NO164/社交ダンス

ケンジ1986年昭和61年8月22日(金)

どうも色々やりたいことばかり出てきて精神が不安定になりそうで困った。

今日どういう訳か社交ダンスを習ってみたい衝動に駆られ、早速電話帳でダンス教室を調べた次第である。これはおそらく、この前台湾に行った時に遊んだチョンミンが、私の目の前で、ストロボの明滅するホールでいかにも楽しそうにジルバを踊って見せたことが第一の誘因であろうと思われる。何せあの娘はカラオケで歌を歌っている時と、この軽快なジルバを踊っている時が一番楽しそうな顔に見えたのである。

そして、今まで私は酒場で女の子に踊りませんか、などと誘われた時も、どうも踊ったことがないという不安が心を支配してしまい、ついつい引っ込み思案になっていたな、と思い起こした。 私に少しでも踊りの心得があれば、もっと楽しいひとときを過ごせるのではないかと痛感した。酒場やスナックで飲んで話して歌ってという他にもうひとつ、楽しくリズムに乗って踊れてが加味されれば、これは楽しさも倍増するに違いない。楽しむべき場所で、より充実した楽しみ方をするために是非私の遊びのレパートリーの中に、カラオケともうひとつ、この社交ダンスを加えたいと思うのだ。以上。


ケンジ1986年昭和61年8月26日(火)

今日のハイライトは何と言っても夕方5時からのダンス初レッスンである。

まずダンス教室などというのは、その入り口をくぐるところから気恥ずかしさが先に立つ。私のような小心者には勇気さえ要る。

果たして恥ずかしくなく踊れるだろうか、周り中上手い人ばかりの中でレッスンを受けるのではないか、などと思い巡らすともう行くのやめにしようなどという気さえ起こって来る。そこを勇気を奮ってその入り口を入り、階段を3階まで上がってドアを引いた。

ホールには誰も居らず、入ってそれすぐの長椅子が置いてある休憩所のようなところに、先生らしい男女が金魚の入った水槽をいじくって遊んでいる。私を案内するような人物はいない。私は不安の色を深め、とりあえず5時までの10分間ぐらいその長椅子で待つ。

ちょうど5時になった時、昨日説明してもらった女性がそれらしい服装で控え室から出てきて、「それじゃー始めましょう」と言ってくれた時は、ようやく胸の不安がおさまったという感じでホッと一息。今日はレッスンはマンボ。何とかステップだけは覚えたような感じをするが、すぐ忘れそうなので帰りにウィルのレコード屋でダンス音楽のカセットを大枚三千五百円払って購入したのだ。以上。


ケンジ1986年昭和61年8月27日(水)

今夕は昨日に引き続いてダンスのレッスンに行く。ブルースのステップを習ってきた。ひとつひとつ覚えるステップは実に楽しい。やはり踊りというものは人間のエネルギー源として必要なものであるのかも知れない。以上!


ケンジ1986年昭和61年8月28日(木)

今日はダンスレッスン三日目、マンボ、ブルースについで、ルンバを習った。これで三種類のダンスは踊れる筈であるが、そこは初心者の私ゆえにそのステップを忘れないようにするのがまず先決で、果たしてその辺のスナックで女の子と踊ろうというような段になって、その無作為、場当たりのメロディーに合わせて踊れるかというと、いささか不安が残る。それでも今のところはこの三つのステップは覚えているようだし、後は明日のジルバ。これでとりあえず基礎コースのステップは終了。


ケンジ1986年昭和61年8月29日(金)

今日は三時半からダンスレッスンを受けることができた。そして、その待ちに待ったジルバ、やっぱり一番テンポが速くて難しかった。でもあのステップは確かに他でもない私の憧れたジルバのステップであった。さすがにテンポが速い。なかなか音楽についていくのに骨が折れる。しかし、このステップさえ軽快に踏めれば、私がこれまで何度となく羨望の眼差しを送ったのと同様の踊りを踊れるようになるのだ。頑張らなくっちゃ。


ケンジ1986年昭和61年8月30日(土)

今日は技術学校で一緒のチバちゃんと、ダンスの練習をしようと約束した日である。

しかし、思ったほどの成果は上がらなかった。チバちゃんが思ったほどダンス勘が良くなく、私が25分間のレッスンで覚えたステップを何度教えても覚えないのだ。

揚げ句は私がチバちゃんのステップを無視して、引き摺り回すというような具合になり、とてもリズムに乗って楽しく踊るといった雰囲気とはかけはなれてしまったのだ。こうしてみると、この年で私のダンス覚えは良い方なのかもしれない。それでも、やはりジルバなどは相手が自分に合わせて踊ってくれなければ、細かいところのタイミングなどは、とても一人で覚えられるものではない。

途中でチバちゃんは飽きてしまった風で、私一人でステップを踏んでいたという状況であった。汗をかきかき、身体のだるさ、のどの渇きに耐えうる限界までステップを踏み続けたのだ。久し振りに裏山に登ったことも相まって、実にくたびれた。


ヒロト2023年令和5年4月4日(火)

チバちゃんのキャラクター、勝手に設定してしまっていいでしょうか?

まず休みの日に、ケンジにダンスの練習の相手に誘われて、朝から五日市の山に登る人の良さ。きっとかなり年下で、断れない気弱さもあるのかな。おっとり型の口ベタかもしれない。年上としては可愛いというか、ちょっとイジリたくなるタイプかもね。少しふっくらした小柄な子かもしれない。ケンジのジルバのお相手で、振り回されている様子が可笑しくもいじらしい。きっと、飽きてしまったというより、経験のないダンスにどうしていいかわからなくなったんじゃないかな。そしてケンジのお相手をやめても、帰らないでなにするでもなくその辺に居る。愛しささえ感じてしまう。

それにしても、ケンジの『喉の渇きにも耐え』ってことは、チバちゃんにも飲み物がないってことだよね。そこはケンジ、山下りたらチバちゃんに何かいっぱい飲んでもらっただろうね。

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