NO46/ウルトラQザムービー

ケンジ1972年昭和47年6月22日(木)

今朝は参った。朝5時11分拝島発の西武線に乗り、新宿に着いたのが6時11分。拝島までは兄に車で送ってもらったのだが。

さて、西武新宿の駅に着くとさっそくキョロキョロと探し出した。もちろんトイレ、ところがそれらしい表示がどこにもない、とうとう新宿西口まで行けばあるだろうという甘い考えで行ったのが間違いの元であった。行けども行けどもそれらしきものはどこにもない。あっても朝早すぎて閉まっていたりなのだ。まったくこれぞ、大都会の弊害の最たるものであることは間違いない。トイレがなけりゃーいったいどこでやりゃーいんだよ。その辺の道端でやったって警察は文句を言えねェーことになるんだぜ。

「エーイッ、こうなりゃヤケクソ」と、ビルの谷間の側壁にチャーチャーと引っかけてやった。すぐそばには、どこのどいつがやったのか、黄土色に輝く芸術品があった。

あー大都会の裏の弱点はここにあったのだ。

日の出村は、全土が天然式水洗トイレなのである。


ヒロト2022年令和4年4月3日(日)

しょうもねぇ日記だなあ。「こうなりゃヤケクソ」って書いてあるから嫌な予感したけど、それは他人様のだったのね。

まあ、最後の一文が気に入ったから載せてみた。


ケンジ1972年昭和47年7月17日(月)

昨日は、後楽園のライダーショーが終わりどうせ暇なのだから、てな訳で後輩の下宿へ遊びに寄っていたのがまずかった。夕方事務所に電話すると、今日の7時までに「現代企画」というスタジオへ行ってくれというのだ。五日間ロケだから泊まる用意が必要との事。これにゃァー参った。なんせそうなると、これから一旦家まで帰って支度して、その足でヤナギさんの下宿に泊めてもらいに行かねばならないのだ。その上、私は現代企画なんてェーところは行ったことはなく、一層不安になったのだ。しかしそこは男、その通りのことをやってのけて、今は伊豆のとあるホテルで雄壮な潮騒のとどろきをベランダの向こうの闇から、心静かに伝わってくる心地良いメロディーとして、心酔して聞き入っているところなのだ。

仕事は「トリプルファイター」役はデビルマン。あっーあと四日間、暇な時は泳げるし、やったるデェー!


ケンジ1972年昭和47年7月20日(木)

今日もだいぶ晴れて暑くなった。今日のロケは大半が海岸の断崖の上で、仕事の立ち回りのない時はそこに座り込み、大空の下、豪快に寄せてくる大波が雄大にそそりたつ絶壁にぶち当たり、大きく真っ白な水しぶきを逆巻かせ、青い海を真白い塩の塊になるようなまでに変身させるのを、心をときめかせながら、子供のような気分で眺めていた。非常に楽しかった。しかしそれにつけても、やっぱり彼女が一緒にいないというのはちょっぴり残念なことなのである。私も早く彼女の一人も作らなくては!

さて、そんな訳で今日もプールで泳ぎ、のびのびと一日を過ごしたのだが、今は夕食の時飲んだビールで頭がカッカしているのだ。

台風のせいかどうか、今はベランダから入ってくるいつもの潮騒が、一層大きく、いかにも荒々しく聞こえるのだ。


ヒロト2022年令和4年4月3日(日)その2

いいロケ行ったね。でもこれはあくまで仕事だからね。彼女と海を眺めるのは、プライベートにしてよ。

俺も一泊だけど、伊豆半島の先っぽの方の小さな海岸にあるホテルに泊まったことがある。映画のロケだった。プライベートビーチぽくって素敵なところだったけど、地図見て調べてもよくわからない、ごめん。

夕飯は、監督はじめ、キャスト、撮影スタッフ全員大広間に集まって、わいわいやった覚えがある。そうするのが、この監督は好きらしい。監督の名は、実相寺昭雄。

映画は、「ウルトラQザ・ムービー星の伝説」あらすじ見つけたからいっちゃおうか。


古墳の近くで連続怪奇殺人事件が起きた。古墳盗掘者と古墳近くのリゾート地を測量中の技師で、いずれも体を貫通して穴が開き、海水に濡れていた。一方古代史スペシャル番組を取材中の浜野(堀内正実)は、史跡調査なしに始めた団地造成工事に遭遇し、憤慨する。その時工事の振動で、古代怪獣薙羅が目覚め、人間を襲った。(この襲われた人間の役が俺です。後で詳しく)

そして浜野は、「竜宮へ行く」との言葉を残し、失踪する。

淳(柴俊夫)、由梨子(荻野目慶子)、一平(風見しんご)は捜査の為、浜野の生地である西伊豆から竜宮島へ渡った。そこで、真弓という女(高樹澪)と出会った淳は、彼女の不思議な行動に、怪奇事件の犯人ではないかという疑問にかられるのだった。真弓は淳に

「浜野さんを探さないで、、、」と告げて消える。淳たちは浜野の手帳が落ちていた丹後半島へ行った。そこで再び真弓が現れるが、一平が頼んだ警官に捕まってしまう。しかし真弓は薙羅を呼び出し、手錠を壊させて逃亡してしまう。

やがて常世島にたどり着いた淳たちは、そこで宇宙に楽園を求めて飛び立つロケットを見る。無用の争いをさける為、真弓と浜野、常世を信じる人々、薙羅は、地球を去って行ったのだ。


どう?面白そう?

まっ、それはおいといて、俺の役は観光事業部員ということで、撮影は面白かったよ。

伊豆では、それらしいところで調査している様子だけの撮影。飲んで食べて温泉入ってそれだけ。こんなんだったら何度でもお願いしたい。ところがどっこい、東京で別の日に、古代怪獣薙羅に襲われるシーンの撮影、これが恐ろしかったんだ。スタジオに、伊豆の民宿のセットが作られてある。俺ともう一人の観光事業部員役の二人が、民宿の部屋のテーブルに、図面などを並べて話をしている。そこに古代怪獣薙羅が襲ってくる。バリバリッと天井を突き破って、怪獣の足が現れる。像の足をデカくしたような形だ。天井の板がバラバラ落ちてくる。蛍光灯がバチバチして割れる。俺たちは逃げる。廊下に出る。そこにもバリバリッ、バラバラ、怪獣の足。逃げる。またバリバリッ、バラバラ、足、廊下の蛍光灯もバチバチ、バラバラ

「はあい、カット!」

一発OKだ!って一発じゃなきゃあ駄目なのよ。セット、バンバン壊すんだから撮り直しがきかないのよ。本番前の打ち合わせは、どことどこに足が降りてくるかだけ。そして、助監督が言うには、「はじめは、できるだけだらっとリラックスしていて、バリバリッときたらあわてて逃げる。できるだけギリギリで逃げてください。廊下の方もよろしくお願いします。一発でお願いします。では本番参ります!よ~~い、スタート!」カチン

って訳。

怪獣は足だけ、足のハリボテを、フォークリフトの爪の先にセットして、高々と持ち上げて、一気に振り降ろす。3台ぐらいあったと思う。後から考えると恐ろしいけど、本番はなんか面白かったなあ。




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