NO60/悩めるケンジ
ケンジ1973年昭和48年8月13日(月)
我が日記も今日から第四巻、私ももう二十歳を過ぎた。時の移り変わりは矢の如しである。そんな今日、私はまたまた重大な決心を述べてきた。大内剣友会のまとめ役、ナンゴウ氏に一対一で、やめさせてもらいたいと言ったのである。8月いっぱいでやめることになった。ナンゴウ氏は、「ここをやめて、付き人になる気じゃないだろうな。」と言ってきた。私は付き人にはなろうとは思わない、とはっきり言った。
大内剣友会では、大成は望めない。私の考えだけでなく、他の人も同じ考えを持っているのは確かだ。やめてどうするのか、今コンビを組もうとしているヤナギさんとは、人間性が私とは合わないことがわかり、断ろうと思っている。お金の感覚が違う。考え方は素晴らしい、芸に対しても常に新しいし、上の人に対しても全く物怖じしない、これについては本当に尊敬の念を抱いている。でもなんで飲食代を私が払わせられるんだろう。金を貸せとも言ってくる。しかもそれが当たり前のようにだ。とてもついてはいけない。
今、頭に浮かんでいるのは、日テレタレント養成所の仲間との親密化である。
ケンジ1973年昭和48年8月16日(木)
昨日は舞台が終わってから、ヤナギさんと便所でケンカした。ケンカなんて何年ぶりだったろうか。私は二発平手打ちを食らい、唇が二ヵ所切れ血が流れた。でもこっちからは手は出さなかった。向こうもそれ以上手を出して来なかった。その影響で今日はヤナギさんとは一言も口をきかなかった。
ところで私は久方振りにケンカをしてみて、何と自分が涙もろいのか!ということにつくづく呆れかえってしまった。こっちが気が立って大声でがなり立てている時は、まださほど出るというわけではないのだが、それをやめると突如として、次ぎから次ぎへととめどもなく涙がほとばしり出てくるのである。そうなったら、止めようと思えば思うほど激しくなり、もうどうにも止まらない!
ようやく止まっても、しばらくはその事に関してちょっと考えるだけですぐ涙がこみ上げてきてしまうのだ。とにかく、私の感情が特に敏感なのか、はたまた男のなり損ないなのか!
ケンジ1973年昭和48年8月19日(日)
今日も一日終わった。未だに何か刺激の強い物を口に含むと、ヤナギさんに叩かれて切れた口中の傷がしみてしょうがない。全く余計なことをしてしまった。日テレの方はこのところも行き、何とか卒業まで努めようと思っている。その後も誰か気の合った奴らと共に何かを自らの手で創造していきたいと考えている。残るは実行のみ。私が凡人で終わるか終わらないかは、結局、現在の私の最大の弱点、主体性の無さ、積極性の欠如、行動力の欠如が克服されるかどうかに絞られてきたようだ。そのために今後のより一層の努力を要求されるのだ。とにかくマイペース、いつも明日に夢の持てる生活を営んでいきたい。
ケンジ1973年昭和48年8月21日(火)
どうも人間、さぼりぐせというやつは即つくが、ちょっとでも苦しい習慣をつけようと思うとなかなかつかぬものだ。今日の朝も、とうとう小学校の庭へ運動をしに行かなかった。昨夜はそのために日記も書かずに即寝たのに。私ってダメネェー!
さて、この8月の舞台も残すところあと8日、衣装を着込むくそ暑さからもそれで開放されるわけだ。と同時に、この約2年間の大内剣友会所属生活にも終止符が打たれるのだ。それから私はどうなるか、ヤナギさんらにもコンビ解消宣言をしてしまった現在、私は9月から本当に初めから出直す形となった。
ヒロト2022年令和4年4月28日(木)
ケンジ、まだハタチか。高校卒業3年目、のほほんと公務員やってる俺とか、大学生活をエンジョイしてる坊っちゃん、嬢ちゃんたちと比べたら、ずいぶんと濃い経験してるんじゃないの。
ケンジが悩み苦しんでいる、でもその言葉や行動にどこか可笑しい味わいがある。そんな日記との交換を楽しんでいるけど、ケンジの魂の叫び、この事にもちゃんと向き合っていかなくてはいけない!そう思ってるよ。
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