NO15/運転免許2

ケンジ1971年昭和46年5月27日(木)

今日も、どんより曇った空の下を教習所へ向かった。予約になってから待合室はさほど混んでいない。それでも、コミネ、ヤジらのいつもの連中にも会え、今日仮免を受けるというウツキさんとも会った。しかしあいにく、その仮免には落ちてしまったということだ。彼女は確か、これが仮免への二度目の挑戦であったと思う。なんでも脱輪をしてそのまま行ってしまったのだと言う。脱輪をしてそのまま行くと、その他がいくら良くてももうだめなのだそうだ。

さて、その仮免に明日はこの私が挑戦するのだ。私はこういうことになると、すぐドキがムネムネしてきてしまう。まったく小心者でしょうがない。しかしまぁー全力を出し、人事を尽くして天命を待つの心境でいこうと思う。私の気をつけるべきところは、進路変更の時バックミラーを見る事、止まった時必ずローに戻す事、バックする時は必ず安全確認をする事である。もし明日、この3つが上手くいけば、私の夢は開かれるだろう。以上。


ケンジ1971年昭和46年5月28日(金)

さてさて今日はこの私が仮免検定だったわけだが、やはり、いやいや、予想に反してだめだった。そして今日もウツキさんと一緒になって、彼女も今日仮検だったのだが、とうとう三回目で受かったとか。私は何となく一人取り残された感じでまったくやな気分、正に脱力感。検定が済んで、合否の発表されるまで、私はいつもの落ち着きを失って、ただ心が走り、瞑想にふけっていた。私たちが受けた試験官が待合室にやって来た。しかし呼んだのは一名だけ、もちろんそれは私ではなかった。そして五分ぐらいしてから今度は私たち三人が呼ばれた。落ちである。私の悪かったのはごくごくばかばかしいところで、サードに入れるべきところをセカンドで走ったり、変なところでエンストしたり、これまたなんでもないところで安全確認を怠ったりの、まるでくだらん失敗であった。


1971年昭和46年5月29日(土)

ヤッタゼ!フン、仮免検定なんてーなー、受かってみれば何でもない。簡単なものよー、とはいっても、今日は昨日より緊張していた。普通の人は二回目ぐらいが一番ゆったりとできるらしいが、どうも私の場合は他人と異なるようだ。内容は私としては昨日とほとんど変わらない、いやむしろ昨日の方が良かったと思うくらいであったが、どういうわけか受かったのである。ミスの方も昨日とはまったく違うミスで、今日はエンジンブレーキをかけずに早い速度からのクラッチ切断という、一種の悪癖的無意識ミスをしてしまった。私は明後日小金井へ本免を受けに行こうと思っているのだが、今日のような調子ではダメだと思う。しかし、意識して注意してやればきっと大丈夫だろう。それだけの度胸はこの二回の仮免テストで十分ついた。あとは運である。しかし、何となくすぐ受かるような気持ちもしないでもない。まぁー構造の勉強をして、明後日は張り切って行こうと思う。


ヒロト2022年令和4年2月20日(日)

ケンジ、今からでも遅くない。考え直してくれ。せっかく仮免取れたんだから、今度はしっかり路上教習をたくさん受けて、卒業検定も、何回かになってもしっかり見てもらって、余裕を持って小金井の試験場に行ってください。それが、自分の為にも、日本の交通事情の為にも、是非ともお願いしたい。


1971年昭和46年5月31日(月)

ヒッヒッヒッ!よかったよかった。視力だけはまぁーなんとかかろうじて、文句言われ言われ受かった。まずは一息。あとは私自身の努力でどうにでもなる学科と実施だけだ。しかしそっちの方は今日中には受けられなかった。わざわざ120円もかけて小金井まで行ったのだが、8時半までに眼の検査を終わらないと今日中には試験が受けられないのだということである。そこで私はまた明日行くことになってしまった。しかし、変なもので、昨日までは、「なーに教習所で27時間も乗って、その上仮検定を二回も受け合格しているのだから、本免の実施試験ぐらい、三回も行けば受かるさ」くらいの気持ちで落ち着いていたのだが。さてさて、今日しばらく振りで、朝早く学生さんたちのたくさん乗る混む電車に乗って試験場まで行ってみると、おや不思議、急に不安がこみ上げてきた。むしろ試験を受ける当日は、不安よりも楽天的に気軽に受けた方が良いのだろうが、まぁー困ったものだ。それに明日は教習所の方の予約もしてあるし、「まぁー落っこったら教習所へ気分直しに一時間乗りに行って、また明後日受けよう」ぐらいの気軽な気持ちで試験に望もうと思う。


ケンジ1971年昭和46年6月1日(火)

残念でした。やはり一発で免許を取るというのは無理だったか。

試験内容の出来ときた日にゃー、もう最低、何せ、まず出発からてこずる。無駄ぶかし、半クラッチがわからず急発進、ガクガク、最初から胸くそ悪いことしきり。それに私の乗った試験車の試験官もこれまたひときわ無愛想だった。それも加算されて私の調子は上がらずじまい。坂道発進では何と1メートルもバックしてしまった。


ケンジ1971年昭和46年6月2日(水)

残念でした。再度オッコチ。しかし昨日とは段違い。今日は最後まで一応乗っかってこられた。失敗は、まずエンスト(3、4回)、S字ハンドル(小)、ムラブカシ1回、縦列での失敗、その他、というところでまずまずの出来。また明日挑戦するつもりなのだが、今日の調子でやれば、かなりいい線までいけるという自信がついた。


ケンジ1971年昭和46年6月3日(木)

あー、、、、あああ、とー、まったくまたオッコチヨー、せっかく昨日はいい線いってたのに、また今日は一昨日に逆戻り、もっとも途中までは素晴らしく出来たのだが、方向転換で大失敗、相当ガックリというより頭に来た。また明日の申し込みもやって来たが、明日で4回目なので申請書の有効回数が切れてしまい、また眼からやり直さなければならない。だから明日こそは合格しなくてはいけないのだ。


ケンジ1971年昭和46年6月4日(金)

今日も方向変換でオジャン。昨日、教習所でやった練習のかいなく、惜しくも失敗。私の前の人は、一度縁石に乗り上げたのだが、試験官がそのまま行ってよいという指示を出して、そのまま終わりまで乗って見事合格した。私もそれでいくらか自信がついた。今日の試験官のような人もいるのだとわかっただけでも心が軽くなった。と同時に、今日の失敗が惜しまれてならなかった。あのままスムーズに行っていれば、今日の試験官なら絶対に合格していたと思う。だから、帰りの電車で拝島あたりに来るまでの落胆ぶりもひとしおであった。今日ほど悔しく、残念で、自分がいやになったこともまれであった。

しかし時というものは万年一世の妙薬である。何と頼もしいやつよ、どんなつらいことでも、悔しいことでも、時は解決してくれる。時に不可能の文字はない。もし誰かが自殺したくなったら、今しばらく思いとどまれ、そうすれば、時が必ず解決してくれる。ただその人は、いっとき辛抱すればいいのだ。それでは6月7日、五たび挑戦。


ヒロト2022年令和4年2月20日(日)その2

苦難というものは、人を成長させるものだね。ケンジ、素晴らしい言葉、ありがとう。悟りの日も近い。

合格の日は近いの?



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