大倉庫ひとりぼっち
北緒りお
大倉庫ひとりぼっち
おう、ハチ、今日も威勢がいいじゃねぇか。
なんて声かけてたって、相手はロボットだしな。返事なんかするわきゃねえのはわかってんだけど、こうやって無駄に話しねぇと一日中黙ってるはめになっちまうしな。
リモートだのロボティクスオートメーションだのやってたら、このフロアに残ってんの俺一人になっちゃったもんなぁ。
この建物ができたときは、エリア最大級の物流拠点なんて騒がれて、そりゃ人もうじゃうじゃいて、昼飯時なんていうと、祭りでもやってんのかってぐらいに食堂に集まってたもんだけど、出社制限が始まって自動化が始まってってやってるってと、あんだけいた有象無象はあっという間にロボに置き換えられちまったな。あれよあれよっていううちに伝票管理とかやってる人間も減らされた上に、自宅で作業可能とか言って、誰も出社しなくなっちゃったもんな。
そんじょそこらの駅ビルより広いってのに、俺一人ってどういうことなんだろうね。ここで裸になって走り回ったってなんの問題もおきないってもんだ。ま、この真冬のど真ん中でろくな暖房もない所で裸になったって俺が風邪引くぐらいなもんだな。
なんだい、一人でぺちゃくちゃやってると、ハチがまたうなり始めたよ。
悪いロボじゃないんだけどね、倉庫ができた頃からいるもんだからあちこち油が切れちゃってモーターに負荷がかかるんだろうね。遠くにいてもわかる音をあげて、もたついちゃうんだから。
自動走行の集荷ロボってだけあって、荷物を持ち上げる腕が四本にセンサーやバーコードリーダーとかの腕っぽいのが4っつあって、腕が八本あるんでハチって呼んでるけど、こいつがただ一人話しかける相手だからな。
人感センサーがあるもんだから、俺が歩いてると避けたり、プログラムで処理しきれないところがあると俺んところに寄ってきたりするもんだから、見たくれが仰々しい犬みたいだもんに思えてくるね。けれども、こいつは犬より賢いってのがいいよ。試しにボール投げてみたら取りに行かないで異常検知ってんで、本部に通報しやがった。おかげで反省文書くはめになっちまった。
お、そうこうしていると今度はクマつぁんの登場だ。やたらとでかいしいかついね、ロボのくせに突っ立ってるだけで人に威圧感与えようってんだから見上げたもんだ。
トラックできた荷物を丸ごと受け取って、棚に納めるのが仕事たって、そもそもの荷物が大きいからな、自動販売機ぐらいの荷物をさばくんじゃそりゃ図体もでかくなるってもんだ。
このロボ達、俺が書いたプログラムで動くんだから、半分は自分の子供みたいなもんなんだけど、仰々しいやらでかいやらでまったくかわいくねーのが動物と違うところね。撫でたって冷てぇやら油がつくやらでさわりたくないね。
プログラム書いてるときに鳴く機能でもつけといてやりゃよかったな。目的の荷物が見つかんなかったらニャーって鳴くの。で、クマが足りない荷物を補充したら、ホーホケキョって鳴いたりして。うるさくてかなわねぇな。
うるさいっていったら、倉庫に入ってた工事がやっと終わったね。ずぅうっと工事しているからどっかの銀行のシステムみたいに終わらないのかって思ったら、フロアぶち抜いて坂造ったってんだからえれぇもんだ。
これでロボ達も自由にほかのフロアに行けるようになるってふれこみだけど、それはそれで帯に短したすきに長しってやつでな。ハチのやつは足まわりを交換してやって坂を移動できるようにできるからいいけど、それができないとなると交換されちまう運命ってんだから冷てぇ話だよな。
フロアの上と下がくっついちまうと、いままでフロアごとに人がいてプラプラしてたのが、建物全体を一人で見なきゃいけなくなっちまう。
そのためにプログラムに手を入れるのが俺の仕事ってやつで、やってもいいけど、やりたくねぇ仕事だよな。気が重い。
ほかのフロアの人間だって、担当がなくなっちまえば仕事がなくなるってもんで、ほかの人間をお払い箱にするために俺の仕事があるんだからタチが悪い。
食堂代わりになってる大会議室で、冷めてフタに汗かいちゃったような仕出し弁当つつきながら、感染しちゃいけないってんで端っこと端っこに座って、お通夜みたいな顔しながら黙々とメシ食ってる間柄の奴らだよ。親しくもなければ声を聞いたことがあるわけでもないんだけれど、それでも人様の仕事を奪うようなことをするのもヤなもんだな。
正直、毎日無駄話を一方的にふっかけてるクマハチの方が話をしてるってもんだ。
お、そうこう話をしているとハチの奴がきたね。おおかたバーコードが汚れてて読めねぇってんだろ。
おう、そうか、ハチ。お前とは何年のつきあいだろうな。初めて会ったときは、お前もまだ若くてタイヤの溝だって深かったんだけど、お互いに年とったもんだな。お前は油差さないと動きが悪くなるけど、俺は脂ぎって電話でもしようもんならスマホが脂べったりになっちまう年頃だもんな。
そうやって忘れた頃にちょろちょろ俺の周りをうろついて、お前は俺のそばにいたいか。まあ、俺もだけどな。
全フロア駆けめぐるつったら、そりゃ仕事もきつくなるけど、捨てられるよりはましだからな。
あぁ、業務の自動化やめてくんねぇかなぁ。
自動化したって人が減る一方で仕事は楽になんねぇしな。
労働基準法とかで厳しく取り締まってくれりゃいいんだけどな。
それこそ子供に働かせちゃいけないって決まりがあるんだから、自動化で労働者をへらしちゃいけねぇって法がありゃいいんだけどな。
自動労働禁止ってな。
大倉庫ひとりぼっち 北緒りお @kitaorio
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます