NO30/覗き

ケンジ1972年昭和47年1月7日(金)

今夜はアソウさんと一緒に楽屋に泊まっている。まぁー一安心、かといってオイカワ魔の襲撃の危険性がまったくなくなったという訳ではない。昨夜はどういうわけか、オイカワが下の楽屋に泊まらなかったので難なく眠れた。しかし今夜は泊まっているのだ。油断はできない。さて、今夜は温泉風呂に一時間以上入っていた。というのは、別に一時間もずっとアカを落としていたとか、湯に入っていたとかいうのではない。実を言えば女湯の覗きをやっていたのだ。私とアソウさんの二人が風呂に入っているところへ、何かずいぶんその方面に詳しい中年の男の人が来て、うまく見えるところを教えてくれたのだ。しかし、もうちょっと時間が遅く、一時間粘ったが若い女の人は一人も見えず、とうとう明日改めて見ることにして、風呂から出て来たのである。明日こそは!である。さて今夜はその風呂に行く前に、アソウさんと一緒に船橋市内へパチンコに行ったのだが、私は200円やったがパー、アソウさんもパーということで、わざわざ30円かけて電車で船橋まで行ってショボンとして帰って来た。明日こそは!


ケンジ1972年昭和47年1月8日(土)

昨夜はやはり来た。アソウさんが私のすぐ横に寝ていながらである。このど根性には驚いた。私もまさか第三者がすぐそばに寝ているのにぬけぬけと入って来て、私のそばにピッタリとくっつくような格好をしようとは、お釈迦様ともども気がつかなかったのだぁー。その上、昨夜はとうとうずっとヒッツイていて朝までいたのだ。だもんだから、当然朝起きたアソウさんとも顔を合わせた訳だ。そこで当然考えるのは、慌てふためいたオイカワさんの顔だ。しかし、それが素人の浅はかさ、まったく予想に反して慌てふためくどころか、顔色ひとつ変えず、神色自若堂々たるもので、平然とアソウさんと話をしているのだから驚き。アソウさん自身も「なんであの人はあんななのか」と一驚につきるばかり。もーああいう風になると病気だろう。

さて、今夜はもう一つ昨夜の続きに挑戦したのだが、まんまと不成功に終わった。それは女湯覗きの件である。昨夜教わったところが、どういう訳か今日は閉まっていたのだ。アソウ先輩ともども肩すかしを食った感じでガックリ。アソウさんは、本当は今夜は泊まることになっていなかったのに、その為にあえて泊まったのであるから尚更ガッカリしたことだろう。


ヒロト2022年令和4年3月11日(金)

もう、アソウさんたら、、、オイカワはともかくアソウさんのこと、好きになりそう。

ところで、どうして俺は性格は違うのにやることはケンジとかぶるんだろうね。

ちょうどこの時のケンジと同じ頃、俺は友達と4人、スキーバスツアーで有名な温泉地に出かけたんだ。車中1泊ホテル2泊3日、1日目の夕飯、ホテルの大食堂で、同じツアーの女性グループとテーブルが一緒になった。我々よりちょっとお姉さんという感じ。2022年の今はコロナで黙食なんてことになってるけど、本来食事は会話しながらが楽しくて美味しいよね。そこでもちろんお姉さんたちと会話が弾んだ。ビールなんかもいっちゃうよ。

いい感じで話していると、お姉さんの一人が、「温泉街のはずれに、共同浴場があるんだって。夜の雪道私たちだけじゃ怖いから、一緒に行ってくれない?」ときた。俺と親友のAちゃんは即、その話に乗ったよ。あとの二人は寒いし眠いから行かない、だって。なんともったいないことをするもんだ。

確かに寒くて歩きにくい中、俺とAちゃんお姉さん3人の5人はその共同浴場に向かった。ゆるくはあったけど、登り坂を10分ぐらいかかってやっと着いた。

無料ってだけあって、狭くて薄暗い。残念ながらというか、もちろん男女別だ。誰もいないみたいだ。宿にも温泉のお風呂があるのだから、わざわざ夜寒い思いして来る人もいないかって、自分もちょっと後悔した。

でも、湯は掛け流し、入れば思いっきり気持ちがいい。壁の向こうからお姉さんたちの話し声と、桶がカランとかも聞こえてきて想像力が膨らむ。

と、Aちゃんの動きが変だ。女湯との仕切りの壁が湯船のところだけ、白いまな板のような合成樹脂になっている。Aちゃんは湯船に浸かったまま、女湯に向かって壁に顔をくっ付けてる。どうした?って声を掛けようとしたらAちゃんは、人差し指でシッとやりながら、もう一方の人差し指で壁の一部を指差した。

そこにはなんと、タバコ一本分ぐらいの穴が開いてるじゃありませんか!

