ep FINAL「結着」


ピンポーン!


インターフォンの音が響き渡り、

玲也とほぼ同時に玄関に目を向けた。


き……来た!!


玲也はサッと片手を伸ばして私をさえぎった。


「本咲さん、僕の後ろにいてください」


キリッと向き直りながら玲也にそう言われ、

胸がキュッと締め付けられた。


ますます頼もしい……!!


玲也の後ろにピッタリくっつきながら、

そろりそろりと玄関のドアに向かった。


玲也は覗き穴を覗いて呟いた。


「あの男ですね……」


のぶ雄だ……。


「絶対にかぎ開けちゃ駄目ですよ」


玲也は振り返ってそう言った。


私がこくりと頷くと、

玲也は違和感を感じたように

「ん?」と、自分の足元を見た。



その途端。


「うぎゃあああああ!!!!」


玲也が、けたたましく発狂はっきょうした。

玲也の声に驚いて全身がビクッと震えた。


「きゃっ! な、何!?」


玲也は目をひんいて足元を指差して言った。


「ご、ご、ゴキブリだぁあああああ!!!!」


玲也の足元を見た。

そのデカさですぐに察した。


この前取り逃した……だ!!!


玲也は身をすくめて私の後ろに隠れ出した。

その姿はまるで……女子じょし!!?


「無理無理無理無理!!」


玲也はそう叫びながらパニックを起こしている。


こいつ……私をたてにしている!!

冗談じゃない!

私だってゴキブリ無理なのに!!


「えっ!? ちょ、ちょっとぉ!」


玲也は私の背中をぐいぐいと押し、

ガチャッとドアの鍵を開けてしまった。


「あぁっ!」


ドアの前には……のぶ雄!!


……が居たけれど、

玲也は目もくれず飛び出していった。


しかも靴下のまま……。


あっという間に玲也は消えた。

あまりのショックで声も出ない……。


さっきまでドキドキしていた自分が、

馬鹿らしくて……。



途端に、のぶ雄がじりっと一歩近づいてきた。


「きゃあっ!」


ドンと尻餅しりもちをついて後ろに倒れた。


そうだ……

あまりの玲也のなさけなさに気を取られて

のぶ雄のことを忘れていた!


腰が抜けて動けない……!


のぶ雄は片手を勢いよく振り下ろしてきた。


殺される……!

もう……だめ……っ……


ぎゅっと目をつむった……。



バァン!!!


大きな破裂音が響いた。


……あれ? 何も感じない??


ゆっくりと目を開けた。


「……えっ」


ゴキブリが、足元でつぶれている……。


のぶ雄が……退治たいじしてくれた……!?


そうわかった途端、

じわっと涙が込み上げてきた。


そっと見上げると、

のぶ雄があわあわと慌てふためきながら言った。


「す、す、すみませぇんっ!!!

叩くものが、他に無くて……

先生の本でゴキブリを潰してしまうなんて……」


のぶ雄は手に持っていた漫画本を

パンパンと何度も必死で手で払った。


漫画本の表紙には、

『本咲麗子』の名前……。


「……え……それ、私の漫画……」

……いや、

西だったんですね!!」

「えっ!?」


どうして、のぶ雄が私の漫画を……?


「ゴミ袋に捨てられてた絵が……

本咲先生の漫画の絵にそっくりだったんで……

俺、先生の漫画の大ファンなんですっ!!」


のぶ雄は今まで見たことのない、

やわらかな表情を浮かべていた。


……そうか。

今朝ゴミ捨て場で遭遇した時、

私が、一目散いちもくさんに逃げちゃったから……。


のぶ雄はポケットから、

するどとがったを取り出した。


「これ……サイン、頂けたらと思って」


のぶ雄はそう言って、

尻餅をついたままの私にそっと手を差し伸べた。


その仕草はまるで……王子様……!!



手をとった時にはもう、


のぶ雄に釘付くぎづけになっていた。



「よ、喜んでっ!!」



<end♡>

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【ゴキ恋♡】〜恋のキューピットはゴキブリ!?〜 ぐぅ @guunosyosai

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