夕焼け

 そのあとしばらく、ぼくたちは主に、彼女の住んでいる町について話した。

 いいところだと思うんですけど、と彼女は言った。

 最近はあまり、こういうタイプの観光地は人気がないのかもしれませんね。

 すごくすてきな場所です、とぼくは思ったとおりを熱心に言った。

 そしてこのうちを訪ねる前に立ち寄ったそこここがいかに印象的だったかと、わざとらしく聞こえないように一生懸命に語ってみた。町並みや歴史、そして海辺。

 あの海岸の夕焼けは、本当にすっごいですよ、と彼女は言った。

 濃い緑の木の葉が覗く、白壁の道についてぼくが話すと、彼女の微笑みに、澄んだ青の色が載ったように見えた。

 あのひととの思い出の場所なのかな、とふとぼくは思った。


 玄関から去るぼくを見送りながら、また来てください、と彼女は言った。

 ぼくは、また来ます、と言った。本気だった。

 ぼくたちは友達のように笑って別れた。

 門を出ると、夕焼けの色を含み始めた空気が、むっと濃く、重たかった。

 もう一度身体が汗ばんでくるのを感じた。


 次にその土地を訪ねることができたのは、それからさらに三年経ったあとのことだった。

 彼女の家があったところには、出来たばかりらしい、大きなマンションが建っていた。


                               〈終〉


 

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こぬか雨のあと 林城 琴 @Meldin

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