NO9/M嬢とモリヤ君の誕生日

ケンジ1970年昭和45年10月26日(月)

今日は五時間目の日本史の時、英語をやった。しかし私はそれを知らなかったので、英語の教科書もノートも持ってこなかった。

というのは、それを連絡した書記のやろうがまったくのバカヤロー、と言ってもやろうじゃなくて女だが、Mとかいうバカヤローだ。

まったく、連絡するのはいい、後ろの黒板に書くのもいいだろう。しかし時間表というのはだいたい縦に書くもんだろう?それをあいつめ、横に書きやがんのよー、まったく頭にきたよーーー。だもんだからこちとら、横などふりむきもせず、縦ばかり見てたじゃんかよー。おかげで世界史を代わりにやるもんだとばかり思っててよーぉ、おじゃんよ。まったく頭に来た。

さて、ところで少々文章が荒っぽくなったようだが、なぜ日本史の時間がなくなったのか言っておこう。只今二年の修学旅行中で、日本史の先生のみでなく現国の先生も、付き添い役で学校に来ておられないからなのである。

あーあーあーおーおーおーまったくどうなっちゃってんのまったく、おぼえておきなさいよ、おぼえてーーー。


ヒロト2022年令和4年2月9日(水)

ケンジ君、だいぶお怒りのようですな。

実は、あなたのお怒りのお相手のM嬢は、俺が、高校生活3年間ずっと想い続けた愛しの君なのよ。完全片想いだけどね。

このお方はのちに、スチュワーデス、今で言うキャビンアテンダントになって、そして結婚してハワイに在住したという、いわゆる横文字体質なのだと思うよ。許してやってチョーダイ。

今は、時間表は横書きが当たり前だけど、昭和45年は縦書きだったんだね。

それにしても大変な怒りようだけど、ということは裏返しで、本当は好きだったんじゃないの?キレイな子だったからなあ。

どう?図星?!



ケンジ1970年昭和45年12月5日(土)

今日は帰りに、ウチノ、アカマ、ハラシマ、モリヤ、アライらとともに校門を出た。いつものように雑談に花を咲かせながら、気持ち良く立川駅北口に向かった。しかし途中でモリヤが、「今日はどこかで食ってこうか?僕の知っているところへ行こう。」と言ったので、私も土曜日でもあるし、お昼を食べて行こうと思っていた一人であるから、ごく自然に、「ああそれじゃー僕も食べて行くかな。」てな調子で同意した。ところがハラシマとアライ君は、家で食べるからと言って途中で別れた。私は行く先も知らず、モリヤらについて行った。すると、北口のとある小さな高級レストラン風のウィンドウの前まで来た時、モリヤが「ここだョ」と言った。私は一瞬驚いた。どうやら今日はモリヤの誕生日で、モリヤがウチノとアカマにごちそうすることになっていたらしい。

それも知らずに、どうせラーメンの一杯でもスルスルっと食ってくるんだろうぐらいのつもりでいたのだ。次の瞬間、「栗原はどうする?」とモリヤが尋ねてきた。私が躊躇していると、「僕三人分しかお金持ってこなかったんだ。だから食べるんなら二百円ぐらい出して、残りは僕がもつから」と言ってきた。私もどうせ、、、と思って一緒に食べることにした。

さーそこです。この店の一見高級らしさ、何しろコーク1本80円ということだった。

私は慣れない手つきでフォークとナイフを持って、ハンバーグライスなるものを食べた。

380円であった。本当に肩のこる店であった。食べていてもちっとも落ち着けなかった。まったくああいうところは、私などの貧乏性の人が入るものではないな、と痛感した。


ケンジ1970年昭和45年12月6日(日)

さて、ちょっと昨日の話の続きを書いておく。

、、、てなわけで、私は180円オゴッてもらったということになったわけだが、後になって考えてみると、ずいぶん傲慢なことをしてしまったな、といささか自分に嫌悪感をいだいてしまった次第であった。それと同時に、今までのモリヤやウチノ、アカマに対していた視野と、まるっきり違うものを見いだしたような感じにもなった。その第一には、私はあんな豪勢な所には今まで入ったこともなかったからだと思う。私はあの席で、すっかり自分を喪失してしまって、軽くなってしまったような、いやに自分が卑下されているような感じになった。これはあくまで私の独断的錯覚であろうが。そして彼らから、私の心をすっかり見透かされているような感じになった。重々しく振る舞おうと思っても、ちっとも思うようにならない。私は本当に自分に対して幻滅を感じてしまったようだった。

しかし今はもう違う!

人に圧倒されるなかれ!


