NO5/英会話と学園紛争

ケンジ1970年昭和45年6月25日(木)

今日は、3、4時間目の数字の授業が、先生がいなくて自習になったために2時間で学校を終えて帰ってきた。

五日市駅に電車が着いた。私はいつものことながら寝ぼけまなこでゆっくりと席を立ち、テクテクと駅の改札口から出て来た。そこで一瞬ハットした。五日市循環のバスが私の目の前をスーっと通りすぎるのである。アッと思ったが、どうせ10分も待てば次のバスが出るだろうと思い、停留所の時刻表を見るとしばらくないのである。あーあと思わずため息が出そうになりながら、我が家のある大久野方面にテクテクと歩き出した。

私の横を通る車は全て私を無視、おまけに排気ガスまでひっかけて行きやがる。私は途中から線路を歩いて帰ってきた。

「有害なのは、過ぎ去ってしまってもう取り返しのつかないことを、頭の中でいつまでもくよくよ思い悩むことと、排気ガスである。」


ヒロト2022年令和4年2月3日(木)

上手い!


ケンジ1970年昭和45年6月29日(月)

今日はいつもより早く日記を書いている。只今午後5時である。

というのは、今日は一つの大きなショックがあったからです。ショボン

それは、今日は6時間目の国語の時間が自習だったので、久しぶりに福生の耳鼻科へ行ったのである。いつものように福生駅からとことこと耳鼻科に向かって歩いていた。

すると私の20メートルぐらい前に、背はそれほど高くはないのだが、やけに足の毛深い人がスタスタと歩いているのである。そこまではいつも通りだった。だがその次の瞬間、その毛深い人が突然私に話しかけてきたのである。それも何と驚いたことに、日本人だとばかり思っていた人が英語で話しかけてきたのである。私はハッとした。

Can you speak English?まではよかった。

私もlittleと答えられた。

しかしその後、何やらちんぷんかんぷんな英語をずらずらーと並べてくるではありませんか。私はどうしよう!と思ったが、どうしてもわからない。一つぐらいわかる単語でもあるかと思ったが、知ってる単語は一つも私の耳に入って来なかった。

私はやむなく、I don'tknowと言った。そしたら向こうでもあきらめたらしく、会釈して去って行った。

私は帰りの電車の中でも、そのことがずっと悔やまれてならなかった。

ああ、英語を6年間やっている高校生としてまことに恥ずかしい。しかし、いつまでもくよくよしていても始まらない。何としてもこれからは、ちょっとくらい外人に話しかけられても二つ返事で答えられるようにしたい。


ヒロト2022年令和4年2月3日(木)

我が成長の地、国立は米軍基地のある立川市のとなり町。アメリカ人の住む米軍ハウスと呼ばれる、洒落た洋風の木造平屋建てがあちこちにありました。

小学校低学年のとある日、公園のブランコに揺られている、おそらく同じ年ぐらいの外人の女の子がいました。目が青くて、お人形さんみたいで、信じられないほどの可愛さです。

その時、ボクは(当時俺はボクと言っていた)近所のちょっとやんちゃな中学生のお兄ちゃんに教わった言葉を思い出しました。そのお兄ちゃんが言うには、この言葉を外人さんに言うと喜ぶぜってことでした。

ボクは、勇気をふるって明るく元気に大きな声で、そのお人形さんみたいな子に言いました。

「ハウ フール ユー アー」

お人形さんが、鬼のような顔になって、ボクを指差しながら怒っています。

何が何だかわからないけど、ボクは逃げました。

ウチに帰って、頭のいいボクの本当のお兄ちゃんにそのことを言うと、

「お前バカだなあ。」

と、意味を教えてくれました。

ケンジ、その時以来、俺も英語は怖いのだよ。

今やってるNHKの朝ドラ「カムカムエヴリバディ」みたいにはいきません。


ケンジ1970年昭和45年7月4日(土)

今日は土曜日であるにもかかわらず、午後1時から生徒総会ということであった。私はいつものことながら、「あんなつまらない総会なんかに付き合ってはいられない」と思って、4時間目が終わったらすぐ帰ろうと思った。しかしながらその時、「学校祭委員の人は化学室に集まってください」というアナウンスがあった。私は別に学校祭委員でも何でもないのだが、一応HR委員として学校祭のことに少しばかりタッチしていたので、仕方なく出席した。しかし、出席者が少なく、決めるべきことも決められず、説明だけして終わりだった。さて終わった、さあ帰ろうと思って、ちょっと教室へ行ってみると、数人の生徒が残っていた。「何、総会出るの?」と尋ねると、「さあどうしようかな、どうせ校門には先生が座り込んで帰れないから出ようかな」という答えが返ってきた。そう聞くと私も、「どうしようかなぁー」と迷った。しかし同時に、ようし、先生を口説き落として帰ってやろうという考えがこみ上げてきた。