勇んで湯船に浸かり、その穴に片目を当てた。湯煙揺れる薄暗いあちらの湯船が見える。見える範囲は限られているようだ。

なんだ誰もいないなぁと思ったら、湯船に白い足がつま先から入って来た。はっきりくっきりとまでは見えないけど、誰だかはわかる。あのお姉さんだ。なんか、ありがとう!ごめんなさい!感動にうち震えてると、Aちゃんが俺の肩を叩き、交代のサインを出して来た。仕方ない、まずは譲って、また交代してもらおうと立ち上がった。すると、立ち上がったその目線の高さに合わせるように、今まで白っぽくて気がつかなかったけど、そこにも素敵な穴があったんだよ!ケンジ!

そりゃ、ゆっくり湯船に浸かりながら観賞できるのは羨ましいけど、そこは要領のいい、ちょっとわがままなところがあるAちゃんに任せて、俺は立って観賞することにした。

夢のような時間がいつまでも続いてくれたらいいのに、お姉さんたちはもう上がるようで、穴から見える範囲から、フレームアウトしていった。もしかしたらと思って粘っていると、帰るわよって声がした。ちょっと待ってくださいって応えてAちゃんを見ると、様子がおかしい。顔が真っ赤で目が虚ろ、ふらふらと湯船から出て、脱衣場の床の上に大の字になっちゃった。完全なる湯あたり状態。しばらく休ませるしかない。

悪いけど、先に帰ってて!と声をかけると、男のくせに長湯ねぇとかなんとか言いながら、ホテルへ帰って行った。


翌朝の朝食、お姉さんたちと同じテーブル、昨夜のことなど何もなかったような顔して、今日はどこで滑るのって聞いたりしたら、お姉さんたちはゴンドラに乗って上級者コース、俺たちはみんなド初心者、とても一緒には滑れない。食事が終わって部屋に戻る時、お姉さんの一人が俺とAちゃんに近づいて来て、二人だけにわかるような声で、あんたたち、きのう、覗いてたでしょ。って捨てゼリフみたいに呟いて自分の部屋に戻って行った。

バレてた!


俺たちは、昼間は健全だ。ツアーのオプションのリフト乗り放題を使って目いっぱいボーゲンで滑った。少し上手くなった気がする。夕飯も旨いぞ!

でも、お姉さんたちがどんな態度に出るか、俺とAちゃんは気が気ではなかった。意外にもお姉さんたちはいたって普通、樹氷のきれいさなんかを話してくれた。

そして、、、、、、、、、、、、、、、、、

おどろき、、、、、、、、、、、、、、、、

また今日も共同浴場、行きましょ。なんて言うじゃありませんか!

仲間のあと二人にはゆうべのことは言っていない。今日も疲れたから行かないと言う。そうそう、それでいいよ。

また5人で、共同浴場行きました。観賞しました。Aちゃんは湯船に浸かりっぱなしはやめて、俺と交代交代でした。

それにしても謎、女心はわからない。


オマケがあります。

俺が湯船に浸かって観賞していると、向こうの湯船にいるお姉さんが、急に近づいて来て、穴がお姉さんの目でいっぱいになった。

あの目は今でも夢に出てくるよ。

もう一つの謎、あの穴は誰が、どうやって開けたのだろう。結構厚みがあったからね。

俺の考察はこう、タバコ一本分ぐらいの穴というのがその根拠。志を持った先人たちが、少しずつ、タバコの火で合成樹脂を溶かし、日々を重ねて、開通させたのではないでしょうか。先人たちよ、心からありがとう!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る