ケンジ1970年昭和45年12月7日(月)

さて、いよいよ期末テストまであと一週間。それが終わればもうすぐに冬休み、そして正月、三学期、入試、と、とんとんと進むわけだが、なんとなく時の経つのが速く感じてならない。こう思うところは、すでに年とった証拠なのだろうか。あーやだやだ、もう年はとりたくない。どうして人間は年なんかとるのだろう。とるのは試験の点数くらいで十分なのに。まぁーこれが大自然のしきたりだろうから、逆らおうと思ってもやぼな話であろう。

さて今日は、モリヤに200円を返された。私も一度やった金を受けとるのも良心に会わせる顔がないので、それを拒否したのだが、結局受け取ってしまった。

「僕、家に帰っておかあさんに怒られちゃったんだ、友達に差別をつけるなって。」と、モリヤは言った。

本来なら、何も知らずに軽率に、のこのこついて行った私が悪いのだから、200円ぐらい払うのは当然のことであるところだが、やっぱり持つべきものは友である。

これで、スッーーーキリしたゾーーー。



ヒロト2022年令和4年2月11日(木)

この日記3連作はいろいろな側面から見られて、とても興味深いね。

まず、貨幣価値、自分が高校時代、バスが20円、タバコ(ハイライト)が80円、合計100円だったというのをやけにはっきり覚えている。吸ってました。すいません。

タバコはともかく、バスは今だいたい基本料金200円、10倍だね。だからといって380円のハンバーグライスが、今3800円ということはないと思う。 ちょっと調べてみたら、昭和45年のラーメンの平均価格が96円なんだって。現在は600円として、約6倍。

ハンバーグライス380円の6倍だから2280円、やっぱりモリヤ君行き付けのレストランは高級だったことがわかった。

ちなみに、コカ・コーラは一本35円、当時は瓶入りで、飲んだあと瓶を返すと10円返してくれるシステムだったから、そのレストランは25円のものを80円で出していたことになる。ケンジが驚いた訳だ。

次にモリヤ関係。誕生日の人が奢るってあんまり聞いたことがない。家でのお誕生日会でお友達を招待する感覚かな。ってことは、ウチノ、アカマはプレゼントを用意してるの?

そこで推察、この三人は小さい時からお友達で、お互いのお誕生日はそれぞれのお家で、お誕生日会をやっていた。モリヤは、「僕のおかあさんが、」って言うぐらい素直に育ってるいい子、きっとウチノもアカマもそれぞれにいい子。でも、いくらいい子たちでも、高校生になってお家でお誕生日会は恥ずかしい。そこで親抜きで、自分たちで外の店で誕生日会をするようになった。(微妙に『お』は取れている。)でも母親は、「お家でやらないのは寂しいけど、せめてお金は出させてね。」

プレゼントも、やめようよとなったけど、誕生日の人が奢る誕生日会は続いている。ってどうかな?当たってるかな?

そこで、他の友達はそのことを知っていてそれとなく帰って行ったけど、何も知らないケンジは、100円のラーメンでも食べるつもりで同行した。いい子のモリヤは困った。お前は帰れなんて言えるわけはない。

(そうだ!ケンジにだけ200円払ってって言えば、帰るかもしれない。)

でもケンジは、200円を払いました。

いい子のモリヤは、そのままのことをおかあさんに話しました。

そこで、いい子のモリヤのおかあさんは、

「友達に差別をつけてはいけません。」

と、当日多めに2000円渡していたにもかかわらず、200円、モリヤに手渡したのでした。という想像です。

そして次は、かなり真面目な感想。ケンジの日記文を繰り返すよ。

『私はあの席で、すっかり自分を喪失してしまって、軽くなってしまったような、いやに自分が卑下されているような感じになった。これはあくまで私の独断的錯覚であろうが。

そして彼らから、私の心をすっかり見透かされているような感じになった。重々しく振る舞おうと思っても、ちっとも思うようにならない。私は本当に自分に対して幻滅を感じた。』

何か、太宰治を読んでいるような感覚になったよ。自己観察、自己表現、素晴らしいと思う。ところでひとつ、思い出したことがある。

小さい頃、おやつに、小麦粉を水に溶いて刻みネギを入れ、フライパンで丸く焼き、醤油に砂糖を混ぜたものをかけて、お好み焼だか、ホットケーキもどきだか、よくわからないものを母親が作ってくれた。妹とふたりで、ナイフとフォークを使い、気取って食べることが妙に嬉しかったなあ。

たまに母親が奮発して、魚肉ソーセージの薄切りが入っている時もあった。

ビンボウくせぇー。

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