NO47/村井国夫さん

ヒロト2022年令和4年4月6日(水)

昨日は休みで、「徹子の部屋」を見た。村井国夫さんが出演、77歳ということでそれなりに老けてはいたけど、素敵な笑顔は変わっていない。心筋梗塞で舞台を途中降板して、その後お元気になられたのは知っていた。でも、その時救急車で搬送中、2回も心停止したなんてびっくりした。コロナにもかかったとおっしゃっていて、本当に大変でしたね。

村井さんとは、NO21で書いた「罠」という芝居で、全国巡演の旅でご一緒した。1985年前後、2ヵ月ぐらいの旅公演が、1年に1回のペースであった。村井さん40歳、俺32歳の頃だね。印象的だったことを書こう。旅公演では同じ場所で2、3日やる時もあるけど、ほとんどは1日だけの公演、前の日に現地に入り、舞台道具搬入、舞台セット建て込み、翌日公演、舞台セットバラシ、舞台道具搬出、11トントラックに積み込み、これでひとサイクル終了。

俺は、チョイ役のフランス警官兼大道具手伝い、村井さんたちのように主要キャストだったら普通の時間に夕食できるけれど、スタッフは片付けに2時間はかかる。夜の公演が終わってから片付けだと、帰るのは夜10時回っている時が多い。それからホテルで夕食。当然、主要キャストの皆さんは食事も終わり、部屋に戻っている、、、筈なのだが、いつもと言っていいぐらい村井さんと大空眞弓さんが残っている。村井さんは全然酒が呑めないのでお茶だけど、大空さんはブランデー、しかもナポレオン。後で知ったことだけど、財界の大物が大空さんを応援していて、旅先に先行してナポレオンがまとめて届くらしい。大空さんはいつもそのナポレオンを、1/4ぐらい飲んであとは残して置いていく。いつも、結構ご陽気に酔っていて、しばし食事をしている俺たちと他愛のない会話を交わす。村井さんもお茶を飲みながら付き合っている。やがて、眠くなったと言ってフラフラと村井さんに支えられながら、部屋へ戻って行く。一度は飲み過ぎて、村井さんにおんぶしてもらって行ったこともあったな。大空さんもまだ40半ば、この頃はフライデーがえげつなかったので写真でも撮られたらヤバかったところだったけど、実情は、危なっかしい大空さんを村井さんが守っていたんだ。しばらくそれが当たり前のように過ごしていたけれど、ある時ふっと俺はわかった。

この二人は、さりげなく食堂に残っていたけれど、実はまだ仕事をしていた俺たちを待って、迎えてくれているんだと。そして、ナポレオンは俺たちに飲ませるために、わざと置いていくのだと。

二人の優しさ、粋なところはまだあったよ。

何処だったか、割と大きな都市で公演した時、村井さんと大空さんが地元のラジオ局に急遽出演したんだって。その時もらった謝礼を、これでみんなでカラオケ行こうって俺たち7、8人連れてスナック借りきっちゃったんだ。盛り上がったなあ。村井さんは今もミュージカルに出ているぐらい歌が上手く、安全地帯の「恋の予感」をちょっとスカして歌ってたけど女子たちはうっとりしてた。大空さんは、何歌っても可愛い感じだったな。

スナックには、謝礼を全部払ったみたいで、あのママさん、ウハウハだったと思う。


ケンジ1972年昭和47年7月30日(日)

どうも近頃の私は、ちょっと自信がついてきたり、後輩が二人できたりで、少々鼻を高くしている傾向があるようだ。今日もイワモトさんからそういう関連事項でちょっと呼ばれ、「葵君、お昼なんかでは座ったまま腰を重くしていないで、大野剣友会の人たちにお茶でもなんでも持って行ってやれ。」と静かに諭された。それも、「コトブキ君にもそう言っとけ」といった風に上手くコトブキの方を主体と見せるような、うまい口ぶりであった。イワモトさんらしい心遣いであった。

それに引き換え私の方といえば、確かにちょっと有頂天になっていた節も思い浮かぶ。我ながら軽率さ加減に呆れているところだ。とにかく八月一日からは、初心に帰ってもう少し腰を軽くするよう心掛けねばなるまい。こういう仕事はまず人間関係が上手く行っていないと、まったく面白さが減ずるものであるから、これは重要なことだ。とにかく頑張っていこう。今日は生まれて初めてサングラスを買った。千円だった。


ヒロト2022年令和4年4月7日(木)

村井さんの続き

「罠」の稽古中、売れっ子の村井さんは仕事で出られない時があった。その時俺が代役をやらせてもらえたんだ。なんか嬉しかったね。セリフを全部覚え、動きもチェックして稽古の流れを止めないようにつとめた。

山本學さん、大空さん、金田龍之介さん、久保菜穂子さん、下元勉さんたちと絡むので緊張はしたけれど、皆さんが余裕を持って接してくれたので楽しかったな。

旅先のある時、旅館の一室で敷いてあった布団を半分に折り畳んでそれに寄りかかり、演出助手兼舞台監督の宮永雄平さん、大道具の伊藤君、大木君たちと酒を飲みながら話をしていた。そこへ、演出の高橋昌也さんが入って来たんだ。俳優の高橋昌也さんは、演出の仕事も始めている。どこかで飲んできたのか少し赤い顔をしている。俺以外の人たちとは以前から仕事をしているらしく、ものすごくフレンドリーに話をする。みんなは大ベテランの高橋昌也さんを気軽に昌也さんと呼んでいるのだ。芝居中心の話で盛り上がっていたが、昌也さんが突然、「まさき君、来年やる芝居に出るか?」と聞いてきた。実は、昌也さん演出で、宮永さんも伊藤君も大木君も参加するらしい。俺はもちろん即「ハイ、お願いします!」って返事をしたよ。

その芝居が、1986年山崎努さん主演のパルコ劇場公演「コリオレイナス」

これが、山さんの舞台、6作品に参加した始まりなのです。

大木君が後で教えてくれた。「昌也さんが、まさきは代役頑張ったからなぁと、言ってましたよ。」

村井さん、稽古休んでくれてありがとうございました。



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