NO161/お一人様海外旅行の続き

そして夕方6時、その娘が私の433号室のドアをたたいた。その娘は店で見た印象より背が高く、垢抜けて見えた。私も店で選んだ時には、横についた彼女を見て失敗したと思ったのだが、改めて明るい光の下で白のワンピースのミニの私服の彼女を見た時は、私の見る目もまんざらではないなと、思わずほくそ笑んだ。私が今回一番失敗したのは眼鏡を持って来なかったことだ。店の中で何十人と居並ぶ女性の中から、第一印象だけで相手を選ぶのだから、私の眼鏡なしの視力ではとても顔を吟味するところまではいかないのだ。今度来る時には必ず眼鏡は持参しなくてはとつくづく思ったものだった。それにしても、今回は運良く選んだものだ。

その娘の名はイェンチョンミンという。チョンミンは先にも触れたが、加賀まりこに似た二重瞼のクリッとした瞳の娘であった。色も白く、お尻が小さすぎると本人は言うが、なかなかのスリムなプロポーションをしており、私の鼻の下は一気に伸びた。歌が上手くて踊りが上手い。ことにジルバを踊っている時の彼女は実に魅力的であった。本人も歌と踊りが一番好きというだけあって、そうしている時の彼女の顔が一番イキイキして見えた。私はどういう訳か、旅先で巡り会う水商売の女の子には歌の上手い娘と出会うことが多い。沖縄のアッコにしろキヌ子にしろ実に上手かったものだ。このチョンミンもそれに負けず劣らず上手い。特にチョンミンの場合は日本語をカタコトしか理解しないという割は、日本の歌を実に情感を込めて歌うのだ。

毎日のように日本人観光客の相手をして、日本の歌を歌うカラオケスナックで歌うのだということだが、その甘い歌声は日本のアイドル顔負けの魅力があった。私としては、歌の方はともかく踊りとなると何ともおぼつかない。ことにジルバなんぞというのは見ているだけで足がすくんで動かなくなる。そのジルバをチョンミンは、店のマスターと鮮やかに楽しそうに踊ってみせる。私はこの時ばかりはジルバを踊れたらなァーと自分を恨めしく思った。


ヒロト2023年令和5年2月23日(木)

ケンジ、いいところなのにごめん。

俺、今ロケバス乗ってんだ。20何年ぶりのロケバス。栃木の山に向かってるんだけど、もう遠足気分、楽しい!

役者やめてから街でロケバス見かけても、もう俺には関係のない遠い世界だと思っていたけれど、今乗ってる。これ現実なんだね。またこの世界に戻って来た実感を楽しんでいるよ。

朝7時に南青山一丁目に集合。今日は天皇誕生日で祝日ダイヤ、少し早めに行くにはバスがない。仕方ない、4時半起きで5時過ぎには家を出て駅まで30分歩いた。20分前には着いたけど、ロケバスにはもう何人か乗っている。何処でもそうだろうけど、特にこの世界は遅刻厳禁、みんな早いね。

さぁ、目的地まではまだまだ、少し寝るか。


着いた。田舎の公民館が控え室、寒々してる。衣装を渡された。薄手の白い着物、Tシャツの襟が出ないようにV字にハサミで切った。そのTシャツの上からお腹、背中にホカロンを貼る。少しでもあったかいようにしなくては。

収録の内容は、桃太郎伝説のルーツのような物語。弥生時代のモノノフ、いわゆる武士が天皇の命を受けて妖怪をやっつける。それが時を経て桃太郎の話になったという。

俺の役はね。サルカイベノササモリヒコというモノノフ。猿じゃないよ、人間だよ。キビツノヒコノミコトの家来なんだ。このキビツノミコトが桃太郎のモデルというわけ。それに名前にそれぞれ犬と雉が付く家来が二人、全部で4人でウラという身長4メートルの妖怪を退治するというのを撮った。

70歳の俺は、2、30代の俳優と一緒に、山の中の石ころがゴロゴロしているところで、転がったり走ったりしたよ。

一番面白かったのは弓矢だった。仮面ライダーが出て来そうな石切場跡にボンボン矢を放ったのよ。なかなか人生の中で思いっきり矢を打てるなんていう局面はないと思う。こういうのを役者冥利というのかも知れないね。

フジテレビの「妖怪ランキング2」という番組だから、良かったら見てね。


ケンジの旅、これからっていうのにごめんね。次またね。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る