ヘタレ陰陽師、ついに……?!
第17話 ついに来たか!?
その後、今度はおパさんの毛皮の中でお着替えを済ませた慶次郎さんは、結界を破って、ぐったりしている
ちびっ子たちはもっと彼らと遊びたかったみたいだけど、これ以上はさすがに酷だろうとのことで、無理やり引き剥がした形である。
いつまでももふもふの姿だとマスコットと間違われて逆に危険なため、ケモ耳尻尾のイケメンに姿を変えた彼らは、ソフトクリーム屋台の向かいのベンチですっかり伸びている。それにしても、どうしてケモ耳ーズは全員黒スーツなんだろう。歓太郎さんも姐さんスタイルだし。一体何のコンセプトなんだ。
「あー、おれら全然活躍出来なかったなぁー」
チョコソフトを持った純コさんが零す。
「おパに持って行かれましたよね、完全に」
バニラソフトを持った麦さんが同意する。
「ふっふー。だってぼく、一番お兄ちゃんだし~」
チョコとバニラのミックスソフトを選んだおパさんは上機嫌だ。
「葉月ったら、ずーっとぼくの上に乗ってたしね~。うふふ、ふふふ。柔らかかったなぁ。良い匂いしたなぁ」
「ちょっと待って。確かに乗ってたのは事実だけど、何か嫌」
「まぁまぁお前達。式神同士で争うんじゃないよ。今回の功労者はどう考えても俺だろ、俺! ねー、はっちゃーん」
褒めて褒めて~、と純コさんと同じチョコソフトを持った歓太郎さんが、にゅ、と唇を突き出す。その横っ面を軽く叩くと、「痛い!」と言いつつも、「ふはぁ、ありがとうございます」とデレデレしているのが大変気持ち悪い。
「どう考えたって今回の功労者は慶次郎さんに決まってるでしょ! 祓ったのは慶次郎さんなんだから!」
と、何やら真っ赤な顔で背中を丸めている陰陽師様を指差す。あたしと慶次郎さんはさっきソフトクリームを食べたので、お互い缶コーヒーだ。そのコーヒーの口も開けずに、丸まっている。
「いや、ていうか、どうしたの。えっ、いまそんなにしょげるようなポイントあったっけ?」
ちょっとー、もしもーし、と言いながら、背中をとんとんと叩くと、耳まで赤くなった彼は、一言「すみませんはっちゃん」と涙目で顔を上げた。もうどう見たってガチ泣きの様相に、あたしはもちろん、その場にいた誰もが腰を浮かせて慌て出した。
「おっ、おい、慶次郎どうした!? 葉月が何かしたのか?!」
「葉月、慶次郎だってきっと悪気があったわけじゃないと思うんです、詳細はわかりませんけど!」
「葉月、慶次郎のこと怒らないであげて? さっきいっぱい頑張ったしさぁ」
「いや、はっちゃん、慶次郎が悪いんなら、びしっととどめを刺すべきだと思うよ、俺は。介錯は任せて」
「おい、実の兄貴! お前も味方してやれや! じゃなくて! 待って、あたし何もしてないよ?! 怒ってないし! ていうかむしろ怒られるのってあたしの方じゃない?」
「……どうしてはっちゃんが怒られるんです?」
「だってほら、くしゃみして、何か大変なことになっちゃったっていうか」
ていうかそもそも、あたしがあの地図を逆に回ったからこんなことになったっていうか……。
「それです」
「は? くしゃみ? いやもうその節は大変申し訳――」
「すみませんでした!」
頭を下げかけていたのを、それよりもさらに勢いのある謝罪を被せられ、あたしは中途半端な姿勢で固まった。
「は? 何で慶次郎さんが謝るの? この場合、謝るのはあたしの方では?」
「違うんです! あの、あの時!」
「くしゃみの時?」
慶次郎さんは耳まで真っ赤な顔で、こくり、と頷いた。
「僕、あの時、とにかくはっちゃんを守らないとって思って、それで、その、咄嗟に、僕が咥えてた御札を……!」
「あ、あぁ……」
やっぱりそうだったんだ、あれ。
いや、あたしもね、まさかなーとは思ってたし、だとしたら間接キスとかそんな話にもなるんだけど、正直それどころではなかったしね? ぶり返さなければそのまま忘れてたっていうか……。
「き、き……」
ふるふると震えて、慶次郎さんは「き、き」と繰り返している。その後に続くのはやはり『キス』だろう。うわぁ、慶次郎さんの口からそんなワードが飛び出すとかちょっともう恥ずかしすぎる!
「汚かったですよね!」
「……は?」
「すみません! ほんとすみません! お、御札はまだ予備があったんですけど! 何にでも使えるようにって途中までしか書いてないやつなので、その、時間がなくて! 僕も精神的に余裕がなくて! すみません、陰陽師失格ですね……」
まさかそこで『陰陽師失格』に着地するとは思わなかったけど。
「いや、あのね、慶次郎さん、深く考えすぎだから! ね? あれはもう事故みたいなものっていうかさ! あたし全然気にしてないし?」
嘘です。
ちょっとは気になる。
ていうか、逆に気になるわ!
「え〜? 葉月本当〜?」
「葉月、何だか顔が赤いですよ?」
「キャッ、慶次郎と間接キスだわぁ、とか思ってねぇ?」
「あー! そうだよ! 間接キスじゃん! ずるいぞ慶次郎!」
「だ、黙れっ! お黙りなさい、アンタ達!」
とにかく! と声を張り上げて、
「本当に大丈夫だから。汚いとか全然思ってないから。疚しい気持ちなんてなかったわけでしょ?」
「疚しい気持ちとは……?」
うっ、何この人『間接キス』とかもわかんないの? えっ、二十三歳なんだよね? そりゃあいままでお付き合いの経験なんかも丸っとないだろうとは思ってたけど、キスもないわけ? ……ないか、そうだよな。ていうか、式神達は知ってんのに何で製造者が知らないのよ!
「いいやもう、『疚しい』の部分は忘れて。とにかくさ、あたしを守ろうとしてくれた結果なわけだし。現に無事だったわけだし。それよりそのせいで慶次郎さんに迷惑かけちゃったことの方が、あたしとしてはさぁ」
もしあの時、あたしがくしゃみなんてしていなかったら。
たぶん、結果というか、お祓いの手順としては同じだったかも知れないけれども、慶次郎さんがこんなに傷つくことはなかったのだ。
「慶次郎さん、大変だったでしょ。突き飛ばされて転んだりさ。ずーっと走り回ってたし」
そう言いながら、彼の肩に触れる。既にクソダサネタT姿である。あの
「それくらい、どうということはないです」
「どうってことあるよ。あたしは、慶次郎さんが死んじゃうんじゃないかと思ったよ」
「僕は死にませんよ」
「かもしれないけど、そう思ったんだって」
「まだはっちゃんに何も伝えられていないんですから。絶対に死にません」
「……だったら伝えれば良いじゃん」
四人がけのベンチに、一人で座っている慶次郎さんが、何かに気付いたような顔をして、その向かいに立っているあたしを見上げる。
その隣のベンチでは、ケモ耳ーズと歓太郎さんが「いよいよか!?」と身を乗り出している。お前達、絶対に邪魔すんなよ。ていうか空気読んで席を外せ!
「あ、あの、はっちゃん、僕は――」
来た!
ついに来た!
つい「はい? 僕は?」と合いの手を入れそうになるのをぐっと堪える。
「僕は、その、あなたのことが」
と、一番良いところで――
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