第11話 帰郷


 蓮太郎はカンナの柩と共に数日ぶりの故郷の町に戻った。


 久しぶりに会うカンナの両親は、どういう説明を受けたのかわからないが、蓮太郎にありがとう、ありがとうと繰り返した。

「最後まで蓮ちゃんがそばにいてくれたんなら、カンナもきっと安心だったろう」

 カンナの父が泣きながら蓮太郎の手を握る。蓮太郎は何と言っていいかわからず、黙っていた。


 火葬場へ向かう。

 荼毘に伏す直前、目の前で泣くカンナの両親が、何だか遠く見える。

 蓮太郎は遺骨は見なかった。カンナが恥ずかしがるような気がして。


 次は告別式の会場へ移動する。

 カンナがいないこの町は、こんなに色褪せて見えるのか。

 蓮太郎は窓の外を眺めながら思った。

 告別式の会場で、蓮太郎は自分の両親に半年ぶりくらいに会った。そして、自分がまだ普段着であることにやっと気付かされた。

 両親が念のために持って来てくれていた兄の喪服を借りて着替えながら、蓮太郎はカンナを思った。


 世界は、こんなものだっただろうか。こんな世界をカンナは自分と引き換えに守ったのか。

 こんなに小さな町を。愛する娘を失った本当の理由を知ろうともしない、悲しむ気持ちより服装を気にするような、そんな人々の生活を。

 カンナがいないのに、俺の気持ちはどうにかなりそうなのに、こんなにも変わらないでいてくれる。みんなが少しずつみんなを思いやりながら精一杯生きている。

 これが、カンナの守った、俺たちの生きていた世界。


 告別式の会場に作られた祭壇は白を基調とはしていたものの、百合や薔薇も使った華やかなものだった。きっとカンナの両親が希望したのだろう。

 蓮太郎の作った花も隅の方に飾ってもらえていた。華やか過ぎるかと思ったが、他の花も供花にしては華やかな色合いだったので、うまく調和が取れたようだ。

 

 カンナらしい元気な花々に囲まれて、写真の中のカンナが一番元気そうに笑っている。

 蓮太郎はぼんやりと集まった人々を眺めた。ずっと地元にいるので、蓮太郎の知った顔もいくつもある。みんなカンナの死を悲しんでいる。

 そして、みんなその悲しみを持ったまま、いつも通りの生活に戻っていくのだ。


 この人々の中になら、まだカンナは生きているのか。


 それなら、カンナに守ってもらったのにもうどこにも戻れない、もうこのまま死にたい俺は、ただ生きるより世界を守るふりをして死にに行けばいいのか。


 そうしたらカンナに胸を張って会いに行けるのだろうか。


 この町で、蓮太郎とカンナが生きてきた町ではカンナの葬儀が終わった。しかし、最後に2人で過ごしたあの町なら、カンナはまだ生きているのではないだろうか。

 本当にそう思った訳ではない。蓮太郎だってわかっている。カンナが死んでいくところを見ていたのは自分だ。

 それでも、もしかしたら。あの、魔女のいる不思議な町なら。


 蓮太郎は葬儀が終わるとおとなしくあの町へ帰る車の前に戻ってきた。

「魔女に会います」

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