extra2.浴衣マジック、それは理性との戦いである。
凛と付き合い始めてすぐの夏休み。俺はスマホを出して、来週行われる花火大会に行こうと誘ってみると、可愛らしい「OK」のスタンプが送られてきた。待ち合わせの時間と場所を決めた後に、ご飯だと呼ばれてダイニングまで行くと、俺が嬉しそうにしているのがバレバレで、両親がニマニマ顔で聞いてくる。
「あらあら、要ったら。なんだかすごくご機嫌じゃない」
「なんだなんだ、デートの約束でもしたのか?」
「その顔やめろ。……まあ、そうだけど。花火大会あるから誘ったんだよ」
そう伝えると、母が急に真面目な顔をする。
「服、どうする気?」
「普通に私服の予定だけど」
「馬鹿ね! 浴衣着ていきなさいな浴衣! ね、お父さんもそう思うわよね?」
「まあ、花火大会といえば浴衣だろうな」
「は? 嫌だよ、暑いし」
「何言ってんのよ……剣持さんが浴衣着てきたらどうするの?」
凛が、浴衣を……? 母の言葉を聞いて頭の中で想像する。絶対可愛い。だがしかし、彼女が浴衣を着てくるとは限らない。凛が着てこなかったら、俺だけ浮かれてるみたいに見えるのかっこ悪いじゃん。ってだめだ、凛の浴衣姿を妄想してる間にもう母さん食べ終わって俺用の浴衣引っ張り出してるわ。浴衣確定か、凛も浴衣だといいけど。
そして、花火大会当日。待ち合わせ場所に現れたのは、とんでもなく美人なやまとなでしこだった。
「要、すまない。待ったか?」
浴衣だ! 髪型いつもと違って編み込みのお団子だし……っ! 俺の彼女、綺麗な上に超可愛い……っ!!
いつものように悶えていると、凛が呆れた声を出した。
「いつも思うが、お前のその顔を塞ぐポーズ、隣でされると他人のフリをしたくなるからやめろ」
「はいすんません」
そうして、俺たちは花火が始まるまでの時間をで店を見て回って楽しんだ。射的をやって、俺は案の定何も取れず終わり、凛は射的で2等を取っていた。2等が人気スイーツ店のケーキ盛り合わせ引換券だったので、狙いを定めて銃を打つ凛の顔が本気すぎて怖かったけど。
その後、腹ごしらえをするために、飯系の出店を回った。俺は焼きそばとたこ焼きを、凛はかき氷と鈴カステラ、わたあめを買った。凛が買ったもののラインナップを見て、俺は呆れた声を出す。
「甘いもんばっかだけどいいの?」
「ああ、平気だ。あ、でも、たこ焼き1つ欲しい」
「……鈴カステラ1つと交換な」
そうして夕飯をたいらげた後、俺は凛にどこで花火を見るかと相談した。すると、彼女はいい場所があると俺の手を引いて神社に向かう道から少し外れた林の中に連れて行かれる。しばらく歩くと、少し開けた場所に出て、凛が柔らかな表情で話す。
「じいちゃんたちと来ていた時によくここで花火を見ていたんだ。ここなら人も来ないし、お前の不幸も発動しないだろう?」
俺が凛の言葉に頷くと、彼女はハンカチを2枚出して地面に敷いて、俺たちはそこに腰掛けた。
数分後、花火が始まり、夜空に大きな花が咲く。凛は目をキラキラさせながら花火を見ている。よくある恋愛漫画で花火より花火を見ている好きな人の方が綺麗だって思うシーンあるけど、あの気持ちめちゃくちゃ理解したわ今。俺は花火に夢中の凛の左手を優しく握った。
「要……?」
少し驚いてこちらを向いた彼女の額にそっと唇を落とすと、少し体をびくつかせて、真っ赤な顔で目をぎゅーっと瞑ったまま固まっている。それが可愛くて、くすっと笑ってしまう。その声に気づいてそろーっと目を開けてまだかと言いたそうな顔をした
「んっ……要……」
その顔ずるくねぇ?と思ったと同時に、我慢してた理性メーターぶっ壊れた音がした。
「……凛、もっかい」
「ちょっと待っ……」
「待たない」
「んっ、かな………まっ……! 〜〜っ、待てと言ってるだろう!!」
「いってぇ!!!!」
ぐーで思いっきり殴られた、痛い。
「はぁ、はぁ……っ、何回もするな阿呆!」
「悪ぃ、可愛くてつい……」
謝りつつ、まだ痛む頬を擦りながら、急ぎすぎたよなと落ち込んで凛から少し離れると、彼女は俺の右肩に頭を寄りかからせてきた。驚いて彼女の方を見ると、耳まで赤くしながらぼそっと呟いた。
「は、離れろとは言ってないだろう……」
「………………………………」
「? どうした?」
「ナンデモナイデス」
耐えろ俺! 人気のない場所で2人きりで花火を見るというシチュエーションのせいか、いつもより甘えたな凛が、普段とは違う髪型と服装なのも相まっていつもの数倍可愛い気がするが、大丈夫、耐えれば問題ない。頑張れ俺!
花火が終了し、凛を家まで送り届けた後、黒澤に迎えに来てもらい、風呂に直行してすぐ冷水シャワーを浴びた。理性メーターは限界ぎりぎりで、耐え抜いた俺を誰か褒めて欲しい。浴衣って危険だ、心に刻んでおこ。
とにかく、初めての花火大会デートで思ったこと。
…………浴衣マジックって怖ぇな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます