NO50/マルチ商法

ヒロト2022年令和4年4月10日(日)

ケンジ!それヤバいやつ!

年月は経っているけど、個人名とかはよろしくないので抜粋して記すことにしましょう。


ケンジ1972年昭和47年10月9日(月)

昨日はAPOの説明会に行き、帰ったのが夜中の一時頃だったためすぐ寝てしまった。

明日は7時半までに東京駅に集合して、変身忍者嵐のショーで大阪まで行かねばならない。

ケンジ1972年昭和47年10月13日(金)

昨夜は高校時代の友人で国分寺に住んでいる家に泊まった。というのは、私が例のAPOに入ることを薦めるため、六本木のコーポに連れていって二時間くらい説明をじっと聞いていた。説明が終わると、もうすごく乗り気で早速仮契約をしたのだが、すっかり遅くなってしまい泊めてもらったのだ。そして今日は、ミラーマンという怪獣テレビ映画の撮影があった。

ケンジ1972年昭和47年10月15日(日)

昨日は、TBS吉井川の撮影で家に着いたのが何と午前3時、もちろんタクシーで送ってもらって堀口橋まで帰ってきたのだ。その料金5000円、私のギャラより高いくらいだ。

このところマルチと仕事で大忙し、疲労激蓄である。しかし、こう仕事が忙しくてはマルチAPOの方がなかなかはかどらず、気ばかり焦ってしまうのだ。明日もプレイガールのアフレコとやらで新大久保まで行かねばならぬのだ。


ヒロト2022年令和4年4月10日(日)その2

この辺で、マルチ商法について少し触れておこう。

APOジャパン、1971年設立。

一応、自動車関連商品を販売する会社。

催眠商法や、百科事典、英会話教材などの押し付け商法に関わったセールスマンが入社。

商品の販売より販売権利の獲得と、この権利を買う人を勧誘することをメインとした、マネーゲーム的な要素が強くなっていった。

その後、三大マルチ(APOジャパン、日本ホリディマジック、ジェッカーチェーン)の中で、最多の25万人の会員を集めた。

そして、悪質な勧誘による被害が多発、未成年者にも被害が広がって大きな社会問題になった。やがて、1976年に活動停止となった。


ケンジ1972年昭和47年10月19日(木)

うーん、焦れば焦るほど形勢不利になる。マルチは焦ってはだめだ。高校時代の友達に昨日今日と立て続けに3回TELしてしまった。そのためか、結局良い結果は得られず、諦めざるを得ぬ状態に追い込まれてしまった。というのは、昨日私の方からわざわざ誘っておいてOKをとりながら、急に入ってきた仕事のために、またこっちから断りのTELを入れたのだ。それでやめておけばいいのに、今仕事が終わってから焦りのため、またまた誘いのTELをしたのだ。向こうだってバカではない、私の焦りを感付かない訳はないのだ。私が思うに、これは完全に失敗である。友達からハッキリ行かないと言われたわけではないが、「都合がつかないからダメだなぁー!」と言われただけで、それじゃぁその次の日、と言う気勢がそがれてしまった。結局、じゃあね、で終わりである。あーあ、焦ってはだめだ。

ケンジ1972年昭和47年10月27日(金)

ところでマルチの方は、どうも私の友人は早耳が多くて、みんな知っているのでやりにくくて困る。今日も中学時代の友達にTELしてみたのだが、もう7月にそんな話は聞いている。しかし入る気はまったくない、と言われてだいぶショックであった。他の友人は留守だとかいろいろで、結局明日の予定は一人もつかなかった。せっかく休みだというのに。


ヒロト2022年令和4年4月10日(日)

そろそろマルチは諦めようかケンジ。入会金5万円は、授業料だと思って、、、ってよく言われるけど、返してもらいたいよね。でもこの時点でマルチ商法を罰する法律は無かったらしい。後々に大変なことになるけどね。

そんな俺も偉そうなことは言えないんだ。あれも巧みに姿を変えたマルチ商法だったんだろうなぁ。

結婚したてだったから、自分が30ぐらいの時だと思う。ケンジのこの頃から10年後だね。役者はやっていたけどとてもそれだけじゃ食えず、いろいろなアルバイトをやっていた。新しいアルバイトを探す時、やっぱり楽そうでお金になる募集に目が行ってしまう。俺が飛びついたのは、高級鍋セットの販売。特長の異なる金属を5層に重ねた最高級品だという。職場などを訪問して、目の前で簡単な料理をして、如何にこの鍋が良い物かアピールして契約を取る。

入会金はナシ、説明会が有って今で言うカリスマ販売員みたいな人が、料理をしながら勧誘の方法をレクチャーしていく。これがまた簡単な料理。トマト、玉葱、人参などを適当に切って鍋底に並べる。鳥モモ肉を2枚塩コショウしてその上に乗せる。さらにその上にざっくりたくさんのレタスをかぶせて蓋をして火にかける。お好みでセロリを入れてもいいんだって。火は中火の弱火、水は入れない、これだけ、いわゆる無水料理ってやつ。簡単、健康的、経済的をアピールする。試食してみると、味は薄いけど逆に野菜の甘味とか肉の旨味が感じられて、結構うまい。それにレクリエーションもあって、体育館を借りてバレーボールをやったりして親睦を深め、楽しさもアピールしてくる。考えてみればそうやって取り込まれて行くんだな。「やっぱり、自分が使ってみないとこの鍋の本当の良さはわからないし、心からお客様に薦められないよ。」とか言われて、洗脳されたようにそれはそうだよな、とか思っちゃって、気がついたらそのセールストークを自分の奥さんにしていて、まだ優しかった奥さんが、「じゃ、買おうか。」ということになって、大小5種類の鍋セット、15万円也を買ってしまった。何のことはない、入会金がないからいいかなと思っていたら、結局15万円払ったって訳。

この鍋セット、売れると代金の2割だったかが自分に入る。1回のセールスで二人だけ買ってくれても5、6万にはなる。日給にしたら相当いい。しかもある程度の数を売るとリーダーになれる。買ってくれた人を『子』にして売り方を教え、その人が売ったらそこからいくらか入ってくる。孫になった人が誰かに売ったらまたそこから、、、

そうなったら自分は何もしなくてもお金が入って来ますよ、という夢のような話なのです。これがマルチなんだね。でも、あくまで商品が介在しているので違法にはならないという。

いやぁ、結果ですか?言わなきゃだめ?

売れたのは2セット。買ったのは姉とその知り合い。確かに品物は良くて二人は喜んでくれた。永久保証で取っ手、蓋のつまみなど取り替え無料、ウチの分も2度ほど替えてもらった。でも今は会社自体がなくなっているみたい。永久ではなかった。40年近く経つけど今でもこの鍋でご飯を炊いていて、早く炊けるしうまいよ。

しかし15万円は高い!そうそう売れるもんじゃなかった。

やっぱり地道なバイト、植木屋やったり、トラック運転手やったりしてなんとか役者を続けました、とさ。



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