NO119/ドキュメント浅草演芸ホール

ヒロト2022年令和4年7月16日(土)

バイトして、汗かいて、たまに風呂入って、昼寝して、食べ過ぎて、寝坊して、スターアクションのリハーサル、本番をして、でも一番やっているのは、額面27万5千円、本当は値引きで22万円(ケース付き)のギブソンとの格闘。

と思いきや、いろいろあるじゃない!?


ケンジ1975年昭和50年8月3日(日)

今夜は男として、未成年の女の子をあずかる責任の重さを改めて痛感させられた。

てなことを言う私は古い人間なんでしょうかねェー!というのは、今日バイトが終わってから同じバイトをしている高三の女の子と、

浅草の盆踊りに行き、ちょっと茶店に寄って話しているうちに9時40分になったのだ。

その娘の荷物はカドヤに預けてあるので一旦カドヤに寄らなければならず、私は松屋の東武線の改札口で待っていることにして仲見世で別れたのだ。東武線のその場で会った時は、その娘の親しいカドヤの女店員と一緒で、私とその娘が二人でいたことはその女店員だけしか知らないのだ。そこからその娘の下車駅である東武五反野駅まで彼女を送り、別れた。

ただそれだけのことなのであるが、その娘から、「カドヤに寄ったらみんなに『若い女の子がこんな夜遅くまで何してんだ』と冗談まじりに言われちゃった」という話を聞いたり、その付き添いとも言うべき女店員(もう奥さんである)に、「駄目じゃないの、ちゃんと9時半までに戻らなくっちゃ」と言われた時、内心『そうだ、この重さが責任なのか』と恐ろしくなった訳だ。

別に私は9時半までには戻るとその女店員に約束した訳でもないし、きっとその娘がその女店員と軽く約束したことなのだろう。しかし私はそこで改めて考えた。そうだ。いくらその娘が勝手に約束したことだろうが、それどころか、その娘が嘘をついて「今夜は12時まで大丈夫よ」と私に言ったとしても、その娘の年齢と人格を考えた場合、万一何かあった場合は全て私に責任が及ぶのだ。その娘は誰の目から見ても、まだ世間知らずの子供だ。明らかに純粋なのだ。そんな娘の感情に安易に応じ、軽い気持ちで夜遅くまで付き合う。これが、私のまだ甘い、人生経験の浅いところなのかも知れない。何かあった時に、

どんなに私が気が付かなくても、「イヤ、私は自分から彼女を9時40分まで付き合わしたんじゃない、彼女と意気投合してそうなったのだ」と言い訳してみても、それでは通らないのだ。私とその娘とは人格的に等しくなく、私が保護しなければならない立場にあることを、ハッキリ認識しなければいけないということを発見したのだ。

という訳で、今夜はどうもスッキリしない。胃もいつになく重く感じる。結局、誰の目から見ても彼女が大人と認められる女性だったら、私の軽薄な心構えでも十分だと思う訳だが、今回の場合は、誰の目から見てもまだ未成熟だとしか言いようのない女の子なのだ。聞くところによると、その娘の両親も非常に厳しいらしい。その保護者役の女店員の人一倍の気の使いようもわかるというものだ。

要するに、相手によって私自身、もっと慎重に行動せねばならないということだ。他人から見れば、何だこんなことぐらいでと言うかも知れないが、何故か今夜の私には、特にその娘と別れた後になって、妙に恐怖感となって重くのしかかって来たのでここに書いてみた。イヤッー、高校三年生ぐらいの女の子と付き合うのがこんなに恐ろしいなら、まだスレた女の子と付き合ってこっちがダマされた方がいいような気がする。こんなことを書く私は本当にいつもの私らしくないかも知れないが、これはいつもの大それた私抜きで足る、意義ある教訓であった。ここまで書くと妙にものものしくなったが、いつもの私流に言えば、何でもないのだ。ただ楽しい一日であった。これだけなのだ!


ヒロト2022年令和4年7月16日(土)その2

こんだけ書いて、結論はそれかい!

もっとも、9時半が9時40分でしょ。

胃を重くするほどのことではないんだよ。それは食べ過ぎかも知れないね。

そんなことよりケンジ、高三女子とどんな話をしたのかなぁ。あの、口下手なケンジが、汗浮かべて高三女子に話しかけている姿が目に浮かぶ。出来るものならば再現ドラマで見てみたいものだ。

ところで昨夜、NHK総合テレビの番組、『ドキュメント72時間』で浅草演芸ホールを特集していたよ。60年前から同じ姿なんだってね。この番組は、ある特定の場所や店を三日間、72時間連続で取材、撮影する番組。お客さんのインタビューは勿論、ホールの裏側まで入って撮影する。

30代後半に脱サラして春風亭に入門して、18歳の兄弟子にラーメンをご馳走になり、深々とお礼をしたりしていた男性がこの日、50歳過ぎて晴れて真打ち昇進!とか、やっぱり30過ぎてから演芸にはまり、傘の上で毬を回している女芸人、一児の母で本番終わったら保育園にお迎えに行かなくちゃで、急いで帰って行った。お客さんのエピソードも面白かったけど、再放送があるからそれを見てね。

そして何と言っても、前座なりたての18歳のお兄ちゃん、今日は数回目の高座に上がる日、舞台袖の様子が映し出される。録音された出囃子のスイッチを自分で入れる。綱元の綱を手繰り、自分で緞帳を開ける。周りには先輩やら関係者がうろうろしている。「行って参ります」と前屈みの姿勢のまま舞台、そして高座へ。今日は、というか今日もだいぶトチッまてしまった。そんな様子をテレビで見ていて、ケンジやジローさんもここに三日間立ったんだなぁと、しみじみしちゃいました。

印象的な言葉があった。お客さんも落語家も同じことを言ったんだ。お客さんは、「あの落語家さんの好きなところは、自分も楽しそうに演っているところ」と言い、落語家は、

「あいつ、楽しそうに演ってるなって思われたい」だって。

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