだったら最低ですわ。なんて思っていたのが顔に出てしまっていたようで、彼が私の顔を見て訝しげな顔をする。
「なんや、急に機嫌悪いやん。お、ここやない? うわっ、家でっか」
気づけばもう家の前だった。私は彼に家まで送ってもらったことに対してお礼を言う。
「ありがとうございます、高槻」
「どういたしましてー。……てか、要くんはカナ様やのに、俺は苗字呼びかいな」
「それを言うなら貴方も私のことお嬢って呼んでるではありませんか。それに、金髪チャラ眼鏡を様づけする気にはなれませんわ」
「うわっ、酷っ。めっちゃ言うやん。やっぱこの眼鏡のせいでチャラいんか?」
そう言って、高槻は眼鏡を外した。眼鏡を外すと、その顔のよさがよく分かる。流石カナ様の友人ですわね、顔がいいのは認めますけれど……。
「貴方の口、縫い付けたくなりますわね」
「え、怖ぁ。急になんてこと言うねん」
少々喋りすぎるのが顔のよさを殺してますわね、もったいないですわ。そう思った私は、高槻の両頬を掴んで得意げに告げた。
「家まで送り届けていただいたお礼に、貴方を『モテる男』にして差し上げますわ」
「はぇ?」
私は呆れた顔をする高槻に笑顔を向けた。
「ふふっ、楽しみですわね、高槻」
「いや俺全然楽しくあらへんのやけど……」
(まあ、ええか。お嬢が楽しそうにしとんの、なんか
高槻がそんなことを思っているとも知らず、私によるこの残念な関西人のモテ男計画が始まり、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます