……いつの間にやら、私は眠ってしまったようだ。掛け時計を見上げてみると、時刻は朝の七時を迎えていた。

「うげぇ……。あ、頭が……」

 酔っ払いの友人は、苦しい二日酔いに悩まされている。竪琴を奏でるタントリスは、すでに帰ってしまったらしい。

「おい、起きろ。水でも飲むか?」

「あー……」

 彼はうんうんと呻きながら、冷たい水に口をつける。私は店を片づけがてら、先ほどまで聞いていたはずの、不思議な物語を思い出そうとした。

「なぁ、おまえ。タントリスの話、覚えているか?」

「あー……? タントリスぅ……?」

 友人は頭を押さえながら、いやに不機嫌な声を出した。「二日酔いなんだから、話しかけるな」とでも言わんばかりだ。

「昨日の夜、話を聞かせてくれただろう。『最後の戦い』の、真実とやらを……」

「あー? んなもん、忘れたわ……」

 どうでも良さそうな顔をして、彼はカウンターに頭をつけた。あれほどまでに絡んでいたのに、本当にいい加減なやつだ。

「全く……」

 私は彼に呆れながらも、自分も何も覚えていないことに、思わず頭を捻った。真実とは、ひどく曖昧で、実に儚いものだ。……そう思うほどに、私は彼の聞かせてくれた話を、きれいさっぱり忘れてしまった。

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詩人=タントリスの回想 中田もな @Nakata-Mona

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