おまけ➀

 最初この話が1話になる予定だったんですけど初っ端から主人公苦しんでるところ見たくないなぁと思ってやめました(笑)

 けれど表に出さないのも勿体無いなと思いまして……!読んで頂けたらより一層この物語を楽しめるかと思います。

(時系列でいうと第一話のちょっと前?ぐらいです)


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「お前ら! 中学の復習になるが世界人口の中で異生人の割合はどれぐらいだったか覚えているかー?! そもそも異生人のなり始めはー」

 教卓で歴史の先生がそう語る。歴史の話は長くてややこしいし何より眠い。

 鉛筆を滑らせる音や紙をめくる音がきこえる教室で、右目に白の四角い眼帯を身につけた青年。黒山瑞貴は頬をつき窓から緑色に染まった桜を眺めていた。


 もう6月半ばにもなるというのに瑞貴には学校に友達が一人も居らず、さらにクラスメイトとは必要最低限の会話しかしていない。    

 いじめられている、という訳ではないが瑞貴は人に話しかけることができない。

 何故なら他人との意思疎通が上手にできない、いわゆるコミュ障だから─



 

 遡ること3ヶ月前、中学の終わり父親の転勤が決まったため生まれ育った東北から関東へと引っ越すことになった。

 とある事情により中3の2学期から不登校になっていた俺は、顔見知りが多いであろう地元の高校へ行きたくなかったので内心喜んだ。

 引きこもっていたとはいえ家ではきちんと勉強をし、定期試験がある日は学校に登校して(別室ではあるが)テストを受けいい成績を出していたので、苦労することなく余裕で関東の少し頭いいS高校に合格し通えることになった。


 灰色のズボンに白いブラウス、紺色のネクタイに青がほんの少し混じったような黒のブレザーを羽織って玄関の鏡を見る。

(…少し目立つな)

 黒髪に光のない真っ黒な目と真っ白な肌を持つ俺はただでさえ特徴的な顔だねと言われることが多いのに、それに加えて白の眼帯を右目につけてしまったら入学初日から注目の的になってしまうだろう。

 黒の眼帯にしようかと一瞬考えたが、少し前カフェに行った際小学生に

「あ! あいつがいる!! だ、出し焼き卵じゃなくて…」

「伊達政宗じゃね?」

 と目の前で言われた記憶がある。やめておこう。


 バスに揺られS高校に着くと、玄関口前にはたくさんの新入生と思われる学生達が…いなかった。(あれ?今の時間って8時半弱ぐらいだよな…)

 スマホを開くと画面に8:29と映し出された。となると…急いで鞄から入学式日程のお知らせの紙を出す。


8:30 教室集合

8:40 入学式開始〜

  開式の言葉

  新入生入場

  …

※20分程度のホームルームがありますので、ゆとりをもって来るようお願いします。


(…わかりにくっ!!! 小さな文字で書くなよ、、せめて先頭もしくは赤字にしろっっ! )

 とは言っても、そもそもきちんと確認しなかった自分が悪いのでさっさと紙を鞄に戻し、玄関口前に貼られたクラス表に目をやる。1-1の14番。


 玄関口でスクールシューズに履き替え階段を上り2階の廊下を歩く。急いで教室に向かう途中、スーツを着た大人とすれ違う。


「おはよう─って黒山、初日早々遅刻か?」

「っあ、す、すみません」


 まぁ頑張れよと背中をバシッと叩かれた。(入学式に頑張るとかあるのか…? 友達作りとか…? てかなんで俺の名前…あっ先生か)


そんなことを思いつつ急いで教室に入ると、予想打にしない光景が広がっていた。

 

 もう既に友達グループができていたのだ。


 先生がいないことをいいことにそれぞれ友達グループで輪になって談笑している。

 こんな短時間でできるものなのか…?クラスメイトの楽しそうな会話が飛び交う教室で俺は目をパチパチさせた。

 中学生の頃の入学初日はみんな静かだった記憶があるから、高校も最初はそんなもんだろうと思い込んでいた。しかし現実は違った。

 ドアの前で呆然と立ちすくしていると、クラスの視線が一瞬にして俺に注がれた。

 きゃー!と女子の騒ぐ声が聞こえる。

 俺は今すぐにここから立ち去りたい衝動を抑え自分の席に駆け足で向かい腰を下ろした。

 

 少し前まで不登校だった俺は、社会訓練を兼ねて平日の昼間一人で外食に行ったりカフェでくつろいだりしていた。なので眼帯をつけている俺を奇異な目で見てくる人にも慣れたと思ったが、そうではなかったらしい。


「──くん」


(もうみんな自己紹介とか終わったのだろうか、そういえばさっきひとりぼっちで席座ってる子一人もいなかったよな…もしかして俺詰んでね…?)


「───黒山君、」


 俺を呼ぶ声が聞こえる。きっと陰口を言われてるのだろう…昔医者に『君は思い込みが激しい癖があるから気をつけよう』と言われたことがあるのを思い出した。でも我ながら初日から遅刻&ぼっち&眼帯はちょっと浮いてると思う、、いやかなり浮いてるな、陰口言われるのも当然かもしれない…。


「黒山君!…黒山くんだよね?ぼーっとしてるけど大丈夫?」


ん?話しかけられてる?


