NO48/石川さんと桃井さん

ケンジ1972年昭和47年8月3日(木)

今夜は後輩のコトブキの下宿に泊まっている。今後この八月中に、毎日のように泊まることになるかも知れない。そのたびにコトブキと一緒に立ち回りの稽古をし、私自身の腕もコトブキの腕も、共に上達するよう試みようと思う。だがこれはあくまで構想であり、私の意思がそこまで続くかどうかは疑問である。だが初志貫徹の精神で行くのだ。もし一ヶ月間波に乗ってできれば、私もコトブキも相当上達する筈だ。上達した時のことを考えると、身体中の鮮血の沸き上がる思いがしてくるのだ。その他、セリフの稽古もできる。討論もできるだろう。プラスはいろいろある。しかし問題は、人間関係、私も飽きっぽい方だし、コトブキもどうかわからない。これがもっとも難しい問題なのだ。もしこれさえ乗り越えられれば、必ずこの試みは成功できる。


ヒロト2022年令和4年4月8日(金)

俺の経験からすると、ひとつの部屋をシェアする場合、他人と上手くやっていくにはただ一言、一緒にいないこと!矛盾しているようだけど、これに尽きる。

寝る場所の確保が目的なんだから、寝る時はしょうがないけど、他はなるべく一緒にいない方がいい。1日2日だったら一緒でも大丈夫だろうけど、長期の時は絶対です。

最近よく俺の話に出て来る「罠」の旅公演、宿は同じ警官役の石川恵彩さんと同部屋が多かった。当時の劇団新人会所属で少し年上の真面目で物静かな人。仕事が終わって食事も済めば、部屋に戻って読書でもして、早めに布団に入る。枕元には昔のホームドラマみたいに水差しが置いてあり、必ずミキプルーンのビンもきちんと並んでいた。

俺はというと、なかなか部屋には戻らない。飲み屋や誰かの部屋で飲んでいたり、なんやかんやいつも遅くまで遊んで、部屋に戻ると石川さんは大抵寝ていた。

2ヵ月間ぐらいの旅公演が3回、いつも一緒だった。にも関わらず、トラブル一切なし、特に仲良くなることもないかわりに、険悪になることもない。とてもいいバランス。もっともいつも遊んでる俺をどう見てたかはわからないけどね。でも、他の部屋に飲みに行っていたおかげで、山崎さんの舞台に出られるようになったんだから、遊ぶのも悪くはない。

実はもう一人、ルームメイトがいるんだ。

石井ふく子さんプロデュースの芝居によく使ってもらってた時のこと。東京はもちろん、名古屋、大阪、博多、特に名古屋は何回もあったよ。

最初のうちは用意してくれたホテルに泊まったけど、だんだん賢くなり、一ヶ月分のホテル代をもらってウィークリーマンションを借りるとお金が残る。更に進化して、複数でマンションを借りると残るお金が増えることに気づいたんだ。しかも広いところが借りられる。そこで一緒に出ている同年代の桃井政春さんと、4LDKのマンションを借りるようになった。桃井さんは、森光子さん主演の「女の一生」の常連メンバーだった人だ。

部屋で飲む時は広いリビング、朝食は時々桃井さんが作ってくれた。俺が玄関脇の洋室で寝ていて朝になると、台所からトントンと包丁を使う音が聞こえてくる。味噌汁の匂いも漂ってきた。じゃあそろそろ起きようかって感じ。弁当を作ってくれたこともあったよ。おかあさんみたい。でも男二人の共同生活、ウザくなる時もあるだろうと思うでしょ。そういう時にこの広い4LDKが役に立つ。寝る部屋は桃井さんがベランダ側の和室、俺は遅く帰る時が多いので玄関脇の洋室、イビキも聞こえない。時間がずれれば会うこともない。お互いのペースを守りながら生活できた。

ある時、この部屋でパーティーをやろうということになった。20人以上の出演者やスタッフが集まった。ふつうのマンションの一室なので近所迷惑だったろうなぁ。でも楽しい思い出だよ。


ケンジ1972年昭和47年8月11日(金)

ちょっとした異変、コトブキとの件が思わしくなくなってきた。私から見れば、あいつは先輩に対する礼儀に欠ける、口のきき方を知らない、といったところだ。向こうから見たら、ちっとも先輩らしくなくケチだ、というところだろうか。まぁーどっちにしろ仲が嫌悪になる道をボチボチと歩んでいるのは確かだ。こんな早くからもう仲が悪くなるなんてェーのはしょーのない話だが、これも「人生の理(ことわり)」というヤツならば仕方のないことだ。とにかく仲の嫌悪になることを恐れて薄っぺらな付き合いばかりやっていれば、真の友は出来ない。ある程度長く深く付き合えば、当然相手の欠点が目についてくるというのは、世の中の道理なのであるから。そういう風な人間関係を経て真の友に巡り合い、人間の知的蓄積が高まり、人類の進歩へとつながるのであろうから。


ヒロト2022年令和4年4月8日(金)その2

今日はアメリカのメジャーリーグの開幕。

マリナーズ、大谷翔平選手が投手、指名打者で先発する。開幕戦ではメジャー初とのこと。

楽しみしかない!

次の日記で、何が語られるのだろうか。

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