NO143/行商稼業も終わり
ケンジ1981年昭和56年1月10日(土)
ところ変わって今夜は沖縄、那覇の定宿、ホテル湖畔。ここへ来るのもこれで三度目。東京ではいろいろ友人に会い、肉親に会い、いたるところで言われ続けた。
「お前、いつまで宿無しのオチコボレみたいな仕事やってんだ、早いとこそんな仕事足を洗って東京で定着して働け」と。
それでも結局来てしまった。今回は自分でも一区切りをつけようと心置きしてやって来たつもりだ。今年の五月、山梨に帰った時にはこの仕事にも一区切りつく時だ。
さて、何度も来る那覇ではあるが、今回は約一年ぶり、この沖縄という地も一年一年来る毎に、内地色に染まっていくのが痛切に感じられる。沖縄という独特の強烈な情熱が急激に冷めつつある。このまま日本のローカル都市に成り下がらないでもらいたいものだ。
ケンジ1981年昭和56年1月15日
今日は祭日だったし、天候もこの時期の沖縄にしては一日中実によく腫れわたったので、海の青い、景色の良い場所を選んで商売に行った。海を埋め立てて通した海中道路、約 5Kメートルぐらいあるってとこと思われる道路の向こうにある、与勝諸島である。
案の定、平安座島、宮城島、伊計島は青くきれいであった。どういうものか、私がここは良い所だと思い巡らして、みんなを連れて行った場所で、みんながやはりきれいだ、と感想を洩らしてくれた時には実にうれしいものだ。これも今度で沖縄四度目、地図無しでも目を閉じれば、その土地土地の景色が心に浮かんで来る。私の一つの特技と言えるのかも知れない。
ケンジ1981年昭和56年7月7日(火)
今夜は我が実家に帰って三日目の夜である。足掛け四年に渡る渡り鳥稼業に終止符を打ち、東京で働くべく覚悟を決めて帰って来た。おそらくヤナギさんの紹介で新宿辺りに勤めることになりそうである。
ヒロト2022年令和4年10月3日(月)
そうか、寅さんみたいだなって思ってたけど、辞めたんだね。お疲れ様。
自分も全国巡演の旅劇団を足掛け五年で1982年ぐらいに辞めたよ。若い時の4、5年て、何か周期のようなものがあるのかな。
公務員を4年で辞め、初めて参加した劇団も4年ほどで辞め、そして旅劇団、自分がマンネリを感じるサイクルが4、5年だったのかも知れないね。
ところで今日は稽古に出掛けたんだけど、途中で二人も女性を助け起こした。
一人目は渋谷の路上、横断歩道の信号待ちをしていると、少し先にいた多分30代前半くらいの女性がスッ倒れたんだ。スマホを見ている時で、まさにコロンと転がるお姉さんが目の端に入った。ビックリして駆け寄りどうしたのか聞くと、倒れたまま4、5メートル離れたところを歩く小柄なおっさんの後ろ姿を指差して、「あのおじさんがぶつかって来たんです」だって。「大丈夫?警察呼ぼうか?」というと、「どこも痛くないし、大丈夫です」と言う。体は触らないで起き上がるのを待って、「ひどいおっさんがいるもんだね」と言ったら、「おじさんみたいな人もいるので大丈夫です」なんだって。得点高かったのかな。
もう一人はバスを降りた時。初台のオペラシティの停留所、バスの前の方の入口近くの路上におばあさんがうつ伏せに倒れている。また咄嗟に駆け寄り、どうしました?頭ですか、心臓ですか、あっ!無理して動かないで!脳出血だったら大変だと思った。後から降りて来た若者三人も近寄って、大丈夫ですか?手伝いましょうと手を差し延べて来た。バスの運転手も降りて来た。おばあちゃんは、「ただ、歩道の段差を踏み外しただけです。腕を骨折してるんで起き上がれないの」確かに左腕を首から布で吊っている。俺は今度はおばあちゃんの体におもいっきり触った。「女性に触るのはなんだけど、触りますよ」と言ったら、「もうおばあちゃんだから大丈夫」と言うので腰の辺りを抱くようにして起こした。若者たちは上半身を担当した。
結局、顔面が地面に付いていたらしく汚れていただけで、ケガはなかった。みんなでティッシュなどで顔を拭いてあげた。マスクも汚れていたので、若者の一人が差し上げますってマスクを一枚おばあちゃんに渡した。
運転手が、どこまで行くの?って聞いたら、バス停二つ先ぐらいのリハビリテーションだと言うので、じゃあバス乗っちゃいましょうということになって、みんなで乗せて、あとは運転手さんお願いしますと若者たちと声をそろえて言いました。
乗客のみなさん、大変お待たせをいたしました。
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