サバ味噌転生!~鯖に転生した元殺人鬼VSそこらへんの奥さん~

北斗

第1話 献立はサバ味噌

 はっ、と気づいた時、この身はサバだった。

 しかもまな板の上のサバ。必死にビチビチ跳ねるも、奥さんにやさしく押さえつけられた。身動きが取れない……!


(なんでこんなことに……!)


 ……そうだ、俺は海で男に釣られ、クーラーボックスの中にしまわれたのだった。そして、気付けばまな板の上。


 何故魚の俺が、まな板だの、クーラーボックスだの知ってるのかだって?


 ……前世、人間だからに決まってる。しかも、俺は殺人鬼だった。

 散々人を殺して、死刑にされたが、……まさか来世はサバに転生するとは!


 考えている暇はなかった。奥さんの包丁が俺のえらにそっと添えられたからだった。

 えらに包丁で切れ込みを入れられる前の、ぞわぞわとした感触たるや!


(俺が首を落としたやつもこんな思いを……!?)


 いやだ、おれは耐えられない!

 暴れるも、奥さんはどこ吹く風だ。口笛なんか吹きつつ、力を籠め――、

 ダァン!!

 そして、激痛! 殺人鬼の経験でわかる! 一発で首が落ちた!


(ちくしょう! 奥さん、アンタいい殺人鬼になれるぜ!)


 痛みに呻く暇もなく、俺の意識は途絶えた――


 と、思った。……のだが、


 なぜか感覚がまだ残っていた。

 俺は恐怖する。


(ま、まさか――)


 そのまさかだった。

 奥さんの料理はまだ続き、俺は責め苦を味わい続けるのだった。

 切り口に塩を刷り込む、お湯にくぐらせ、冷水に浸す……。

 その度に堪えがたい痛みが襲い、俺は気絶することもできずに、それを味わい続けた。


(こ、こんなのあんまりだ――! い、いくら人を殺したからって――)


 ケツの穴から頭の方まで包丁で腹を裂かれ、内臓をえぐり出されたときは、首を吊られたときの比じゃない痛みと衝撃だった。


(こ、これがまだ下ごしらえだと!)


 味噌を溶かして、粟立った煮汁につけられた時、俺は地獄の痛みを味わった。

 十字に傷つけられた切れ目から、味噌と醤油の塩分、砂糖の粒が熱と共にじわじわと染み入ってきたのだ! さばみそだ!


(や、やめ……! あああああああああああああ!)


 照りを出すためだろう、さらに何度も煮汁を懸けられた。まるで、釜茹で地獄で、鬼どもが罪人に熱した油をかけるように!


(ああ、ああああああああ!)


 俺の意識は途絶え、もう二度と浮上しなかった――。



「あなたー、ご飯よー。なんと、今日はさばみそ!」


 縁側の風鈴がちりんとなって、まるで仏壇のおリンのよう。

 地獄行きの男を見送ってくれたようだった。

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