NO66/ああ くるま座

ケンジ1974年昭和49年1月1日(火)

明けたぁー!今年は元旦から何か縁起の良い感じがする。例年の如く、タケちゃんなんかと一緒に見に行った御来光、見えた見えたァー!本年こそは真っ赤な、いやむしろ真っ白なデッカイ太陽が、遥か彼方の地平線に揚々と昇った。私は今年こそはと願をかけた。まぶしかった。きれいだった。天空は真っ青だった。地上の万物がコバルトブルーをバックにして、澄んだ空気の鮮やかな陽光の中にくっきりと映えわたっていた。野生の鳥はのどかに飛び交っている。

これこそ私の年だ。今日の元旦はあたかも、

私の本年の一大飛躍を、そして私の頭上に輝く栄冠を予期するかの如くであった。

素晴らしい元旦であった。

今日も日本は機嫌がいーい。


ケンジ1974年昭和49年1月7日(月)

今日はくるま座の新年会で、今年初めてくるま座の面々、それに酒井先生に会った。午後二時から新中野の酒井先生宅二階に於いて催されたのである。久しぶりにお酒を飲んで歌った。でも私は、いつもより出来が悪かった。座って歌うとダメなのかも知れない。どうも本調子が出ず、乗らなかった。選曲も悪かったのであろうが、伴奏があったことが主因だと思う。伴奏があるとどうしてもそれに合わせて歌ってしまい、私特有のイントネーションや強弱が出ず、心情が表しにくいのである。

ところで、今日のその宴会の前の打ち合わせで、今年第一回目の出し物の件が話し合われたのであるが、その中で、座長格のハシさんから、「今度の芝居では思い切ってケンジに桃太郎をやらせたい」という言葉が出たのだ。他のみんなもそうだそうだと賛意を示したし、これは十中八九私が桃太郎役になりそうだ。桃太郎といえば今度のタイトルの主人公である。それまでは、もう今年からはだいぶ慣れたことだし、思い切って自分の演技をしようと密かに決意していたのだが、その言葉を聞いた途端、サッと私の背筋に戦慄が走った。急の大役に自信がぐらついたのである。でも、ここでやるのが男、ここでやらねで何とする。あとは度胸のみである。


ケンジ1974年昭和49年1月8日(火)

今日は午後二時から本読み稽古で、午後一時に集合してみんなで稽古場の掃除をしてから稽古を開始する予定だった。ところがどっこい、一時までに来たのは私とジローのみ。他の連中は掃除がいやで来ないのか、はたまた根性が腐りきってるとでもいうのか、みんなが来だしたのが一時半頃。当然掃除は二人で済ませたあと。まったくくるま座の連中のたるんでるのには驚きだョ!もっとも私でもちょっと先輩格になれば、そんな態度にでるのかもしれないけど。しかしこうはなりたくないね。その上、もう呆れてものが言えないのが、座長格のハシさん。二時になっても来ず、TELしたらまだ家にいるということで、

「すぐ行くから」と言っておきながら、後で本人から(図々しくもこんなことを私らの前でよく言えるなァーと思ったのだが)直接聞いたところ、何と「テレビでサッカーを見てから来た」というのである。これには呆れるというより、むしろ度肝を抜かれた。


ヒロト2022年令和4年5月7日(土)

大型連休も終盤、去年、一昨年はコロナで、世の中ひっそりとしていたけれど、今年は移動制限無し、テレビに映る行楽地は人でいっぱい。電車に乗っても人で満杯。渋谷のハチ公前辺りも若者でギッチギチ、女の子のファッションもピッチピチ。高校のクラスメイト「北秋川自然休暇村」オオノ村長が送ってきた動画によると、檜原村の山奥のキャンプ場でもたくさんの人たちが楽しんでいるようです。一方、テレビニュースでは、中国のゼロコロナ政策で閑散としている北京市街が映っている。はしゃいでる日本でも、まだ一日で2万人以上の新規感染者がいるんだけどね。

いったいどうなるのだろう。全ては何年後かに収まったあと、振り返ってみてわかることなのかもしれないね。

ところで、ジロー君こと、現在の「姫路のじろりん」さんも、この交換日記を読んでくれているみたいだよ。ケンジの遠慮ないペン使いにムッと来る時もあるかもしれませんが、勘弁してやってください。

じろりんさんは、姫路を中心に積極的にライブ活動をされている。自分は遠すぎて行けないけれど、もし近くの人がいたら「姫路のじろりん」チェックして行ってくれたら、ケンジもうれしいよね。

さて、ここはひとつ、ケンジ、桃太郎役、

頑張れ!


ケンジ1974年昭和49年1月9日(水)

あーあ、今日も集合一時と言っておきながら結局ハシさんが来たのが二時、一時と言った張本人のグズラ、ホシノ、キョウマル三氏に至っては二時半過ぎ、こりゃダメだ!どうしようもねェーや!ねェー!日本の今の政治と同じだ。

ところで私の桃太郎の役の方は、今日新しく台本を書き直し、桃太郎は桃太郎なのだが名ばかりで、抜けた感じの同じ言葉ばっかり言ってる、お婆さんの操り人形みたいな人物になってしまった。まぁーそれについてはどうということもないが、あんまり面白くないねェー今度の台本も。でも私としてはその台本の中のバカな桃太郎をどのようにこなすか練らなくちゃねェー!

とにかくこんなくるま座じゃー、ハエーとこ

実力つけて去らねばなるまい。それまでは、

みっちりかじりついてでもやらなくっちゃ!


ケンジ1974年昭和49年1月11日(金)

さあ、いよいよ本年も浅草演芸場の舞台が始まった。今日が我らくるま座の初日、今年一年また頑張らなくっちゃ!前にも言ったように今度の私の役はバカの役で、私としては全く乗らず、全然やる気が起こらなかったのだが、今日風林火山さんの方の芝居を見物して、改めて闘志がわいてきた。風林火山さんの中でも、私が一番上手いと思っている女優が、私と同じようなバカの役をやっていたのだ。その演技を見て「やっぱり上手いなァー

あの人でもこんな役やるんだなァー」と、その女優の奇才ぶりを改めて痛感すると同時に

「私も役に不服ばかり感じていないで、本当にやる気があるなら、もっと一生懸命研究し演技していかねばならん」と、我が体内から何か涌き出て、溢れ満ちてくるような闘志を感じたのである。

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