2 徹への手紙
調子はどうだ?
徹のことだから、調子が良かろうと悪かろうと、 精一杯、生きているのだろうな
こっちは相変わらずだ
運転席は俺、助手席は爽夏
左の後部座席には、クマのぬいぐるみが置かれている
長野のお土産屋で買った、小さなぬいぐるみだ
徹の代わりだそうだ、爽夏が置いた
爽夏が、レースに復帰し始めたぞ
泉さんは大喜びだ
綾さんも、さやかさんも喜んでいる
そう言えばこの間、100マイルのレースに出ようかな? なんて言い出した
100マイルは大変だぞ、辛い事も苦しい事も怖い事も、一杯ある、と言ったら
航が完走できたんだから大丈夫でしょ、と言いやがった
まぁ、こっちは相変わらずそんな感じだ
徹は、ゆっくりと養生してくれ
人生は長いんだ、焦る事はない
たまには、ひと休みするのも有りだし、寄り道したって構わない
退院したらカヤックの漕ぎ方を教えてやるよ
何ならサーフィンも教えてやるぜ
俺たちは、いつまでも待っている
いつか徹の武勇伝が聞ける日を、楽しみにしているよ
俺は、100マイルってとんでもなく長い距離を走って学んだ
このレースは永遠に終わらないのでは、と感じた時もあった
だけど、ゴールはやって来た
一歩踏み出しただけじゃ変わらない景色も、一歩ずつ重ねていけば必ず景色は変わる
遥か彼方のゴールが想像できなくなったら、足元に視線を落とせ
足元を見つめて行き詰ったら、遥か彼方のゴールを想像するんだ
何を考え、何を見つめ、どう進もうとも、立ち止まらなければ、ゴールは近づいてくる
いつかまた、シングルトラックを共に走ろう
今日は、この辺にしておくよ
また手紙を書く、じゃあな!
完
シングルトラック ~あの山の向うへ~ T.KANEKO @t-kaneko
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