「あっ…ごめん…」


 恐る恐る顔を右に向ける。そこにはふわふわとした茶髪の長い髪に大きな焦げ茶色の目をした女子がいた。上目遣いで俺のことを見つめる。


 …え、な、なんであいつが…


 寒気がし、思わず目を背く。


「顔色悪いよ…!?保健室連れて行こっか?式まで時間あるし」


大丈夫かと言わんばかりに肩に手を添えてくる。

 その瞬間右手にカッターの刃をギラつかせ瞳孔を大きくした"彼女"が頭の中で映し出される──


 …やばい、胸に何かがせり上がってくる。

息が吐けない、


「…っ、…うっ…はぁっ」


やばいやばいやばい、てか何であいつが? ここに…?


「大丈夫!!? 誰か先生呼んでっ!!」

「はぁっはぁっ…だ、だいじょ…うぅっ

はぁっ、」


 苦しい。過呼吸になったのはいつぶりだろう、胸に手を当てて深呼吸する。


 「…っすぅ…はぁ…」


 (この人は"彼女"なんかじゃない、声は勿論よく見たら顔も違うし何より優しいじゃないか…)

 そう自分に言い聞かせるも体はいう事聞かない。


 ─えっ何事?? 

 

 ─やばくね!?

 

 ─もしかして演技? 

 

 ─そんな事ないでしょ最低 


 教室という名の狭い檻の中でそう呟く声が耳に入る。周りにはいつの間にか人の群れができていた。特にスカートを履いた女子達が、全員"彼女"に見えてきた。

 

 ここにいたら駄目だ。介抱しようとする手をはねのけ、どくどくと波打つ心臓を抑え、過呼吸でぜーぜーになりながらも駆け足で教室を出た。 


「おい、そこの…黒いやつ! 保健室ならここのすぐ下だぞ!」


 黒いやつと呼ばれたのは腑に落ちないが、そこの声デカいやつ教えてくれてありがとう。

 

 廊下をダッシュで曲がり、階段を下りようと足を一歩手前に踏み出したまさにその瞬間、バランスを崩し体が前のめりになる。


 (あ、俺死ぬのかな─)


 目を瞑ったその時だった。


 ???「うっうわぁッ!!」





…いい匂いがする。まるでコスモス畑に身を投げだしたかのような……そんな香りに包まれる。


「ちょっ…」


 耳元で音がしてふと顔を上げる。


 そこには造作の美しい、見るからに日本人でない顔があった。

 夏の日差しに照らされたみたいな白銀に近い金髪に、透けるような白い肌。

吸い込まれそうなほど美麗なダイヤモンドの瞳には、大きく目を見開いた陰気な俺が映っていた。


「そろそろ体離していい……?」

 

 腰に巻かれた腕がするりと抜けていく。


 「あっっ…す、すみません!!!」


 階段から落ちる俺を彼は咄嗟に受け止めてくれたのだろう。壁ドンみたいになってしまった手を素早く離し、慌てて後ずさる。


「さっきはごめ…ゅひゅ…あれっなんで俺まだっ」


 最悪だ…過呼吸が全然治まらない。むしろさっきの衝撃なのかますます悪化している。


「…喋らないで」


 そう言われたのと同時に彼の造作のいい顔面が目の前に立ち現れる。

(もしかしてキスで止めようとしてる…!?)


 薄くて形のいい唇。避けるように顔を横に向いたが、彼の両手でほっぺを挟まれ正面を向かせられる。


「…そ…そんなこと…しなくていいのに」


 彼は何も言わずに顔を近づけてくる。どうしょうもないので覚悟を決めて目を瞑った。


「…目閉じないで、俺の呼吸の真似して」


 すぅー……はぁー…………


 キスはされずに済んだ。…が、ほぼキスのようなものだった。彼が息を吐くたびにその風が唇に当たりもう突然死してしまうのではないかと思うほど俺の心臓はバクバクだった。

 けれども、不思議なことに焦燥感や不快感はなく呼吸を真似するのは確かに効果があった。おかげで過呼吸も治まりやっと落ち着けるようになった。


「…落ち着いた?」

「…は、はい、本当…すみません、、」


ぺこりと頭を下げる。


「…あーもうすぐ式だと思うけど休んだほうがいいんじゃね」

「あっ、じゃあそうします…」


 クフッと笑い、銀色の目を細める。何がそんなに面白かったのだろうか、俺の顔に何かついているのか…。


「じゃっ」

と彼が爽やかな笑顔で手を振る。そんなに親しい間柄じゃなくない?と思いながらもまたぺこりと会釈し保健室へ向かった─


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


(……入学式が昨日のことのように感じられるのにもう6月だなんて早いな、、)

 

 3限目歴史の授業が終わり、10分休みに入る。黒山瑞貴はいつもの如く鞄からラノベと呼ばれる本を開き、前回の続きを一人教室の隅っこで読み始める。

 あの入学式事件をきっかけに周りから腫れ物扱いされる…なんてことはなかったが、友達ができずに時間だけが過ぎていった。自分から話しかければいいだけでは?と思われるかもしれないが、既にできている友達グループの中に割って入る勇気もコミュ力も彼には持っていなかった。

 

 あとで知ったのだがこのS高の入学生のほとんどは隣のP町のP中から来ている人が多いようだ。

 女子からは最初の方たまに話しかけられたりもした。しかしどうしても学生服を着てる女子を見ると過去のトラウマを思い出す。医者に貰った薬のおかげで過呼吸になることはほとんど減ったが、依然緊張はするし怖いので避けるようになった。


 こうして完全に孤立したわけだが、ラノベがあるおかげで彼は退屈はしなかった。何より本を読んでいる間は孤独を忘れることができた。

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陰キャは異世界行っても陰キャな件について、〜せめてスキルとか欲しかった。 無林檎 @murinngo

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