第8話 サイレンが鳴った
聞いたこともないサイレンで目が覚めた。
「起きていますか。敵襲です。急いで支度してください。進む方向は光で案内していますので、そちらに身分証をかざしてください」
突然点いたテレビに敵襲と表示され、佐々木の声がした。
蓮太郎はカンナを起こした。
「カンナ、敵だって」
「ふあ?」
蓮太郎は素直に反応してしまったことをすぐ後悔した。カンナを起こさず、少しでも遅く行けば、カンナはデアクストスに乗らなくてすむかもしれない。
しかしカンナはサイレンに気付くと出番ね!と張り切った。
「蓮太郎、急ぐわよ!」
「カンナ!待って」
テレビからまた声が聞こえる。
「中村さん、よろしくお願いします。廊下に出たら光にカードをあててください」
「わかりました!任せて!」
「カンナ、待って!」
蓮太郎はカンナの腕を掴んだ。
「何よ、急ぎなさいよ」
「待って」
蓮太郎はカンナを抱きしめた。カンナのつま先が浮いた。カンナはもがいたが、少しもふりほどけない。
カンナは驚いた。蓮太郎はいつでも自分の思い通りになると思っていた。
いつのまにこんなに力が強くなったんだろう。
こんなに大きくなったんだろう。
カンナは慌てた。
「ちょっと、今そんな場合じゃないでしょ!」
「だって、カンナ、キス」
「バカ!」
何とか腕を自由にしてビンタをかますと、さすがに離れた。
「帰ってきたらいっぱいしていいから!」
「カンナ、ほんと?」
「だから早く行きましょう!」
カンナは廊下に飛び出した。
サイレンは不気味に鳴り続いている。
光、とカンナが辺りを見回すと、今まで壁だと思っていたところに丸く光るところがあり、身分証を近付けると、壁全体が開いた。
それはエレベーターになっているようだった。2人が乗り込むとすぐに扉が閉まり、エレベーターが下へ向かって動き出した。
サイレンの音がここにも響いている。
「ちょっと怖い」
カンナが蓮太郎の手を握った。蓮太郎はカンナを心配させないように強く握り返した。カンナが蓮太郎を見上げて何とか微笑む。
エレベーターが停止し、扉が開いた。
そこには巨大なロボットが、デアクストスがいた。
「大きい……」
カンナは思わず呟いた。
蓮太郎はたじろいだ。
これが、魔力で動くのか。
見上げるほどの大きさ。人1人の力で動くとは到底思えない、重量感のあるくすんだ灰色のそれは、まるで鎧を着た騎士のようだった。同じ色の斧と盾を持って立っていると、神殿の前で神を護る巨大な石像に見える。
「急いでください。戦闘は始まっています。乱戦の中に飛び入ることになっては危険です」
「行こう、蓮太郎!」
佐々木の声がする。カンナは走り出した。
蓮太郎はカンナの後ろ姿を見た。
あんなに元気なんだ。魔力が命の大きさだとしたら、カンナはきっと3人分くらい持っている。
きっと大丈夫だ。
蓮太郎は覚悟を決めた。
シミュレータと同じ椅子。違うのは、後ろにカンナが乗っていることだ。
灰色のデアクストスは輸送機に懸架され、戦場へ向かっている。佐々木の声がする。
「じき到着します。中村さん、戦闘は怖いかもしれません。でも、どうかしっかり意識を保ってください。あなたが意識を保っている間だけ、デアクストスと接続できてデアクストスは動けるのです」
カンナは緊張した声でわかりました、と答えた。
「いいですか、怖くなったら雨野さんのことだけ思ってください。きっとその気持ちがあなたの意識をつなぐはずです。雨野さん、私が指示を出します。あなたの大切な魔女はあなたのすぐ後ろです。しっかり守ってください」
「お願いね、蓮太郎。じゃ、行くわよ!」
カンナが教えられた通りに椅子の肘掛け部分の先端についたレバーを握り込んだ。手首がすぐに固定される。これは戦闘終了まではずれないそうだ。
カンナは手のひらに意識を集中した。
感覚が吸い取られるような錯覚。
まるで自分が溶けていくようだ。カンナがデアクストスに染み渡っていく。
カンナが広がっていくごとに、デアクストスの表面が灰色から変化して、黒く艶めき始める。
ああ、私がデアクストスになるんだ。
感覚が広がる。漆黒のデアクストスの指がぴくりと動いた。
「中村カンナ機、十秒後懸架拘束解除します。出撃してください。5、4、3、2、1」
佐々木の声が、体の外と中から聞こえるような気がする。人間の体も確かにあるけれど、今カンナはデアクストスだった。ふたつあるのに、ひとつの体。不思議だ。
そして模擬演習機の時と同じように、いや、それよりもっとはっきりと感じる。
蓮太郎が私の体の中にいる。私の中で動き、考え、生きている。
私の愛しい、大切な人。
さあ蓮太郎、私はどうするの。
「出撃!」
デアクストスの拘束が解けた。
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