第4話 小さなアトリエの中

「いつもみるくの動画を見てくださっているみなさん。ありがとうございます。

 これから少し、更新頻度が下がると思います。今、がんばりたいことがあるんです。動画とはまた違ったことなんですが、応援してくださると嬉しいです」


 みゆきは、珍しくメッセージだけの動画を投稿していた。見慣れたセーターを着て画面に映る“みるくせいき”は、違和感があったが、親しみも感じられる。

 あれから、みゆきは居酒屋「榮川」で働き始めた。もちろん保と今坂の紹介である。推定七十歳の店員の「お姉さん」は、素直で人当たりのいいみゆきを孫のように可愛がっている。みゆきも不器用ながら溌剌はつらつとした働きぶりで、お姉さんの期待に応えていた。みゆきの作る揚げ出し豆腐は常連に人気で、店の看板メニューになっていた。


 保はというと、コンクールに絵を出品して以来「令和の春画師」として名を馳せていた。それは、画壇での評価というよりは、SNS上で保の日本画を紹介した書き込みが元でバズったのであった。特に、本物の経血けいけつを用いて描いた『月』は、日本画業界のみならずエロ絵界隈をも震撼させた。これも、モデルはみゆきだった。

 絵を仕事にできるということが、まだ少しも実感できなかった。正統派な売れ方ではないのが、気にならないわけでもない。それでも保は、大きな作品を描けるように机をアトリエに設えた。アトリエは、一段狭くなった。


 今日も帰ると保は一目散にアトリエに入る。


「おかえり、保さん」

「みゆき、ただいま」


 今でも二人は小さなアトリエの中で、一枚の毛布にくるまっている。もう少し暖かくなったら、毛布はいらなくなるだろう。それでも狭いアトリエの中で、二人肩を寄せ合っているだろう。

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みるくせいき kgin @kgin

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