NO165/ヤナギさん再び

ヒロト2023年令和5年5月17日(水)

ずいぶんご無沙汰しちゃったね。

ご無沙汰している間にね、年月日の前にそれぞれの名前を入れる作業をしたよ。

時空を超えた交換日記だから、何年だか見ればケンジかオレかはわかるとは思うけれど、だんだん時空の幅が狭くなってくるとわかりにくくなるかなと思い、どうせなら最初からにしようとケンジ××年月日ヒロト××年月日としてみました。

ところでケンジの方は、新しい仕事にシナリオ講座、ダンス、パチンコと忙しいようだね。そんな中、またチラチラとあのヤナギさんの影が見え始めたね。大丈夫?

じゃ、そこからまたケンジの日記を読まさせてもらうよ。


ケンジ1987年昭和62年3月21日(土)

春分の日の今日は、約束したヤナギさんに会いに秋葉原へ。今日の会談の内容は、ヤナギさんの今の秋葉原の店がいよいよ軌道に乗り、次の段階、即ち店舗数の拡張を目指す時期に入ったということなのだ。

その第一に、かつてのバイト先マドンナの娘がアメリカはロサンゼルスで経営する飲食店のテコ入れを頼まれたのだとかで、ゆくゆくはヤナギさんが買い取るという形にもっていくから、その店をまずは手伝いたい。それには人材がいない。そこで私にその第一陣としてアメリカに行ってくれないかということなのだ。それに並行して、マドンナの大社長にも都心に店舗を出すという条件で増幅を相談しているというのだ。そっちも軌道に乗ればますます人材が不足する。そこで私にも是非手伝って欲しいという。もちろん給料も今の1、5倍は出すというのだ。悪い話ではない。ヤナギさんも好意を持って誘ってくれているのだと思う。私が一旦断ると、家のお母さんやお兄さんにも一応話を聞いてもらってみてくれという。まことにおいしい話であり、私にとってチャンスとなり得る条件のように見える。

金を儲けるということだけを考えれば、今の東京プレスよりはいいに違いない。

しかし、私は断るつもりだ。それは今までの私とヤナギさんとの深い経緯もあり、私はヤナギさんという人間の人間性を疑いこそすれ、信頼はしていないからだ。信頼できる人間でなければついていけない。それがどんなに金になろうと私はより人間的な生き方を取る。自分の夢を追える時間と、それなりの金さえ稼げればそう余分に金はいらない。健康でありさえすれば、それは可能なことなのだ。金を稼ぐためだけに仕事はしたくない。あくまで人生の一環としての稼業であり、一生を固苦しく生きてまで、信頼してもいない人の世話や恩をこうむりたくない。特にヤナギさんの場合、これは誰がなんと言っても恩を売るタイプだ。もちろん本人も言うように血液型O型で独占欲もひときわ強い。そういう人について行けば、確かに金は儲かるだろう。しかし、一生が楽しくなくなる。

精神的余裕は金銭的余裕に優るものであると確信する私である。今の私に果たしてヤナギさんの世話になってまで金を儲ける必要があるのか。毎日東京プレスで働いていれば、ダンスもシナリオも英会話も少し時間がかかるかもしれないが、少なくとも精神的苦痛は何もない。アメリカに行くのも自分の都合のいい時に行く。シナリオも少しづつではあるが、必ず一本は仕上げる。今はその何もかもが中途半端な時期であり、どう転がって行くのかも判然としない状況にある。ヤナギさんの好意には悪いが、今はちと時期が悪すぎたね。私は今、夢を追ってわき目など振っている暇はないのだ。

ひょっとしてこれが人生最大のチャンスを逃すことに繋がろうとも、私の夢の路線は遥か向こうまで敷かれているのだ。事業で大金を掴むより、ものを書いて夢を掴みたい。身の程をわきまえぬ奴だと笑われても、それで野垂れ死にしようとも、それが私の人生だと心得るものである。少なくとも今はそれが全てです。以上!


ヒロト2023年令和5年5月19日(金)

パチパチパチ

ケンジ、よく言ってくれました。

今の俺によく沁みるお言葉でした、ホント。

まあ、正直言ってもうちょっとお金は欲しいけどね。でも今俺は本当にやりたいことをやってるよ。役者の仕事はまだまだ少ないけれど、自分の作った歌を所属事務所のユーチューブチャンネルでなんとか形にしようとしているし、来月の9日には、またライブ公演で今度は短い喜劇をやるので、稽古が面白いし、ケンジ、お互いやりたいことを思いっきり楽しもう。


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