そして、校門の方から愚痴を言いながら帰って来る生徒たちを横目に、私は昇降口で革靴に履き替えてさっそうと校門へ向かった。途中で、同じクラスの、ちょっと思想ズレしたような男のヨシノが、屋上から拡声器で、私に向かって、「どうして帰るの?」「君たちの生徒会じゃないか!」というような文句を呼びかけてきた。ここで私は、まず一発目、頭にカッときた。こういうのも何だが、ヨシノといえば、私がHR委員の立場から見れば、まったくのナンセンスな野郎だ。総会とか集会とかいう大きな公の場では、一応理屈っぽいことを言うのだ。私もなるほどと思わされる時もある。しかし、いざHRに入ったら、その大きな公の場での言動とまったく矛盾した行動をとるのだ。HRの時間などは、たいていいつも、と言っていい程出席していない。たとえ出ていても、集会などの時のような発言も無ければ、HRを上手く運営していこうともせず、ペチャクチャとおしゃべりをしているのである。そういう観点から見ると、ヨシノの集会などの時に言っていることが、はなはだおかしく思えてくる。

「人間疎外」「無関心、無気力」「話し合い」などというような意味のことを、それに関連付けて長々と話し始める。ところがその本人が、生徒会の一番の要ともいうべくHRでは、まったく無関心なのである。そんな奴に私を止める資格など有りはしないと思い、ヨシノは無視して通りすぎた。

さていよいよ校門。案の定体育科のサカモト先生と、もう一人知らない先生がいた。私は「こんな、まだHRでも話し合っていない議事を、急に総会にかけてもナンセンスだ」と口火を切った。続けて「第一、あと4日で期末テストじゃないですか。そんなまだ下から吟味のできていない状態で、ましてや期末テストの切迫した今日、そんな総会をやってもナンセンスである」と述べた。

「しかし、一応生徒から発議され、それで総会をやる事になったのだから出席すべきだ」と先生が言ってきた。しかし、発議されたといっても、それはつい昨日、総会を11日にやるか明日やるかとのアンケートを取ってのみであり、あとは学校側と生徒会本部で決めた事である。もちろん、アンケートを取ったのだから決まった事には従うべきだ。しかし私はここで、高校3年生という勉強の一番大事な時期に立たされているのと同時に、私の判断で、今日の総会は無意味なものになるであろうと見たのである。よって、どうしても時間の無駄としか思えない総会には出たくないのである。すると先生は、

「それでは総会に一応出てみて、『この総会はこうこうこうで無意味だから、もう一度検討するべきだ』と言ってから帰ればいいじゃないか」と言ってきた。これには私もなるほどと思った。しかし私はどうしても、今日の総会は上手くいかないことは見え透いているのに、時間の無駄を承知で出ることが納得いかなかった。同時にここまでくると、男のメンツというものも、私が引くのを邪魔した。そんなことをしているうちに、とうとう校門で、一時間以上も先生と討論してしまった。今から考えれば、総会に出ていても同じであったかのようにも思える。

しかし、それからしばらくして、昇降口の方からちらほらと生徒がこっちへ向かって来出した。そしてそのうちの一人が言うことには、総会は流会、急遽政治集会に変わったということであった。そいつも、「あいつらはきたない」と愚痴っていた。さあそこで、私と先生との一時間半におよぶ長い討論も幕を閉じた。先生は、「それじゃー帰っていいよ」と言って職員室へ戻って行くようであった。私もさっさと帰って来た。



ヒロト2022年令和4年2月4日

ケンジ、頑張ったなぁ。言いたいことは先生にでもはっきり言うんだなぁ、知らなかった。

あの頃というかその頃というか、いわゆる学園紛争が激しくなってきたよね。前の年の1969年に東大紛争があって、高校でも徐々にいろいろな学校で騒がしくなってきた。

我が北多摩高校でも、第二校舎がバリケード封鎖されて、ヨシノたち数人がヘルメット被ってタオルで覆面して、立て込もったりしてたね。あれはいったい何だったんだろう。

体制側である学校と交渉を重ね、結局勝ち取ったのは、服装の自由。他は何かあったのかな、覚えてない。

俺は、TシャツGパンでもいいってのは嬉しかった。ケンジは確か制服で通したよね。やっぱり頑固だったんだ。女子も結構制服派がいたね。今みたいにスカート短くして、可愛いかったなぁ。どうしてるかなぁ、会いたいなぁ。でも考えてみると、同級生って同じ年だよね、どうしようかなぁ。

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