ヘタレ陰陽師、遊園地に行く!

第4話 その手には乗るか!

 遊園地である。

 電車に乗り、少し歩いて辿り着いたそこは、ネズミ達の夢の国のやつではない。そこに比べたらもうほんと、小規模の――なんて言ったら失礼か。あそこと比べたら大抵の遊園地は小規模だわな。


 ここはあたしの両親が小さい頃からある『どろろんランド』という、なかなかに歴史のある遊園地で、ジェットコースターや観覧車、メリーゴーランドにお化け屋敷といった、とりあえず基本は押さえている施設だ。あたしはうんと小さい頃に一度連れて来てもらったことがある。


 ただ、規模としては小さいけれど、なかなかに凝っていて、園のテーマはずばり、妖怪やあやかしである。そういう意味の『どろろん』というわけだ。

 まず、ジェットコースターは百鬼夜行コースターって名前だし、観覧車は火の玉が描かれてて、夜になるとぼわっと光るし、メリーゴーランド(ここでは『どろろんゴーランド』という)だって馬じゃなくて妖怪だし、かぼちゃの馬車の代わりに朧車おぼろぐるまだったりする。もちろんお化け屋敷はかなりガチに怖いらしい。

 そんでもって、マスコットキャラは、恐らく安倍晴明をモデルにしていると思しき、平安貴族風の男の子『たいまくん』である。大麻じゃなくて、退魔だから! って熱弁しなくてもわかるか。なのでまぁ、慶次郎さんにはぴったりの遊園地といえなくもない。


「うわぁ〜、ひっさしぶりだなぁ、遊園地!」


 大きく伸びをし、どこから回ろうか、とキョロキョロ見回す。慶次郎さんは、そうですねぇ、と言いながら、ごそごそとまたしてもバッグの中から何かを取り出した。


「えーっと、それ何?」


 小さく折り畳まれていたそれは、広げるとA3くらいの大きさになるポスターのようなものだった。ちょいと失礼、と覗き込むと、なんてことはない、この遊園地の地図である。


 ただ、書き込みが尋常ではない。


「えっ、これマジで何」


 明らかに手作りのそれに少々引き気味でそう尋ねると、慶次郎さんはよくぞ聞いてくれましたとでも言いたげな表情で、


「歓太郎が朝持たせてくれたんです」


 と笑っている。

 そのイケメンスマイルは実に爽やかで花丸満点なんだけど――、


 歓太郎さんわいせつ神主め! あいつどこまで関わってやがる!!


 正直気が気ではない。


 それに今日はあのケモ耳ーズが揃って休みをとっているのも気になる。もしかしてこのデート、つけられてないよね?! と思わず腰を落として素早く辺りに視線を走らせてみる。が、怪しい人影はない。考えすぎかな。だって、ケモ耳ーズは休みでも、歓太郎さんは神社仕事だもんね? 弟に店閉めんな、って言うくらいだもん、まさかまさか神社閉めてまで尾行したりなんてしないでしょ、うん。


 だけど念の為に、と、熱心に地図を読み込んでいる慶次郎さんに尋ねる。


「あのさ、一応確認なんだけど」

「何でしょう」

「今日って神社お休みだったりしないよね?」

「え? はい、それはもちろん」

「だ、だよねだよねー。いくらお客さんがほぼほぼ来なくても、ホイホイ閉めるわけないよねぇ。歓太郎さん、ちゃんと働いてるよねぇ」


 だよねだよね、とホッと胸を撫で下ろしていると、目の前のイケメンはふるふると首を振った。


「歓太郎は今日お休みですよ」

「は?」

「何でも今日は大事な用があるとかで」

「は、はぁ?」

「幸い、婚礼やお祓いなどの予約もなかったものですから、とりあえず留守番用にを――」

「鮎? 魚?」

「あぁ、いえいえ。式神です。『鮎餅あゆもち』っていうんです。彼を置いてきました」

「毎度毎度妙な名前つけやがって! さてはさっきの臨時君達もアレだろ、見だいふくと饅頭だろ! 桃は何だ! そいつも桃饅頭とかそういうやつか!」

「惜しいですはっちゃん。『淡雪あわゆき』と『桃山ももやま』と『栗羊羹くりようかん』です」

「だとしたら惜しくねぇんだわ!」

「惜しいですよ、全部ほら、甘いお菓子ですから」

「甘いのはお前の判定だ! いやそれよりも! 何、歓太郎さんとケモ耳ーズ揃ってお休みなわけ!? もう絶対これ仕込みじゃん! 仕組まれてんじゃん!」


 足を大きく開き、うがぁ、と吠える。これ絶対どこかにいる、姿は見えなくても絶対見られてるじゃんか畜生!


「まぁまぁはっちゃん。落ち着いて」

「これが落ち着いていられますかぁっ! ちょっとそれ貸して!」


 そう断って地図をぎろりと睨む。よく見たらこれ、回る順番まで書かれてんじゃん。えーと何何? まずは観覧車から? それで、ここで休憩とか、ここで手を繋ぐとか……、ちょ、何、き、きききキスの予定まで書き込まれてやがる! あンのクソ神主! 祟られろ!


「これは没収します」

「えぇっ!? そんな!」

「慶次郎さん、いつまでも兄貴に頼りっぱなしで良いの?」


 一応大事なものらしいので、とりあえずきちんと畳み直してあたしの鞄に入れる。後でお焚き上げのやつにぶち込んでやるからな。


「それは……良くないです」

「そうでしょう? 立派な男になるんでしょ? 立派な男とか、立派な陰陽師とか」

「そうです! 僕は立派な男になって、然るべきタイミングではっちゃんに告白するんです!」

「よっしゃよく言った! 然るべきタイミングでビシーっと決めてくれ!」


 そう、このヘタレ陰陽師イケメン、まさかまさかではあるが、あたしのことが好きなのだ。そんであたしの方でも彼が一歩踏み出してくれるのを待っている。いや、そこまで来たらいっそあたしから言えば良いじゃん、という状況ではあるんだけど――、


 彼の方から言われたいじゃん!

 あたしこれまでモテにモテない人生送ってきたんだから! 一度で良いから、好きな人から好きですって告白されたいのよ!


 なのにこのヘタレ野郎、ここまでだだ漏れなのに、あたしの方でもだだ漏れのはずなのに、その一歩が踏み出せないと来ている。たぶん歓太郎さんとケモ耳ーズはそんなあたし達がもどかしくて動いているのだ。それはわかってる。有り難いと思わなくもない。


 ただ、癪なだけで。


 というわけで、歓太郎さんwithケモ耳ーズあいつらプロデュースのデートなんてまっぴらごめんなのである。


 あーっはっはっは、その手には乗るかぁっ! いっそこのデートコースの逆を行ってやるわ!


 そしてどうやらこれが間違いだったらしい。

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