第3話 入学試験でやりすぎた

 優雅に空中散歩……とは言い難い速度での空の旅は、魔物たちの群れすら押し除けあっという間に魔法学園へと到着した。


「し、死ぬかと思ったわ。まさか1分も経たずに到着しちゃうなんて……。あんな【飛行魔法】を使うなんてマナトはおかしいわよ。それにまた無詠唱だったし」

「あはは。僕もここまで速いとは思わなかったかな」


 初めて使ったんだよね……なんて、この様子じゃ口が裂けても言えなさそうだな。

 誤魔化すために軽く微笑んでおいたが、逆に怪しまれてしまったかもしれない。


 王立魔法学園の門をくぐると、奥から教師と思しき女性が挨拶を交わしてくる。

 水色のボブヘアーに黒い魔女の三角帽子、そして黒のローブには銀色の星が5つ誇らしげに輝いていた。


「魔法学園へようこそ、アイナ・ハーティリアさん。私は五ツ星魔法師であり、学園長でもあるレイニーよ。……と、そちらの男性は?」

「こんにちは、レイニー学園長。彼は私の使用人なので、使用人枠の入学試験を受けさせるつもりですわ」


 本来なら事前に入学試験の申請をしなければならないらしいが、公爵令嬢の希望とあって僕の受験は例外的に許可してもらえた。……さすがは四大公爵家の力だ。


 ただ、すでに試験の順番は決定されているため、皆が終わってから最後にひっそりと行われることとなった。僕としては、他の入学生の魔法を見ておきたかったので残念だ。


「あの、学園長先生。ちなみに今回の試験はどういう内容なのでしょう?」


 僕の代わりにアイナ様が、レイニー学園長へ質問をする。


「今回は50メートル先のまとに【火炎矢】の魔法で何回命中させることができるかどうかよ。1回でも当てれば合格基準を満たせるし、1人辺り持ち時間は10分あるから、焦らずじっくり狙えばきっと大丈夫でしょうね」


 アイナ様は『なるほど。それなら問題なさそうね』と言った反応だったが、僕は当然【火炎矢】という魔法を使った事はない。


 待っている間に、《大賢者なりきりセット》の能力で魔法一覧から【火炎矢】を探し出す。



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★【火炎矢】

 別名『ファイアーアロー』とも呼ばれる。炎を矢の形に変形させ放つ基礎的な遠距離魔法。射程が長い分威力は中程度。命中させるために繊細な魔力操作が必須なため反復練習が必要。

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 反復練習が必要とか……。

 これ僕、詰んだんじゃないかな?

 繊細な魔力操作が必須と言われても、よく分からないし。


 緊張で手汗が滲み出る中、程なくして僕の名前が呼ばれた。


「マナト、しっかりね。応援してるから!」

「やれるだけやってみるよ……」


 煮え切らない返事をした後、試験監督に連れられ僕は試験会場へと移動した。



 ◇



 試験会場に入ると、事前にレイニー学園長から聞いていた通り50メートル先にまとが置かれていた。ただ、話と違ったのは横に並ぶように10個も置かれていたことだ。


「マナトさん。試験内容は聞いてると思いますが、10分間に【火炎矢】を何回命中させれるかを見ます。ちなみにまとに少しでもヒビを入れることが出来れば満点合格です。ただ学園が誇る最強の防御結界を使わせてもらってるので、ヒビが入るなんて99.9999999%不可能に近いですけどね。せいぜい頑張ってくださいね」



 王立魔法学園が誇る最強の防御結界か。

 よし、それならほんのちょっとくらい頑張っても大丈夫そうだな。

 試験会場自体にも強力な結界が施されているとのことなので、改造魔法でも問題ないだろう。

 どうせ10個のまとに当てなれければいけないのなら……。


 ——10個のまとを同時に全て破壊してやる!


【火炎矢】に《多重魔法発動》と《命中率UP・極》、更に《結界貫通》と《完全破壊》の効果を付与させる。


 右手を伸ばし、全てのまとを見据えて静かに口を開いた。


「『火炎矢・改』発動!」


 オレンジ色に染まる魔法陣が一瞬にして大量に発現したかと思うと、火花が激しく散らされる。そして即座に荒々しく燃え盛る炎の矢が生成されていく。

 

 ……その数、全部で50本!

 強力な結界とのことだったため、1つのまとに対し5つの【火炎矢・改】を命中させる計算だ。


 豪快に燃え盛る【火炎矢・改】は目に見えない俊敏な速度で移動し、全てまとのど真ん中に命中した。


 ——ドゴォォォォォォォォォォンンンンン!!!


 ……と同時に、けたたましい轟音が鳴り響きまとはガラス細工のように簡単に砕け散っていく。終いには施設の壁すらも粉々に粉砕してしまった。


 ここまで試験が開始されてから、たった3秒間の出来事。

 これには試験監督も情報処理し切れなかったらしく、完全に目を回してしまっていた。


「あわわわわわわわわわわわ……。ナンナンデスカコレハ?! 杖なしの無詠唱?! しかも【火炎矢】で学園最強の防御結界が施された壁を完全に破壊?! こんなの伝説の大賢者様が全力で魔法を使ってもあり得ないですよ!!」


 ……えぇ、そうなのか?

 正直なところ全力どころか、1割にも満たない力で魔法を使ったんだけどな。

 どうやら《大賢者なりきりセット》と【魔法改造】の組み合わせはトンデモないらしい。



 ちなみに試験の正確な内容は、目の前にあるまと1つだけに狙いを定めて【火炎矢】を放つというものだったらしい。

 10個も並んでいたのは、同時並行で10人の試験を行うためだそうだ。……なんて紛らわしい。


 もちろん僕は入学試験を無事合格。ただその後、施設を破壊してしまった件も含めて僕の異常な試験結果はあっという間に学園中に広まってしまうこととなる。


 "魔法神" が降臨した!

 ……と噂されるようになることを、この時はまだ知らなかった。


 



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【登場人物紹介】

■レイニー学園長(28歳)

 マナリティア王立魔法学園長。

 王国が誇る五ツ星魔法師。(魔法師の格を決定づける星の数は一ツ星〜七ツ星まで存在する)

 様々な魔法を研究し、自身で魔法書まで書いてしまうほど。

 水色の短髪に巨乳なのに、くっきりとしたくびれが自慢。

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転生魔法師の改造魔法がぶっ飛びすぎな件!〜女神様から貰った《大賢者なりきりセット》と、僕だけが使える能力【魔法改造】が規格外すぎて"魔法神"と呼ばれてます〜 月夜美かぐや @kaguya00tukuyomi

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