NO68/充実の日々

ケンジ1974年昭和49年2月1日(金)

今日はひとつ、うれしいことがあった。今度の芝居では、私は金持ちのちょっと悪びれた紳士という役なのだが。今日は初日、ちょうど酒井先生が見に来て、「最近、ケンジは金持ちの役をよくやってるからずいぶん上手くなったねェー、だいぶ腕を上げたな」と、くるま座のみんなの前で褒められたのだ。それにハシさんまでも、「そうなんです、先週のヨッパライの役の時から、急にトーンに変化が出てきて上手くなったんです」と言ってくれたのだ。気分良かったァー!


ケンジ1974年昭和49年2月15日(金)

とにかく私ほど、充実した生活をしている人間は、世界広しと言えどもそうはいないだろう。ねェー!

朝六時に起き、牛乳配達で自転車を四時間こぎ、ボディビルをやり、芝居という主生活をし、合間にギターを習い、調理もし、日記を書き、小説を読み、たまには映画演劇を見、日の出村のうまい空気を吸いに帰ったり、もう抜群の生活である。この生活を一年続ければ、何か見違えるような、素晴らしい人間が創造されるような気がしてならない。世の中何十億といる人間、そのチリのような一人一人がそれぞれの生活をしているのであろう。中には今の私以上に充実した生活を送っている者もいれば、無為に娯楽に耽って生活している者もあろう。でも、とにかくどんな人間でも、その人のやりたいことを全てやり尽くして死んでいくことはあるまい。それに少しでも近づこうと、一生努力して終わるのが人生のような気がしてきた。今の私は最高に満たされている。


ケンジ1974年昭和49年2月16日(土)

今夜は例によってトキワ座で映画を見てきた。今週の映画は、名画週間と銘打っているだけあって、結構面白かった。中でも白黒映画の古い作品ではあるが、坂東妻三郎、市川右太衛門、片岡千恵蔵らの出演した「東海二十八人衆」という映画が実にカッコよかった。あとは「坊っちゃん」(坂本九主演)と「御用金」という映画であった。よかったよかった。そして0時回って、帰りの夜道もだいぶ暖かくなり、冷たいという感じはなくなった。もう春は近い。一刻も早く春が来て欲しい。

さて、そうこう言っているうちに、今日はもう来週の台本が刷り上がり、28日と短い二月もあとわずかとなった。早いぞ早いぞ!

三月になればまた何かいい事がありそうな気がする。そして私が大きく羽ばたく日も近いような気がする。頑張らなくっちゃ!


ヒロト2022年令和4年5月9日(月)

毎日のように、長文の交換日記を書いている俺って相当暇な奴と思ってない?

とんでもない。俺、週6日働いてるんだよ。しかも、通勤時間片道1時間45分、電車だよ。スマホ見たり、座れたら寝たり、時間が経つのが遅かった。だけどだよ、この交換日記を始めたら、あっという間に着いちゃうんだ。あとは、仕事して、家に帰っての生活だけど、とっても充実感がある。数は少ないかもしれないけれど、必ず読んでくれている人がいるしね。この充実感をくれたのはケンジだから感謝しなくちゃ。

俺も昔芝居やってたから、毎日が変化に富んでいた。長期公演の芝居でも、一日たりとも同じ日はなかった気がする。ケンジの言う凡人の生活とは違うと思えた。

今はその凡人の生活をしているわけだけど、確かに同じような日の繰り返しかもしれないけれど、全く同じ日なんてない。いつも歩いてる道だって鳥の声や草花で季節の移ろいを感じるし、第一、毎日交換日記で50年の時空を行き交っているのだから、飽きるわけがない。

昭和49年2月のケンジは充実した時間を過ごしている。今、その時を大切に!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る