NO141/ケンジ、道理を語る

ケンジ1980年昭和55年12月25日

今、深夜の12時21分。場所はあっと驚く赤坂TBSの前のイッシンという喫茶店。赤坂の夜は実質的に言うと三年振り、例の徳大寺をトンズラして以来である。もっとも一年前に一度ヤナギ君らにちょこっと会うのにちょっくら来たことはあったのだが。その時はちょっと茶店で話しただけだったので、赤坂の変身に気がつかなかったのだ。

ところがどっこい今夜じっくり赤坂の夜を見渡してみると三年前とはエライ違い。なんつったって新しいデカイビルがいくつも出来ていてまるっきり地図が変わっちゃったような錯覚に陥るぐらいなのだ。徳大寺もまったく外装を変え、「駒」とかいう看板がかかっていた。元駐車場には公園ができ、デカイビルが3つも4つも立っているのだ。

イヤー首都東京の移り変わりというのは、とてつもなく回転が早いのだということを発見した。

イヤーたまげた。

たいした、たまげた!


ケンジ1980年昭和55年12月28日

日曜日、今日は一年ぶりに我が実家である。日ノ出町の夜は寒い。

昨夜はヤナギ君、一昨日はジロー君の家にご厄介になった。ふと東京に戻った時、泊まる友人の家があるというのは実にいいもんだ。

とはいえ、同じ友人でもとんでもないヤツもいる。友人といってもとっくにその縁を切っているようなヤツだが、今まで甲府の甲州名産の寮の番をやらしてもらっていたSというヤツである。彼は私がお茶のセールスをしていた頃、新人で入って来たヤローであるが、頭も良く、口も達者で、気の向いた時には一生懸命仕事もやるヤツだったのだ。

私も初めて隊長をやった頃片腕となってやってもらったこともあるし、いろいろ世話になったこともある。しかし結局は、言葉と行動の一致しないヤツはクズだということなのだ。友人としての最低の約束を守るということができなかったのだ。できるものはできる、できないものはできない、友人なのだか正直に言ってくれれば、それで良いと私は思うのだが、なぜそんな最低限度のことができないのだろうか 。

そこには人間としての本質を理解できず子供のまま大人になってしまったのかな、としか思いようのない、どうしようもない失望感と侘しさがあるのだ。人間同士どんなウソを言ってもいい。誰が話すことが本当でウソなのかもわからず、何一つ掴むところのない人間同士だったら、一体何のために生きているのか、なぜ人間という名のもとに生まれて来たのかわからないじゃないか。人間一人一人が全て勝手気ままなことを言い、全部がウソだとしたら、人間なんて言葉も目も耳も口も要らなくなるじゃないか。

ただ、ブタやサルと同じようにメシを食って寝るだけの弱肉強食ということになるじゃないか。そこで人間が、今の世の中でサルよりもブタよりも栄えているということは一体どうしてなのか。それは人が人の言うことを聞き、信じ、学び、伝え、コミュニケーションというものがあるからこそではないのか。今の人間が昔の人間の言ったことを信じ、学び、昔の人間がまたその昔の人間の言ったことを信じ、学んで来た。それらの積み重ねなのである。

人間の文化、文明というものを否定して地球から人間を消すには、人間一人一人が勝手にウソだけついていれば、即カタがつく筈だ。

それとは逆に、そんなに容易く地球から人類が滅びれると考えられるのだから、尚一層、それだけは人間の最後の、最低の生きる条件として守らねばならぬと思うのだ。

今まで述べて来たのは極論だが、また初めに話を戻そう。このSがその社長に信頼を得て、寮の全てを任せられていたのにも関わらず、金を使い込み、在庫を食い、借金の山を残して逃げたのである。私も社長からその話を聞くまで、まさかそこまでSがやるとは考えられなかった。知っていたのは神様だけだった。

あまりに見事に悪事をやらかし、堂々と逃げた。これをやられては最早人間と呼べる段階ではない。社長とて、Sの調子のいいのも、いい加減なところも知っていた。しかしここまでSが落ちるとは思いもよらなかったのだろう。なぜなら実際逃げられたのだから。この私でさえ信じられないのだから。

このSのようなブタがもし他にもいたなら、そしてそれが伝染病のように広まって行くものであったのなら、さっきの私の極論はもうすぐ明日のことである。そこで今この地球上でそんなようなブタがこのくらいいるとか、このくらいの数ならいてもしょうがない、とかいうのでは論外なのだ。人間である以上、一人でもこういうのがいてはダメなのだ。まず人間が人間であるための、ブタではないための、最低ギリギリの道理なのである。人間一人一人が子孫に絶対伝えて行かねばならない人間の一番大事なものなのである。人と人との繋がりが切れた時、それは人間ではないのだ。核兵器も、猛毒ガスも、細菌兵器もそれを使えば恐ろしい。人類を滅ぼすこともできるであろう。しかしそれらの最新兵器よりも、人間の間にブタが入り込んでくる方のが何倍も恐ろしいのだ。

S君よ!話せばわかる。ブタの中にもまだ人間に繋がる一滴の血でも残っていれば、是非話し合う機会をくれ!ブタはとんかつにされて食べられるのがこの世に生まれた使命なのだ。神様だけが知っている。


ヒロト2022年令和4年9月23日(金)

ケンジは友達が好きだよね。

人と接するのがちょっと苦手で不器用な感じだけど、一度友達になったらとことん付き合う様子が伝わってくる。うれしいし、楽しいし、そして胸が苦しくなるような時もある。

勿論俺にだってあったけど、友達に対してと、女性に対してとの割合でいうと、俺は断然女性の方が多かったんだけど、ケンジは違うみたいだね。よっぽど俺なんかよりピュアだったのかもね。

核兵器の話が出てきたけど、今、ロシアの俺たちと同じ年の男が、使用も辞さない、脅しではないとか言っている。ケンジなら何と言うのだろう。

ブタさん、とんだところでブタ、ブタと連呼されてごめん。俺は牛肉より豚肉の方が好きだからね。勘弁してね。

さてさて、ところでユーチューブで俺のオカマさんぶりが配信されてます。まあ、出来は?だけど、そっちの世界でもスマホがあったら見てみてくれ。「あいかんぱにい」というチャンネルを検索すると出てくるよ。

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