NO107/コンビ継続〈俺っちの就活日記〉
ケンジ1975年昭和50年1月22日(水)
今日はとうとうジローにやる気を起こさせることができた。午後二時過ぎ、折から槍を突くような雨の中を、私は、これが最後の説得とばかりにジローのアパートに向かった。部屋に入ると、ジローはズボンの繕いをしていた。私は雨に濡れて気色悪いズボンの裾を即コタツに突っ込むと、「どうかね、決断はついたかね」と穏やかな口調で話に入った。ジローは黙ったまま。私の話すこと約一時間、ようやくジローの声が出るようになった。
そしてとうとう、「それじゃー三月までは何も考えず、共に頑張ろう」というところまでこぎ着けた訳だ。
しかし、私がジローの部屋で食事できる日がなくなってしまった。彼も酷なやつだよ!私の所には食器も台所用具もなく、ガスも使えないのを知っていながら。これも人間それぞれのエゴイズムを持っているのだから、仕様がないと言えばそれまでなのだが、まぁーかろうじて、水曜日の午後だけ、ジローのところの台所で調理だけはさせてもらえるにした。今から考えれば、結局私がへりくだったというか、下手に出たというか、極力我慢して、ジローの見栄っ張りな頑固さ、卑屈的傾向に走るのを抑えたたまものだろう。なぜ私がこんなに譲歩したか、私らしくもないと言えばそうだが、もしここで私が短気を起こし、ジローの機嫌をとるような冷静さを欠いた行動に出れば、もう二人のコンビは破綻することは目に見えていたのだ。ここは一つ、どちらかが大人になって、この窮極を乗りきらなければ、と私は決めたのだ。
とにかく初めに約束した一年間は続けよう、特にここ二、三ヶ月は最も大事な、チャンスの来そうな気配を感じたからだ。
よって、四月になってジローがやはり別れよう、やめようなどというのであれば、その時は私も決断する。私はジローが一緒にいてくれないと困るから、とか、一人じゃ心細いからとかで、今回ジローの下手に回ったんじゃない。私は一人になれば一人でやるだけの意志はある。ただ、破壊するのはたやすいが、建設するのは難しい、という例えもある通り、せっかく築き上げたものを粗末にするのは良くない。私は今こう思う。この二、三ヶ月で、発表の場が確保出来れば、ジローは四月からも私と一緒にコンビを続けるだろうと。とにかく今は頑張るのみ!
ヒロト2022年令和4年7月1日(金)
濡れたズボンを即コタツに突っ込んだとか、ジローさんの部屋で食事することを当然と思っているところとか、突っ込みどころはあるけれど、とりあえず良かったね。
互いの腕を交差してビールを飲み、誓い合ったあの日を忘れずに頑張って。
さあ、〈おれっちの就活〉はどうなるか。
今朝、息子に経過を話したら、後でショートメールが来た。やんちゃな友達店長に連絡して事情を話し、オヤジに連絡してくれることになってるから。だって。
息子に仕事の心配をさせるとは、情けないやら、ありがたいやらで、息子も大人になったなと感慨深い。
さて、どんな答えが返ってくるか、セブンティの胸は震えている。ーンが付くと可愛げがあるだろね。
ケンジ1975年昭和50年1月23日(木)
何気なく過ごした今日が、何と私の二十二回目の誕生日、早いなァー、もう二十二歳か。
何か人生の終わりが近づくようでやだなァー!今日の空は昨日の雨模様とはうって変わって、私の誕生日を祝ってくれているかのような、空と真冬の純白の太陽が輝いた。君たちさえ、私の誕生日を知っていてくれればいいさ。
さて、そんな今日は、まさしくジローとの久し振りの合同稽古がかない、お昼から二時間余りを気持ち良く稽古できた。昨日までの二人の間の暗雲が一転して快晴になったようなものだ。よかったねェー!
まぁーとにかく、細かいことはいくらもあろうけれど、まず稽古を一緒にできる。これに優るものはあるまい。
それに今夜は、コント55号の「なんでそうなるの」も見てきたし、私の誕生日としては結構な一日であった。よかったね!
ケンジ1975年昭和50年1月27日(月)
あったまにくる私の腹めェー!ゴロゴロボクボク音がして、何か気分悪いからトイレへ行けば、出るのはへばかり。いったい私の腸はどうなってんだ。いい加減に冗談よせよっー!だいたい物を食べたらちゃんと出るもの出せよ!それをいつまでも腹ん中にためこみやがって、こちとらァー迷惑だヨ!じゃァー
出るもの出さなくてもいいから、ゴロゴロ鳴らしたり、へーブーブー出すなヨ!なァー!
出るもの出なきゃァーきっと体のそこいら中に、そのしわ寄せがくるに決まってんだから。ニキビはできる、マラソンやれば腹が痛くなったり、馬力が出なくなったりするんだから。バッキャロー、こう言ってるそばからゴロゴロ鳴らしてやがらァー、ほんとアタマに来るヨォー!もう頭に来て、この腹カッサバキてェーよーだョ!明日でもいいから、出るもの出してくれよ!たのんだよ!!
ヒロト2022年令和4年7月1日(金)
〈おれっちの就活日記〉
息子のやんちゃな友達店長から電話がかかって来た。仕事はあるみたい。可能性はある。では上に話してみるとの答え。とりあえずは良かった。今度休みの時、店を見に行く予定。ただ最後、おじさんいくつでしたっけ、と聞いてきた。一瞬サバ読もうかと思ったけどすぐバレるので、今度70と答えた。すると、息子のやんちゃな友達店長は、「えっ、へへへ」だって。何じゃ、そのへへへは!
でもそうだよなァ、自分の事はおいといて、他の人の年が70なんて聞くとウへっと思うもんなァ。
いや、大切なのは個人。おれっちはバリバリだし、明るく清く?正しい?し、何よりめんどくさくないよ。それをアピールしていこう!そのうち、年齢を売りにできるくらいになってやる!
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