ep3「疑惑」

*****


その夜。


ピンポーン。


……インターフォンが鳴った瞬間、

嫌な予感がして、そーっと覗き穴を覗いた。


ズボンのポケットに片手を突っ込んだ、

のぶ雄だ……。


ドアを開けたくない……。

でも、放置するのも怖い……。

きっと……似顔絵は、人違いだろう。

一瞬しか見てなかったし!


と、自分に言い聞かせてドアを開けた。


「はい……なんですか?」


そう聞いた瞬間、


ポケットから出しかけたのぶ雄の片手に

するどとがった物体がキラリと光った。


「ひっ!! な、ナイフ!?」


反射的にドアを閉めた。


ピンポーンピンポーンピンポーン!


インターフォンを連打れんだしている……!

体がふるええてきた。

さっき光ったのはきっとだ……


やっぱり……

指名手配中の強盗殺人犯だったんだ!!


「どどどどうしよう…………あれ?」


急に、静かになった……?


ピンポーン!


再びインターフォンが鳴って、

ビクッと身体が飛び上がった。


もう一度覗き穴を覗くと……


爽やかな笑顔で配達物を持った、

玲也が立っていた。


そうだ!

また玲也が配達に来てくれたらと……

日用品をネットでポチってたんだった!


救世主きゅうせいしゅ!!


すぐさまドアを開けた。


「こんばんは! あれ? 

本咲さん、今日髪型可愛いですね〜」

「あ……いやぁ〜……」


なんて、照れてる場合ではないんだけれど。


ハッと視線を感じて隣の方を見た。


半開きになった隣の家のドアの中から……

のぶ雄が半分顔を覗かせている!


「ひっ!」

「えっ? どうかしました?」


何も知らない玲也は不思議そうに首をかしげている。


こうなったら仕方ない……。


咄嗟とっさに玲也の腕を掴んだ。


「えっ……! 本咲さん?」


そして、驚いている玲也を

部屋の中に引っ張り入れた。


*****


こたつの前に玲也を座らせ、

指名手配犯の貼り紙について事情を話した。


「えぇっ、強盗殺人!?」

「はい……似顔絵がお隣さんにそっくりで……

ナイフも持ってるって……」

「それは危ないですね……」


玲也は真面目な顔つきで姿勢を正した。


「本咲さん、僕、しばらくここにいますよ!」


そう言って、玲也は少し距離を縮めてきた。

急に顔が近くなって、ドキッと心臓が高鳴った。


……頼もしい!!


玲也に見惚みとれていると、

私の手がこたつの上のマグカップに当たった。


ゴトッ。


「あ!」


思いっきりお茶がこぼれてしまった。


「ご、ごめんなさい!!」

「あっ、いえ、大丈夫……えっ??」


玲也の視線は、

こたつの上の描きかけの漫画に向いていた。


自分そっくりに書かれた男性キャラの絵を

玲也はじっと見ている。


そうだ……! 

うっかり置きっぱなしにしてしまっていた。

こんな形で見られてしまうなんて、

恥ずかし過ぎる……!!


「これ、もしかして僕のこと……」


玲也は、真剣な眼差しで

そっと私を見つめてきた。


見つめ合っていたら、

心臓が、ドキドキと高鳴って……


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