NO18/劇団ひまわり

ケンジ1971年昭和46年7月17日(土)

(大部分省略)

いよいよ明日は劇団ひまわりに審査に行く日だ。どうなることか。


ケンジ1971年昭和46年7月18日(日)

(大部分省略)

恵比寿というところにある「劇団ひまわり」の審査を受けに行った。内容は早口言葉、ジェスチャー、パントマイム等で、私の出来は早口言葉はだめだったが後はまーまーだった。審査員は幸か不幸か、初めのはタレントの園井啓助だった。横には女優の岸ユキもすごい奇抜な格好で座っていた。


ケンジ1971年昭和46年7月21日(水)

(大部分省略)

さて、劇団ひまわりの方は今日めでたく合格通知が速達で届いた。まーその方は予想通りであった。


ケンジ1971年昭和46年8月1日(日)

今日私は、劇団ひまわりの入所式に参席した。可愛い娘もいればそうでないのもいたし、憎たらしい野郎もいた。劇団関係者のあいさつが始めにあった。そして例によって、そこで一番のお偉方らしい人の演説があった。しかしここでは、高校の時と違って、いくら形式的であっても、誰一人逆らう者はいなかった。これでも同じ若者である。どっちが若者らしいかは別として。

来てみると、募集人員30人ということであったのに、60人ぐらい集まっていた。途中で脱落者が多く出るからということらしい。

顔を見回してみても、私ほどの押し出しの良さそうな顔も目につかなかった。まーみんな大したことはなさそうな顔ぶれであった。これからはきっと苦しむと思うが、頑張ってやっていきたい。


ヒロト2022年令和4年2月23日(水)

劇団入所というより、劇団研究所入所おめでとうってことだね。悩める18才も、考えてみると高校卒業してからまだ4ヵ月、グダグダに見えても、免許取って、バイトして、劇団研究所の生徒になる。なかなかの行動力だよ。これからが楽しみだね。

ちょっとここでまた、俺の創作意欲が疼き出した。書いてみるね。


「ケンジ」作 まさき博人

『セッシャオヤカタトモウスワ、オタチアイノウチニゴゾンジノオカタモゴザリマショウガ、オエドヲタッテニジュウリカミガタ、ソウシュウオダワライッシキマチヲオスギナサレテ、、、、、、、』

ケンジと同じ年頃の女の子が、くっきりはっきり、大きな声で今日の課題の一文を読み上げていく。次は、ケンジの番だ。

ここは、劇団さくらの稽古場、今日は劇団研究所予科生の教室になっている。

劇団さくらは、劇団と言っても舞台公演を中心に活動しているわけではなく、子役をはじめ、多くの俳優やタレントを抱え、映画、テレビ、ラジオ、コマーシャルなどの仕事を斡旋し、そのギャランティの一部を収入として経営している、言わばプロダクションである。

そして、稼げる俳優、タレント育成のため、劇団俳優養成研究所なるものを立ち上げている。初心者のための予科、3ヵ月後選抜されて残った者が、本科に進み、また3ヵ月後選抜された者が専科に進む。そこで、これは、という者が選ばれて劇団研究生となり、仕事も与えられるようになる。ここまで来ると残った者は数人だ。

この養成研究所、育成の他にもうひとつ大きな役割がある。30名の予科生の募集をかける。「あなたもテレビや映画で活躍出来る!」夢見る若者が数多く応募する。書類審査というものを一応して、募集人員の何倍もの審査合格者に通知を出し、3000円の受験料を科して試験をする。そして定員の倍の人数を合格させて、入所金、授業料を取って育成する。大学とまではいかないが、ちょっとした専門学校に行くのと同じぐらいお金がかかる。実はこの収入が、経営の大きな原動力になっているのだ。

そんなこと、知る由もないケンジは、新聞でアルバイトの募集を探している時に、「あなたもテレビや映画で活躍出来る!」を見てしまったのだ。漠然と物書きになりたいなどと夢は描いていたが、これは面白そうと強く惹かれた。

そして今、この教室にいる。

女の子が読み上げているのは、歌舞伎の十八番の口上、「外郎売り」。今日の課題だ。

前回、テキストを渡されて、よく声を出して何回も読んでおくように、見ながらでもいいから次回発表してもらいます。ということだった。その時、俳優でもある講師がお手本として暗誦でやって見せてくれ、それは流れるような見事なもの。時間にして、6分ぐらいだった。

「外郎売り」の解説もあった。これは、1718年享保3年正月、江戸森座の「若緑勢曾我」(わかみどりいきおいそが)で、二代目市川團十郎によって初演されたもの。十二代團十郎が復活させたものを、今では歌舞伎役者だけではなく、俳優、声優、アナウンサーに至るまで、発声、言葉の訓練のために暗記してやっていると説明された。

ケンジは今、それどころではなかった。そんなことはどうでもよかった。小学校の国語の時間、朗読で当てられないように、身を縮ませて、出来れば先生から見えないようにしていたぐらいだ。

「、、、、、、、、、、オットガテンダ、ココロエタンボノ、カワサキ、カナガワ、ホドガヤ、トツカワハシッテユケバヤイトヲスリムク、サンリバカリカ、フジサワ、ヒラツカ、オオイソガシヤ、、、、、、、」

そろそろ終盤にさしかかってきた。それにしてもこの子、テキストは持っているがまったくと言っていいほど見ていない。全部覚えているようだ。おまけに身振り手振りまで入っている。そうだ、自己紹介の時、高校では演劇部の部長をやっていたって得意げに言っていたことを、ケンジは思い出した。

参ったなあ、この子の後にやるのか。

ケンジは小学校の時のように身を縮めた。


多分こうだったんじゃなかろうか劇場でした。


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