NO17/アルバイトと公務員

ケンジ1971年昭和46年6月23日(水)

今日で寝っきり生活五日連続。まったく18才という若いみそらで大した怠けぶりだこと。我が身をもて余しているというところだ。しようと思えば何でもできるのだが、何せいろいろ応募しているものだから、下手にちゃんとしたところで働くということもできず、ぶーらぶらという具合になってしまったのだが。まーどうしようもない。もし堅い所で働いたりすると、ある程度連続して日数も多く行かねばならない。それに休みも取りにくくなる。そういうことなのだ。それにしてもやはりこんな若いみそらで家にじーっとしていなければならないというのも、なんとまーもったいない話か。五日間ちょっと気のきいたところで働けば少なくとも5000円にはなる。いいところなら2万ぐらいになるかも知れない。あーあ、我ながらイヤだダダダーダナー。


ケンジ1971年昭和46年7月6日(火)

今日も梅雨明け第二日目とあって、グーンと暑かった。そんな中を、私は今日からいよいよ土建屋のアルバイトに踏み切った。

まず第一日目、これは誰でも言われる「最初は疲れるよ」であった。私においては自動車の免許を取って以後、外にすらあまり出ず、箸より重いものを持たないような生活をして来たので、もちろん人一倍疲れた。もー今でも足が、特に足指などが痛くてかったるい。

今日は主にブロック積み、ブロック運び、モルタルのかき混ぜということをやったのだが。中でも一番疲れたのは、真昼の猛暑の中を一輪車を使ったり、階段を上がったり降りたりしてするブロック運び。とにかくその時はもう辞めようかと思ったくらいだった。しかし、私はそのくらいのことでは辞めない。また明日も行くのである。


ケンジ1971年昭和46年7月7日(水)

今日は暦の上では七夕であるのだが、現実には台風13号が関東に接近しつつあり、空はどんより曇ってビクともしない。そんなわけで今日は一日中雨が降ったり止んだりの天気だった。よって私の土建屋のアルバイトも今日はお休みしてしまった。昨日行き始めたばかりなのにしょーがねーなー。体の方も、久しぶりに労働したので、昨夜から今日にかけては体のそこいらじゅうが痛む次第である。

特に昨夜は手首がちぎれるように痛く、今日は腰がちょっと痛い。

昨日は初日で、思ったより疲れてしまってさほどバリバリ仕事もできなかったので、明日は一つバッチリ決めてこようと思う。


ケンジ1971年昭和46年7月8日(木)

チッチッチッチー、今夜は体じゅうが熱くて痛くてしょうがない、というのも今日が台風一過でカラッと晴れてしまったからだ。夏の太陽が遠慮会釈なく、ジリジリ照りつけたからだ。土建屋でゴルフ場の杭打ちをした。まったく今日は暑かった。私の顔も肩も、真赤赤赤である。しかし疲れの方は一昨日よりひどくない。やはり多少慣れたのだろう。今日の仕事は四人一組の仕事だったので息が合わないとできない。だいぶ気が合ったのだと思う。まーとにかく一日勤まって良かった。


ケンジ1971年昭和46年7月10日(土)

今日はまったく差別を受けた。朝ゴルフ場に行くと、早速カマ組と運び組に分けられた。それもある老人の任意かつ一方的な利己主義でである。ひと度カマ組になれば、あとは一日中カマを右手にエッサホイサと、気楽に自分の周りの草だけ刈るまったくの軽い仕事である。ところが例え一時でも運び組をやらされたあかつきには、もー最後、汗はびっしょり、足腰クタクタ、手、頭はあつあつのとにかくの重労働、とてもカマ組など問題にならない。まーカマ組の五倍は疲れるだろうと計算される。私はその運び組に抜擢なのである。頭にくる。アルバイトの私などは、本職の人たちに比べれば1/3、1/2の金しかもらっていないのだ。それをアルバイトの私がどうして運び組で、本職三人がカマ組なのか、そこから話がわからなくなる。また私と一緒に運び組に入った本職の人がまた利己的、重い仕事はすべて私にやらせる。まー私が若いことが第一の原因だろうが。


ケンジ1971年昭和46年7月12日(月)

今日は土建屋は休み、また明日は行こうと思うのだが、どうも給料の値が千五百円とか千八百円とかはっきりしない。もちろん私は千八百円はもらいたい。まーどっちにしても明日、明後日あたりには締切になるのでハッキリするだろうが、もし聞けたら明日にでもさっそくハッキリ聞こうと思う。

また今日は劇団ひまわりから、やっとのことで通知が来た。ずいぶん長かった。何しろ締め切りが6月15日だったのだから。それによると、第一次審査に合格したから7月18日に来い、というのだ。今度は面接試験らしい。まー行くだけ行ってみようと思うのだが、審査料三千円ということだ。


ヒロト2022年令和4年2月22日(火)

この頃俺は、公務員生活も慣れてきて、服装も背広を脱ぎ、また高校時代に戻ったようなGパンとTシャツ姿になっていた。社会人、ましてや公務員なんてものは、決まってネズミ色の背広を着なくてはいけないように思っていたけど、この事務所にきてみたら大違い。若い人が多いせいか、ラフな格好をしている人も多く、でも紺色の事務服を羽織れば、とりあえず事務員に見える、気楽なもの。背広を着ているのは、係長と所長、そして一部のベテランぐらい。

仕事も覚えてしまえば楽なもの、納税係になった俺は、受け付け窓口では納付書をチラッと確認して、丸いゴム印をポンポンと打ち、銀行の出張窓口に回ってもらう。自分の机では、その日の納付済みの書類の集計を加算機でガチャガチャやる。それこそ、サインコサイン微分積分何にもいらない。

給料は安かったけど、税金を扱っているというので税務手当てというのが有ったり、たまに東京駅近くの都庁に行くと出張手当てが付いたり、なんだかんだまあまあの手取りにはなった。休みも年休20日間、繰り越しもあり、極端な話、一年間休まなければ次の年は40日有給で休むことができる。

でも俺は、一年目からその20日間を目一杯使って、夏は海、冬はスキーと、おもいっきり楽しんだよ。

そんなお気楽な稼業を、4年後には手放すことになるんだけど、その話はまたの機会。

あっ、そうそう、この間亡くなった石原慎太郎さんが都知事の時、俺はもう公務員ではなかったけど、現役公務員だった姉が、いろいろ厳しくなって働きづらくなったとこぼしていたっけ。

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