NO147/借金完済!と思ったら、、、

ケンジ1985年昭和60年10月1日(火)

早いものでもう10月、そして昨日は記念すべき日となった。他人が聞いたら鼻の先でせせら笑いされそうなので大きな声では言えないが、私が世田谷の経堂にいた頃から付き合い始めたのだから、もうかれこれ三年余りの付き合いになるだろうか、その付き合いが昨日見事に終了したのだ。

これできれいさっぱりした。何を隠そうご存知、サラ金武富士との長かった付き合いからようやく解放されたのだ。70万円なんて、金は使う時にはあっけないが、いざその金を返済するとなるとこれだけの長い年月がかかるのだ。もっとも途中で返済したり、また借り増ししたりと、結構紆余曲折はあったのだ。

せっかく返し終わったと思った頃、あのヤナギ氏に借金返済を迫られ、再び70万円の借金をした時はいささか先の長さを思ってうんざりもした。しかしとうとう昨日9月30日をもって完済したのだ。これから少しずつでも金を貯め、旅行に行きもしたいし、好きなものも買いたい。さァー体を壊さないように毎日頑張りましょう!


ケンジ1985年昭和60年12月19日(木)

今日ここでまたまた一大事件を書かねばならない。またまたと言っても、ここしばらく平穏で刺激のない生活が続いていたので、久し振りと言った方が妥当かも知れない。できればもっと他の意味での真正な刺激であって欲しかった。しかしこれが人生の上での現実なのだから、私の星は余程運のない巡り合わせを持った星なのであろう。前置きが長くなったが本題に入ろう。

私がこの日野車体に入って7ヶ月になる。その間無遅刻無欠勤。残業といえば他人を置いてでも人一倍やってきた。もちろん休日出勤も誰よりも多いと自負できるぐらい。真夏の盛りの夏休みには文字通り滝の汗の中で、油にまみれた作業服を苦にもせず、慣れない保全の手伝いも、退屈なライン引きなどという仕事も我慢して、忍耐と根性で働き続けてきた。そして武富士の借金も完済し、ここにきてようやく貯まった自由に使える自分のお金、まさしく虎の子の預金が約90万円。そこで、今年いっぱいで契約切れとともにこの職場を去り、ひとつ海外旅行でも行こうか、ワープロも買いたいなぁーなどと、むしろ子供じみるぐらいの素朴な夢と期待を抱けるぐらいの私であった。そしてその夢も、もうすぐそこまで、ほとんど手の届くところまで来ていた。

しかし、不運の星を背負った私には、そんな夢でさえぶち壊されてしまう運命を持っていたのだ。私の通帳の預金高が増えるにつれて、何かしら得体の知れぬ不安がたまに脳裏をよぎったりすることがあったが、その度に「まさか」と自分の馬鹿げた不安を打ち消すように気持ちを切り替えたものだった。

ところが、そのまさかが現実になってしまった。私の虎の子の預金が、なんと80万円誰かの手によって払い戻されていたのだ。

昨日、事務のツチダさんにキャッシュカードを渡し、3万円おろして来てくれるように頼んだ。午前中仕事をしている最中にツチダさんが封筒に入れた3万円と支払い明細書とを持って来てくれた。私はそのままポケットにしまい、お昼休みにその明細書の残高欄を見て、私の顔から血が引いて行くのが自分で鏡でも見ているかのようにハッキリとわかった。

残高4万円!何!思わず心の中で叫んだ。が、折からまわりには昼休みで昼食後のひとときをくつろいでいる社員がたくさんいる。私は極力平静を保ってその残高の意味をしばし考えた。そして預金している労働金庫にTELをして確かめた。受話器の受付の女性の声がしばらくお待ち下さいと告げて、再び声を聞かせてくれた時、「それは16日の午前中に当店のカウンターで通帳でもって80万円おろされています」事務的な口調の一言であった。

私は思わず、「ウソー、私はおろしてませんよ、それは誰かに盗まれたんです」と声高に言い返してしまった。即、会社を途中退出してツチダさんと労働金庫へ。その何者かによって書かれた払い戻し請求書を見せてもらった。そこには私とは全く違う筆跡の栗原謙次というサインと80万円という数字と、私の登録している印鑑と全く同じと思える栗原という印鑑が押されていた。銀行側としては通帳と印鑑が合致すれば、無条件で払い戻しする。これは仕方のないことであった。

あー、私の汗と油の結晶が、ちっぽけな夢と希望が完全に破壊された。絶望は確認されたのだ。

誰に文句を言っても始まらない。力のない凡人には、ただ検挙率世界一を誇る日本の警察に被害届けを出すことしかできないのだ。おそらく犯人は私の周りにいる者だろうということは誰の目にも明らかであるのだが、銀行の防犯カメラ、そして払い戻し請求書に残った指紋、これぐらいしかその犯人を割り出す方法はない。その犯人が判明するか否かは、二、三日中に出されるこの二つの調べが成功するかどうか、願わくは、防犯カメラにハッキリと確認できる犯人像が映っていて欲しい、指紋も検出されて欲しい、今はそれを祈るだけである。私には何もすることはできない。警察の皆さんよろしくお願いいたしますと頭をさげるのみ。

さて、ざっとこんな経緯なのである。昨日の私がもう息を絶え絶えにやっとの思いで一日を過ごしたのか察しは付くであろう。食欲も無くなり、夜横になっても頭に脈の激しい鼓動が響き渡り、今朝までほとんど眠れなかったのもおわかりであろう。普段偉そうなことを言っている私の、いかに凡人であるかがあらためて思い知らされた昨今であった。所詮私の器量なんて、80万円盗まれてぐらいでそんな他愛ないものなのである。

この続きはまた書く。


ヒロト2022年令和4年11月16日(水)

ケンジ、なんてことだろうね。そりゃ、びっくりするし、動揺するよ。

順番に整理すると、武富士に70万円借りてたでしょ。返済途中で、ヤナギさんへ借金を返すためにあらためて70万円借り増ししたんだよね。結局合計140万円(利子込み?)、そして爪に灯をともして貯めた90万円、合わせて230万円。

この金を2年数ヶ月で作ったんだから大したもんだよ。よく頑張った。

それを盗むなんて、時空を超えて腹が立つ!

この後の展開が気になる。


ガラッと話を変えてもいいかな。

実は今度コントをやるんだ。所属事務所主宰の公演を11月30日(水)に渋谷区初台のDoorsというライブハウスで、歌ありダンスあり落語ありのバラエティーショー。我々は、自作は間に合わないのでてんぷくトリオのコントに挑戦することにした。井上ひさし作だよ。いっぱいある作品の中から「村長と詐欺師」を選んだ。著作権料払わなくちゃいけないだけあってよく出来ている。現代でも通用すると思う。あとは我々のウデの 問題だけどね。ケンジが苦闘したコント、やってみるよ。よかったら見守ってくれ。

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